日本集中治療医学会雑誌
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20 巻, 1 号
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今号のハイライト
総説
  • 舘田 一博
    2013 年 20 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    今日,臨床現場でみられるほとんど全ての病原体において耐性菌が出現している。特に呼吸器科領域では,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,マイコプラズマなどの市中肺炎病原体から,院内肺炎の原因菌としての多剤耐性緑膿菌(multiple-drug resistant Pseudomonas aeruginosa, MDRP)やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus, MRSA),さらには基質拡張型β-ラクタマーゼやメタロβ-ラクタマーゼ産生菌の増加が大きな問題となっている。そして2010年,多剤耐性アシネトバクター(multiple-drug resistant Acinetobacter baumannii, MDRA)やニューデリー・メタロβ-ラクタマーゼ(New Delhi metallo-β-lactamase-1, NDM-1)産生菌の話題が大きく報道されたのは記憶に新しい。本稿では,多くの耐性菌の中から今最も注目されている耐性菌としてMDRP,MDRA,そして新たに出現したNDM-1産生菌に関する話題をいくつかご紹介したい。
原著
  • 山下 和人, 松田 祐典, 内野 滋彦, 遠藤 新大, 岩井 健一, 齋藤 敬太, 鹿瀬 陽一, 瀧浪 將典
    2013 年 20 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    【目的】ICU患者には,ICU退室後も予期せぬ院内死亡の危険性が存在する。そこで,当施設のICU退室後患者を調査し,院内死亡の危険因子を検討した。【方法】後方視的診療録調査。2006~2008年にICUに入室した患者のうち,48時間以内に退室,18歳未満,ICU再入室症例,ICU内で死亡,治療を差し控えてのICU退室を除いた570症例を対象とした。【結果】56症例が院内で死亡していた。独立した院内死亡の危険因子〔odds ratio(95%confidence interval)〕は,病棟からのICU入室〔2.69(1.22~5.96)〕,癌転移〔41.0(4.70~357)〕,血液悪性疾患〔9.71(2.26~41.7)〕,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアの上昇〔1.11(1.06~1.16)per point〕,再挿管の施行〔5.59(1.87~16.6)〕,人工呼吸器を装着してのICU退室〔3.19(1.31~7.80)〕であった。【結論】ICU退室患者の約1割が院内で死亡していた。
症例報告
  • 藤原 大輔, 福井 道彦, 小尾口 邦彦, 稲見 直子, 板垣 成彦, 中右 雅之
    2013 年 20 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    原因不明消化管出血(obscure gastrointestinal bleeding, OGIB)とは,消化管出血のうち上・下部消化管内視鏡検査を行っても出血部位が不明であるものをいう。今回,OGIBに対して行ったカプセル内視鏡(capsule endoscopy, CE)検査とダブルバルーン内視鏡(double-balloon endoscopy, DBE)検査にて回腸出血を同定できた症例を経験した。症例は72歳,男性。アスピリン内服中であった。下血を主訴として救急外来を受診した。上・下部内視鏡検査を施行したが出血源は不明であった。アスピリンの内服を中止したが下血が続くため,18日後にCE検査を施行し止血状態の多発性小腸潰瘍を認めた。その2日後にDBE検査で病巣の拡大を認めたため,緊急小腸切除術を施行した。病理診断は上腸間膜動脈分枝の血栓形成による虚血性腸炎であり,抗凝固薬休止との関連が示唆された。抗凝固薬の休止は血栓形成のリスクがあるので,その休薬期間を短くするためにも,OGIBには早期のCE検査を施行すべきである。
  • 干野 晃嗣, 西迫 良, 立石 浩二, 横山 健, 川名 信, 片山 勝之
