日本集中治療医学会雑誌
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31 巻, 6 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
編集委員会より
今号のハイライト
学会創立50周年記念特集
  • 相嶋 一登
    原稿種別: 総説
    2024 年31 巻6 号 p. 537-543
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    1950年代以降,医療現場には医療機器が多く導入されるようになり,医療機器の操作および保守点検を行う医療専門職種が必要となった。日本ME学会(現 日本生体医工学会)など関係学会が政府に働きかけることにより,1987年に臨床工学技士法が成立し,1988年に施行された。2021年には臨床工学技士法が改正され,集中治療室においては静脈路確保や薬剤投与が可能となった。 臨床工学技士は医師の指示の下に生命維持管理装置の操作を行うことができるとされているが,具体的な業務内容については規定されておらず,社会通念に照らして判断することが相当であるとされている。臨床工学技士が医行為を行うには医師からの指示が必要であるが,臨床工学技士が行う医行為の基礎となる学問を医師が習得しているとは限らない。したがって,医行為の実施については医師から臨床工学技士に対する一方向の指示だけではなく,臨床工学技士からの相談,提案に基づく双方向コミュニケーションが必要となる。

  • 對東 俊介
    原稿種別: 総説
    2024 年31 巻6 号 p. 544-549
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    ICUにおける理学療法は,かつては人工呼吸管理中や周術期の急性呼吸不全患者に対する胸部理学療法が中心であった。2000年代後半からは胸部理学療法に加えて,早期離床と運動療法の重要性が強調されている。国内の集中治療領域で行われている早期リハビリテーションは経験的に行われていることが多かったが,2017年に発表された「集中治療における早期リハビリテーション〜根拠に基づくエキスパートコンセンサス〜」により標準的な治療指針が提示された。2018年に新設された早期離床・リハビリテーション加算はICUでの理学療法の普及に貢献した。今後は,ICUに入室する主な疾患群ごとの理学療法の効果の検証やICU に入室する高齢患者への理学療法の効果に関する科学的根拠の蓄積が必要である。

  • 今村 浩
    原稿種別: 総説
    2024 年31 巻6 号 p. 550-558
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    機械的循環補助(mechanical circulatory support, MCS)は,重症心不全や心原性ショックの有効な治療法として広く用いられている。一方,MCSの従来治療に比べた優位性を証明した質の高い研究は少なく,多くはエキスパートコンセンサスに基づいて使用されているのが現状である。心原性ショックの病態は多様なため,全ての患者に奏功する単一の治療手段はない。このためMCSの使用に際しては,患者の重症度や病態を把握したうえで,導入の可否とその種類を個別にかつ迅速に判断する必要がある。今後,「どのMCSを,どの患者に,どのタイミングで」適用すると有効なのかを明らかにする,質の高いエビデンスの創出が望まれる。

総説
  • 髙橋 伸二
    原稿種別: 総説
    2024 年31 巻6 号 p. 559-565
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    心臓手術後の心停止は5%弱に発生し,心停止の原因は,致死的不整脈,出血性ショック,心タンポナーデ,徐脈などである。術後の心停止はICUで発生することが多く,心停止時のバイスタンダーが医療従事者であるので蘇生率は高い。しかし,手術後間もない時期の胸骨圧迫は縫合したグラフトおよび大動脈損傷や心破裂の危険があるため,心臓手術後の心停止では通常の心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation, CPR)の手順と異なり即座の胸骨圧迫が推奨されない。ガイドラインでは1分間の胸骨圧迫を回避する蘇生介入が許容されており,その対応と同時に,再開胸術の準備を進める。1分間の対応で心拍が再開しない場合は,やむを得ず胸骨圧迫を開始する。胸骨圧迫は収縮期血圧60 mmHgを目標とする。 発見後1分間の対応では,ショック可能なリズムに対しては3回連続のショックを実施する。 ショックが有効でない高度徐脈と心静止の場合は,術中に挿入したペーシングリードを用いたペーシングを優先する。1分間の介入が不成功に終わったら,5分以内に再開胸による開胸心マッサージを開始する。術後10日目以降の場合にはその場での再開胸は推奨されない。心臓手術後心停止への対応では,シミュレーショントレーニングが有効である。