    2013 年 20 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    オルニチントランスカルバミラーゼ(ornithine transcarbamylase, OTC)欠損症は,新生児期より高アンモニア(NH3)血症を反復する尿素回路異常症である。その急性期治療では血液浄化による速やかなNH3値の低下とアミノ酸インバランス是正のための栄養療法が重要である。今回,OTC欠損症による治療抵抗性の高NH3血症に対し,高流量持続的血液濾過透析(high-flow continuous hemodiafiltration, high-flow CHDF)が有効であった症例を報告する。症例は20歳代男性。1歳時にOTC欠損症と診断され,以降,高NH3血症を反復していた。今回も誘因なく意識障害が出現し,高NH3血症の診断で前医入院となった。血液浄化療法,タンパク制限を行ったがNH3値は低下せず,第10病日に当院ICUへ転院となった。転院2日後より透析液流量9 l/hrとするhigh-flow CHDFを施行することで速やかにNH3値は低下し,意識も改善,第32病日に血液浄化を離脱し第67病日に脳死肝移植術施行となった。
  • 田中 睦郎, 岡本 実, 釜田 いずみ, 村田 英隆, 櫻井 聖大, 瀧 賢一郎, 毛井 純一
    2013 年 20 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    薬物乱用において,静脈注射として使用する覚醒剤に関しては感染性心内膜炎(infective endocarditis, IE)の危険性が挙げられる。IEは弁膜症などを有する患者の観血的処置によって起こりやすいとされるが,静注薬物常用者では正常弁でも発症するとされる。そのため若年者のIEでは,本邦でも麻薬静注使用を考慮する必要がある。今回,覚醒剤常用者に発症したIEを経験したので報告する。症例は20歳女性,僧帽弁に疣贅を有するIEと診断され抗菌薬加療を開始したが,入院14日後に僧帽弁逆流の急性増悪による心不全を合併した。心不全加療後の入院17日目に僧帽弁置換術と三尖弁形成術を施行した。術後は幻覚などの精神症状を認めたが,術後脳出血の合併症は認められず,術後49日目に退院となった。現在,術後6ヶ月が経過し,心臓血管外科および精神科の外来通院中であるが,IEの再燃はみられない。
  • 岡本 明久, 小野瀬 亜樹, 梅垣 岳志, 浜野 宣行, 山崎 悦子, 阪本 幸世, 西 憲一郎, 新宮 興
    2013 年 20 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    妊娠を契機にして発症した血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)の症例を経験した。妊娠23週の37歳の女性で意識障害,重度の貧血,血小板減少が見られ入院となった。A disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif, member13(ADAMTS13)活性の低値,ADAMTS13インヒビター陽性を認めたため,血漿交換を6回施行した。ステロイドパルス療法,抗血小板薬の投与も行ったところ,速やかに血小板数増加とADAMTS13活性の改善を認め,インヒビターも陰性となった。その後定期的にADAMTS13活性を測定したが,低下は認められず,再発を疑わせる所見はなかった。ADAMTS13活性の定期測定がTTPの管理や血漿交換の適用の判断にも有用であった。
  • 関野 元裕, 一ノ宮 大雅, 東島 潮, 吉富 修, 中村 利秋, 古本 朗嗣, 槇田 徹次, 澄川 耕二
    2013 年 20 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    症例は,73歳,女性。性器出血,発熱,血圧低下を来し当院へ搬送された。赤色尿を呈し,生化学検査上,総ビリルビン(total bilirubin, T-Bil)7.6 mg/dl,AST 77 IU/l,LDH 589 IU/lと上昇を認め溶血を疑った。膣からの膿の鏡検,腹部CT所見より,Clostridium属による子宮ガス壊疽と診断した。ショックに対する初期治療および子宮摘出術を施行し,その後vasopressin投与,ステロイド補充,人工呼吸管理および血液浄化などの集中治療を行った。第3病日にはT-Bil 30.9 mg/dl,AST 2,751 IU/l,LDH 5,898 IU/lと高度の溶血を認めたが,以後全身状態は改善し,ICU退室となった。血液・膿培養からはC. perfringensが検出された。溶血は本菌による菌血症を伴った敗血症(septicemia)に特徴的だが,併発した場合の致死率は非常に高い。救命には早期診断と集中治療が不可欠である。
  • 梶原 千世里, 藤本 寛子, 山口 嘉一, 水田 菜々子, 伊藤 純子, 山田 宏, 山口 修
    2013 年 20 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    症例は,54歳,男性。1型糖尿病,慢性腎不全で腹膜透析を導入していた。入院当日,自宅前で倒れているところを発見され,当院に救急搬送となった。来院時は軽度の意識障害があり,血液検査上,血糖値1,452 mg/dl,血清Na濃度 107 mmol/lと高血糖,低Na血症があり,代謝性アシドーシスと炎症反応マーカーの上昇を認めたことから,感染を伴う糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis, DKA)と診断し,全身管理目的でICU入室となった。透析中の無尿症例であるため,一般的な初期治療として推奨される輸液負荷は危険と考え,心臓前負荷の評価を行い,維持輸液量で治療を開始した。また,1時間毎に血液ガス分析で,電解質,血糖値を測定し,緩徐に電解質,血糖値の是正を行い,第3病日から血液透析に移行した。慢性腎不全患者のDKAに対し,初期治療の結果を頻回に評価して電解質および血糖値を緩徐に補正することで,神経学的合併症なく軽快退院できた。