  • 小島 将裕, 清水 健太郎, 小倉 裕司
    原稿種別: 総説
    2024 年31 巻6 号 p. 566-573
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    腸内細菌は宿主の代謝や免疫と密接な関連を持つ。多大な侵襲を受けると腸内では偏性嫌気性菌を中心とした常在細菌の数および割合がともに減少し,病原細菌が増加する。この変化に加え,bacterial translocationの増加や免疫能の変化などから腸管由来の全身性炎症が引き起こされる。これに対して,選択的消化管除菌・プロバイオティクス/シンバイオティクス療法・腸内細菌叢移植などの腸管内治療が行われ,有効性も示されている。また,腸内細菌株カクテル療法やファージセラピーなど腸内細菌をターゲットとした新たな腸管内治療も期待されている。本総説では腸内細菌と宿主との関係を概説し,重症患者の腸内細菌叢の特徴を述べ,腸管内治療の現状と展望をまとめる。

原著
  • 牧野 駿介, 柿崎 隆一郎, 小野 愛梨, 多田 久美子, 中川 裕一, 石井 祥子, 成松 英智
    2024 年31 巻6 号 p. 575-581
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    【目的】体温管理療法中における四肢末梢に限定したskin counter warming(SCW)の効果について検証する。【方法】2020年1月から2022年3月にextracorporeal membrane oxygenation(ECMO)または血管内冷却装置を用いて体温管理療法を実施した18歳以上の患者を対象とした。無作為にSCW群とnon-SCW群の2群に分け,ブランケットが手掌・足底のみに接触するようにし,SCW群には温風を,non-SCW群には室温の空気を送気した。1時間ごとにシバリングの有無を評価し,介入後24時間における両群のシバリング発生回数を検証した。【結果】39例(SCW群 20例,non-SCW群19例)が解析対象となった。年齢の中央値は60歳[IQR 52〜73歳],患者背景に差は見られなかった。四肢皮膚末梢温は8時間以降でSCW群において有意に上昇が見られたものの,介入後24時間におけるシバリング発生回数に差は見られなかった(SCW群 中央値1.5回[0〜7]vs. non-SCW群 6回[1〜11],P=0.18)。 また,8時間ごとのシバリング発生回数とbedside shivering assessment scale,24時間での鎮静・鎮痛薬の投与量にも差はなかった。【結語】体温管理療法中に発生するシバリングに対して,四肢限定SCWは抑制効果を示さなかった。

  • 高橋 和成, 亀田 慎也, 藤井 智子
    2024 年31 巻6 号 p. 582-589
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    【目的】持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy, CRRT)中の抗凝固薬としてナファモスタットメシル酸塩(ナファモスタット)が普及している。しかし,その使用方法や期待されるフィルターライフのデータは乏しく,経験的に使用されている。そこで,情報を系統的かつ網羅的に収集し調べることにした。【方法】2023年12月にMEDLINE,Embase,Cochrane EBM Reviews,医学中央雑誌を検索し,CRRTにナファモスタットを使用した文献を対象として,スコーピングレビューを行った。【結果】32編の文献が対象となった。 フィルターライフは11.8〜54.6時間の範囲でばらついていた(重みづけ平均 34.1時間)。ナファモスタットの投与量は10〜40 mg/hrであり,ACTを指標にして,150〜170秒程度を目標としている文献が多かったが,調整の有無や方法はさまざまであった。【結論】ナファモスタットの投与量・抗凝固機能の指標はさまざまで,フィルターライフは約34時間であった。

症例報告
  • 和田 沙江子, 松本 充弘, 堺 奈生美, 池村 彩華, 丸山 直子, 福並 靖崇, 田中 成和, 平尾 収
    原稿種別: 症例報告
    2024 年31 巻6 号 p. 591-594
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル フリー