  • 朱 祐珍, 小尾口 邦彦, 福井 道彦, 新里 泰一, 阪口 雅洋, 板垣 成彦, 稲見 直子, 藤原 大輔
    2013 年 20 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性。2型糖尿病でメトホルミン内服中であった。酒石酸ゾルピデムの大量内服後に乳酸アシドーシスを発症しICU入室となった。入室後,輸液などによるアシドーシス補正中に胸痛を訴えた。超音波検査で心尖部の収縮低下を認め,たこつぼ心筋症が疑われた。第4病日には壁運動異常は著明に改善し,たこつぼ心筋症と診断した。経過良好で第9病日にICU退室となった。メトホルミンによる乳酸アシドーシスは,稀だが致死的な合併症である。本症例においては酒石酸ゾルピデムの大量内服による低酸素状態がメトホルミンによる乳酸アシドーシスを発症する契機の一つとなった可能性が考えられた。また,アシドーシスによる身体的ストレスや自殺企図にまで至った精神的ストレスによって,たこつぼ心筋症を続発したと考えられる。
  • 小野 雄一, 有馬 大輔, 太田 好紀, 鈴木 剛, 松本 学, 白石 振一郎, 尾本 健一郎, 横田 裕行
    2013 年 20 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    発症後急速に悪化し,画像所見よりWaterhouse-Friderichisen症候群(Waterhouse-Friderichsen syndrome, WFS)が疑われた乳児症例を経験したので報告する。症例は6ヶ月,男児。意識障害にて救急搬送された。当初,経過と頭部CT所見から低酸素脳症と診断した。入室時より高カリウム血症,低血糖,代謝性アシドーシスを認め,ショックが遷延していたが,血行動態を安定させることができたため脳保護目的で低体温療法を開始した。入室8時間後より血行動態などが急激に悪化し,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC)の所見を認めた。そこで感染症を強く疑い,低体温療法を中止し抗菌薬投与を開始した。感染源精査のため全身のCTを撮像したところ腹部CTにて両側の副腎出血を認め,WFSを疑いステロイド大量投与などの治療を行ったが,治療に反応することなく入室29時間後に死亡した。乳児の感染症へのアプローチ,低体温療法の適応などを考えさせられる症例であった。
  • 鯉沼 俊貴, 布宮 伸, 和田 政彦, 田中 進一郎, 小山 寛介
    2013 年 20 巻 1 号 p. 56-60
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    神経因性食思不振症(anorexia nervosa, AN)に気管チューブによる気管食道瘻(tracheoesophageal fistula, TEF)が合併した症例の報告はこれまでにない。腹膜炎術後のANの28歳女性(body mass index, BMI=9.6)が,敗血症や再栄養症候群による多臓器障害のため,長期人工呼吸中に気管チューブによるTEFを合併した。大量のエアリークを許容した高頻度陽圧換気により,TEFの増悪なく誤嚥性肺炎を制御でき,多臓器障害から脱した。炎症反応の軽快後に気管切開を行い,可変長式の気管切開チューブでカフをTEFの尾側に位置させ,気道分離を約3年間継続した。栄養状態の改善を待って外科的TEF閉鎖を行い,治癒した。人工呼吸中のANに合併したTEF治療は極めて困難であり,慎重なカフ圧管理とともに,再栄養症候群などの人工呼吸を長期化させやすい合併症の予防が重要である。
  • 島田 忠長, 松田 兼一, 森口 武史, 針井 則一, 後藤 順子
    2013 年 20 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の男性,胃潰瘍の診断で当院に入院となった。保存的に治療を行ったところ,胃潰瘍の改善を認めたため,経腸栄養を開始した。同日の夜間より発熱,粘血便混じりの下痢が出現し,尿量の低下が認められた。翌日の腹部単純CT画像上で門脈ガスを認めたものの,腹部所見に乏しく,保存的に経過観察とした。6時間後に腹部造影CTを再度施行したが,画像上明らかな腸管虚血や壊死は否定的であり,門脈ガスも消失していた。しかし,急激な全身状態の悪化や外科的処置の必要性も懸念されたことから,ICU入室とし,保存的治療を継続した。その後,全身状態は改善し,第4 ICU病日に一般病棟に転棟となった。後日,ICU入室時の血液培養からAcinetobacter baumanniiが検出されたものの,腸管以外に明らかな感染巣を認めないことから,bacterial translocationに合併した門脈ガス血症の診断に至った。
  • 板垣 大雅, 奥田 菜緒, 綱野 祐美子, 小畠 久和, 中瀧 恵実子, 小野寺 睦雄, 今中 秀光, 西村 匡司
    2013 年 20 巻 1 号 p. 66-69
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    低体温療法中に体温低下に相関してヘモグロビン(Hb)値の変化をきたした3症例を経験したので報告する。【症例1】Brugada症候群で心肺停止となった31歳男性。36.9℃から33.8℃への冷却中にHb値が16.3 g/dlから20.7 g/dlに上昇した。復温に伴ってHb値は低下し,48時間後に15.8 g/dlとなった。【症例2】下顎歯肉癌術後に気道閉塞で心肺停止となった86歳男性。37.3℃から30.7℃への冷却中にHb値が10.3 g/dlから12.8 g/dlに上昇し,復温に伴い10.5 g/dlに回復した。【症例3】自宅にて心肺停止となった3カ月女児。来院時から33.6℃の低体温を認め,48時間後に復温すると,Hb値は12.2 g/dlから9.8 g/dlに低下した。低体温療法は蘇生後脳症に対して神経学的予後を改善する目的で行われるが,様々な合併症も引き起こす。循環血液量減少による血液濃縮は重要な合併症の一つであり注意が必要である。3症例とも水分バランスが正で体重減少も見られなかったことから,血漿成分の血管外漏出が生じたと考えられる。
  • 水 大介, 徳田 剛宏, 林 卓郎, 渥美 生弘, 有吉 孝一, 佐藤 愼一
    2013 年 20 巻 1 号 p. 70-74
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    外傷治療では経過中に新たな損傷が明らかになることがある。特に胸腹部外傷の臨床診断の遅れは致命的になる。2009年4月~2010年7月に当院入院後,遅発性に顕著化した胸腹部損傷に対し緊急手術を要した多発外傷患者は6症例あった。平均年齢は54±22歳。Injury severity score(ISS)は19~43であり,受傷機転は交通外傷4例,高所転落2例であった。Delayed injuryの内訳は横隔膜損傷3例,肋間動脈損傷2例,腸間膜損傷1例であり,循環呼吸状態の悪化が認識されるまでは5~95時間を要していた。2例は死亡した。多発外傷では初療時に全ての損傷を認知することは難しく,遅発性に顕著化してくる損傷を完全に防ぐことは困難である。肋間動脈損傷や横隔膜損傷はその主な原因と考えられる。多発外傷の集中治療管理では,初療時の損傷のみでなく,多発肋骨骨折などの遅発性損傷のriskを認識した全身管理が重要になる。
  • 水谷 敦史, 加藤 俊哉, 中山 禎司, 本城 裕美子, 影山 富士人, 森 弘樹, 小澤 享史, 吉野 篤人
    2013 年 20 巻 1 号 p. 75-79
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    重症の急性鉄中毒により死亡した稀有な症例を経験したので,考察を踏まえ報告する。症例は23歳,女性。鉄欠乏性貧血の既往があり,処方されていた鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウム)を意図的に過剰服用し,当院に救急搬送された(推定摂取量2,400 mg)。当院来院時の症状は傾眠・腹痛・嘔吐であり,非重症の鉄中毒症例と思われたが,その後進行性に悪化し意識障害が出現,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC)となった。デフェロキサミン投与,輸血療法,血漿交換,持続的血液濾過透析などの集中治療を行ったが,最終的に肝不全とその合併症(DIC・脳浮腫)により死亡した。急性鉄中毒重症例では,肝不全が完成した後に集中治療を開始してもその効果は乏しく,肝不全の発症予防および重篤化防止が重要であると考えられる。そのために,治療開始初期から消化管除染・デフェロキサミン投与・急性期血液浄化法などの集中治療を行うことが必要であると考えられた。
  • 多田羅 康章, 内藤 嘉之, 奥谷 龍
    2013 年 20 巻 1 号 p. 80-82
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    食道がん術後に上室性不整脈が出現した8症例を対象に,塩酸ピルジカイニド0.75 mg/kgを10分間で静脈内投与した。投与直前~投与開始後8時間に血漿中濃度測定を行い,2-compartment modelを用いて薬物動態学的変化を検討した。食道がん術後患者の最高血中濃度は2.07±0.59μg/mlであり,これは健常人より有意に高い値であった。またα相半減期の著明な延長と,定常状態分布容積および末梢コンパートメント容積の有意な減少が認められた。以上より,食道がん術後患者では塩酸ピルジカイニドの薬物動態が大きく変化しており,通常用量の単回静脈内投与で抗不整脈作用のための至適血中濃度を超えることが明らかとなった。また,効果が認められない場合の安易な追加投与は,刺激伝導障害や心室性不整脈などを誘発することが予想されるため,避けるべきと考える。