    胆管気管支瘻は胆汁が気管支に流出する稀な疾患であり,化学性肺炎を引き起こし治療に難渋する場合が多く,治療法は確立されていない。今回我々が経験した症例は82歳,男性。 肝細胞癌治療後に胆管気管支瘻を発症し,慢性気道感染を繰り返していた。横隔膜ヘルニアを併発しており,手術侵襲や合併症のリスクを考慮して外科的根治術は困難であると判断した。姑息的に胆管外瘻チューブを留置していたが,チューブ閉塞に伴い胆汁流出による化学性肺炎を発症した。呼吸状態が悪化したためICUに入室し,健側肺保護のためにダブルルーメンチューブを用いて分離肺換気で管理した。胆管外瘻チューブを交換後,気管支鏡で胆汁流出の程度を評価しながら人工呼吸器設定や体位交換,経腸栄養開始時期などを検討することで肺炎増悪を防ぎ良好な経過を辿った。胆管気管支瘻による化学性肺炎では,外瘻を確立させて速やかに胆汁流出量を減少させ,分離肺換気で健側肺を保護することが重要である。

短報
学会創立50周年記念特集
  • 吉廣 尚大
    2024 年31 巻6 号 p. 600-606
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/01/10
    ジャーナル フリー

    薬剤師はICUに入室した患者をケアする多職種チームにおいて重要な一員である。「集中治療室における薬剤師の活動指針」では,ICUにおける薬剤師の業務・役割の水準を一定に維持することが期待されている。薬学的ケアは,回診に参加することや,薬物治療の手順を作成し,それを遵守してもらうことで,患者のアウトカムを改善するかもしれない。しかし,薬学的ケアを行うための体制の多様さが,患者アウトカムのばらつきを生じる原因となることが懸念される。薬剤師のみならず薬学生への集中治療医学に関する体系的な教育とともに,薬学的ケアの適切な指標を示し,継続的に改良していくことは,ICU薬剤師の継続的な進化につながる可能性がある。今後期待されるICU薬剤師の進化は,適切な薬物療法を提供するだけでなく,患者の転帰のさらなる向上に寄与することである。

  • 諸橋 優祐, 江川 悟史
    2025 年31 巻6 号 p. 607-615
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/17
    ジャーナル フリー

    頭部外傷や脳卒中などの一次性脳損傷は,脳浮腫や発作など複雑な病態変化を起こし,脳損傷がさらに拡大することで二次性脳損傷が生じる。脳は脆弱な臓器であり,短時間で不可逆性の変化に至るため,頭蓋内圧や脳波などの複数の指標で脳を多角的にモニタリングするcerebral multimodality monitoring(MMM)により,複雑な病態変化を把握することが求められる。それにより,画像検査や治療のタイミングを適正化し,二次性脳損傷から脳を保護することが可能であると考えられている。しかし,MMMに用いられる機器やその使用法は標準化されておらず,本邦で利用できる機器にも制限がある。本稿では文献的考察を中心に,個々の機器の特徴を概説する。

  • 川口 敦
    2025 年31 巻6 号 p. 616-623
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/17
    ジャーナル フリー

    小児集中治療医学分野では,患者の不均一性,希少性,意思決定能力,成長発達の考慮,代諾者を介することなどによる倫理的制約,さらに研究助成金を含む研究リソースやサポート不足などを理由として,新生児あるいは成人集中治療領域に比べ質の高い研究の実施低迷が指摘されてきた。そして,小児集中治療医自身の研究に対してのマインドセットもまた,大きく影響をしているとされる。分野萌芽期以降,知識や経験の伝達,共有に教育や研究の価値の重心が置かれ,新たな知識の創造はマイナーな活動となってきた。医師自身も専門家として,学術的活動を「標準診療の一部」と認識し,同分野の学術的成熟へ寄与することに価値の一部を移行すべきである。今後の小児集中治療医学研究の可能性を,データ利活用と人工知能,多施設や国際共同研究の実践,そして持続可能な医療を念頭に置いた課題立案における課題とその解決策を中心に記述する。

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