  • 佐藤 智洋, 七戸 康夫, 硲 光司, 笠井 丈博
    2013 年 20 巻 1 号 p. 83-87
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    A群β溶血性レンサ球菌肺炎が劇症化し,さらに急性膿胸を合併して治療に難渋した症例を経験したので報告する。症例は27歳,女性。生来健康。2011年1月下旬より感冒症状あり,近医で内服治療を受けていた。2月に近医を受診し急性咽頭炎の診断を受けたが,夜間になって呼吸苦が出現し急性肺炎と診断され緊急入院となった。翌日,多臓器障害の進行を認めたため,当院救命救急センター転院となった。臨床所見,検査結果から劇症型溶血性レンサ球菌感染症と診断,治療を開始した。その後,全身状態は安定したが,急性膿胸の合併を認めた。胸腔ドレナージを施行したが改善せず,第19病日に胸腔鏡下膿胸腔掻爬術を施行した。胸膜肥厚による肺拡張障害を認めたが,徐々に改善し第35病日に退院となった。肺炎に起因する劇症型溶血性レンサ球菌感染症では,急性膿胸の併発を念頭に置く必要があるが,その早期治療に関しては今後さらなる検討を要する。
短報
レター
委員会報告
  • 日本集中治療医学会“心肺蘇生ガイドライン”改定作業委員会, JRC(日本版)ガイドライン作成合同委員会
    2013 年 20 巻 1 号 p. 105-117
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    JRC蘇生ガイドライン2010は,2010年に公開されたCoSTR(International Consensus Conference on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations,心肺蘇生と緊急心血管治療の科学についての国際コンセンサスと治療推奨)を基準として,その後公表された文献および我が国の業績を追加し,日本蘇生協議会・日本救急医療財団のJRC(日本版)ガイドライン作成合同委員会にて2011年秋に作成,公表された。日本集中治療医学会は,“心肺蘇生ガイドライン”改定作業委員会を設け,第2章 成人の二次救命処置(ALS)の中の[8]心拍再開後の集中治療および[9]予後判定の部分を担当したので,ここに転載する。
  • 日本集中治療医学会社会保険対策委員会
    2013 年 20 巻 1 号 p. 118-123
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    診療報酬制度において医療サービスが適正に評価されることは,効率的で質の高いサービスを継続的に提供するために不可欠である。そこで,日本集中治療医学会社会保険対策委員会では,既存データを用いて集中治療領域の収入と原価を比較し,集中治療領域の診療報酬が適正か否かを検討した。また,施設・患者要因の視点を考慮した解析も実施した。その結果,ICUは基本的に原価割れした状態であり,当学会認定研修施設,入院中死亡症例や血液・造血器・免疫臓器疾患のmajor diagnostic category(MDC)13,小児疾患のMDC15,敗血症をはじめとしたその他の疾患のMDC18の症例で,赤字額が特に大きくなる傾向があった。高額な医療資源が投入されるICUにおいて,適正な診療報酬体系が構築されていない場合,重症患者をはじめとした社会全体への影響度は大きい。適正な診療報酬体系の構築に向け,当学会も主体的かつ適切に行動する責務がある。
  • 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会
    2013 年 20 巻 1 号 p. 124-173
    発行日: 2013/01/01
    公開日: 2013/04/23
    ジャーナル フリー
    本ガイドラインは,2007年3月に発足した日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会が作成した敗血症診療ガイドラインである。本ガイドラインは,欧米で作成されたSurviving Sepsis Campaign guidelines(SSCG)で取り上げられていないわが国独自の治療法や,日本と欧米で見解の相違のある治療法を主に取り上げ,原則としてエビデンスに基づいて作成された。その作成方法はSSCG2008に準じているが,わが国独自の治療法に関しては日本語文献も参考にするとともに,同委員会が日本集中治療医学会認定施設を対象に行った2回のSepsis Registry調査の結果を参考にした。本ガイドラインはわが国初の敗血症に関する独自のガイドラインであり,臨床現場で適切に活用されることが期待される。
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