日本集中治療医学会雑誌
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19 巻, 1 号
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今号のハイライト
総説
  • 小竹 良文
    2012 年 19 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    人工呼吸器関連肺炎の病態には,気管チューブ周囲からのマイクロアスピレーションおよび気管チューブ表面のバイオフィルム形成が深く関与している。人工呼吸器関連肺炎を予防するための手段として,定期的なカフ圧の調節,声門下吸引などの手段がガイドラインなどにも取り上げられている。さらに,カフ素材および形状の変更,気管チューブ表面の抗菌薬コーティングなどの有用性が報告され,実際に臨床使用が可能になりつつある。
  • 江木 盛時, 森田 潔
    2012 年 19 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【背景】重症患者に施行される解熱処置について,その有益性は明らかでない。【方法】解熱処置が重症患者に与える影響に関して系統的レビューを行う。【結果】解熱処置が重症患者に与える影響を検討した研究は16文献あった。これらの文献から以下の見解を得た。(1)解熱効果は大きくばらついている。(2)解熱処置開始体温は統一されていないが, 半数の文献で38.5℃としている。(3)解熱処置で体温が低下すれば,心拍数・分時換気量・酸素消費量が減少する。(4)薬物を使用した解熱処置により血圧が低下する。(5)解熱薬による生理学的パラメータの改善が,患者予後の改善をもたらすかを十分な検出力で検討した介入試験は存在しない。【結語】解熱処置により呼吸・循環・代謝負荷が軽減されるが,解熱処置の臨床的予後改善効果を示した研究は存在しない。解熱処置の有益性・有害性について結論を出すためには,異なる解熱戦略を比較した無作為化比較試験が必要である。
  • 藤井 康彦, 稲葉 頌一, 稲田 英一
    2012 年 19 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    輸血後移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)は免疫不全の患者にのみ発症すると考えられていたが,原病に免疫不全のない患者でも,human leukocyte antigen(HLA)一方向適合を主要な条件として発症することが明らかになった。日本人はHLAの多様性が少ないため,輸血後GVHD発症のリスクが高い。日本輸血・細胞治療学会は1992年に初めて「輸血によるGVHD予防のための血液に対する放射線照射ガイドライン」を公表し,2010年に4度目の改訂を行った。2000年以降,放射線照射血液製剤による輸血後GVHDの確定症例は確認されなくなった。しかし,2007年と2010年に日本輸血・細胞治療学会が実施した「輸血業務に関する総合アンケート調査」では,放射線未照射製剤を使用した施設が少なからず存在した。放射線照射ガイドラインによる予防対策は効を奏しているが,輸血後GVHDの重篤性や予防の必要性に対する認識が薄れる懸念があり,認識不足による予防の不徹底からの輸血後GVHDの発症は回避されるべきである。
原著
  • 西田 傑, 萩岡 信吾, 内藤 宏道, 杉山 雅俊, 森本 直樹
    2012 年 19 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【目的】急性上腸間膜動脈閉塞症の予後に関わる因子を検討する。【方法】当院で経験した急性上腸間膜動脈閉塞症症例27例を28日生存群と死亡群に分け,患者背景,血液検査所見,所要時間を予後に関わる可能性のある因子として抽出した。【結果】死亡群では,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコア18.2±6.4,乳酸値8.1±4.3 mmol/l,クレアチニン2.3±1.1 mg/dlが生存群に対して有意に高値だった。症状発現から治療開始までの時間は死亡群,生存群ともに15時間で変わらなかった。【結論】症状発現から治療開始までの時間は予後とは関わっておらず,クレアチニン,乳酸値が予後の指標として使用できる可能性が考えられた。
  • 柳井 真知, 藤谷 茂樹, 渡邉 周子, 中沢 恒太, 林 宏行, 若竹 春明, 森澤 健一郎, 平 泰彦
    2012 年 19 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【目的】治療開始48時間後にテイコプラニン(teicoplanin, TEIC)の有効トラフ濃度を得るローディングとその安全性の検討。【方法】ICUのmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染症およびその疑い患者を対象とした。48時間後の目標TEICトラフ濃度を15μg/ml前後と設定し,体重とクレアチニンクリアランス(creatinine clearance, CrCl)から1回投与量を決定できるノモグラムを用いて,1日2回2日間,計4回のローディングを施行した。【結果】73例の1回平均投与量は472.6±11.4 mg(8.2 mg/kg),総ローディング量1,890±251.8 mg,48時間後の平均トラフ濃度は17.1±5.8μg/mlであり,腎機能障害などの重篤な副作用は認めなかった。【結論】ノモグラムにより迅速にローディング量を決定でき,腎機能障害などの重篤な副作用を認めることなく安全かつ早期に治療有効トラフ濃度に到達可能である。
  • —長野県立こども病院小児集中治療室における過去10年の死亡例を振り返って—
    赤嶺 陽子, 黒坂 了正, 庄司 康寛, 小田 新, 長澤 眞由美, 阿部 世紀
    2012 年 19 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【目的】当院小児集中治療室(pediatric ICU, PICU)で過去10年間に死亡した症例の中から,脳死下臓器提供者となりうる例の発生頻度を検討する。【対象と方法】単施設における後方視的検討。対象は2001年1月1日~2011年1月31日に当院PICUで死亡した症例。これらの症例から,診療録を用いて「脳死とされうる状態」,「小児法的脳死除外例」,「脳死下臓器提供者となりうる例」を臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)に則って選定した。【結果】総入室患者3,031人中,死亡患者100人であり,「脳死とされうる状態」と判定した患者は31人,「小児法的脳死除外例」は18人,「臓器提供者となりうる例」は13人であった。「臓器提供者となりうる例」13人の死因は,低酸素脳症6人(46%),脳梗塞4人(31%),頭蓋内出血3人(23%)であった。【結論】当院PICUで死亡する患者の13%(総入室患者の0.4%)が改正臓器移植法における「臓器提供者となりうる例」と思われた。
症例報告
  • 南 仁哲, 祖父江 和哉, 間渕 則文, 藤田 義人
    2012 年 19 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    近年,医療関連感染の原因菌として注目されているAcinetobacter属は,易感染患者への日和見感染が多い。今回我々は,末梢静脈カテーテルからのAcinetobacter血流感染で集中治療を要した症例を経験したので報告する。患者は69歳男性で,上部消化管出血のため入院した。入院時に確保した末梢静脈カテーテル留置部に発赤を認め,抜去したものの全身状態が悪化し,ICU入室管理となった。入室時は敗血症性ショック,播種性血管内凝固,急性腎不全を来しており,血液培養からAcinetobacter baumanniiが検出された。集学的治療により全身状態は改善し,第36病日に独歩退院した。Acinetobacter属は抗菌薬に多剤耐性を獲得している場合があり,このような耐性菌がICUを中心としてアウトブレイクする報告が相次いでいる。末梢静脈カテーテルからの血流感染は報告が稀であるが,本症例のように易感染状態ではない患者に血流感染を起こす場合もあることから,日常的な感染予防策や,耐性を獲得させないための抗菌薬の適正使用が重要である。
  • 安田 治正, 米本 俊良, 三嶋 正芳
    2012 年 19 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【目的】ポリミキシンB固定化カラムによる直接血液灌流法(polymyxin B immobilized fiber column direct hemoperfusion, PMX-DHP)の臨床成績を後方視的に解析し,本治療の予後関連因子を考察した。【方法】敗血症性ショックに,PMX-DHPを施行した29例を対象とした。感染部位,原因菌のグラム染色別に治療成績を比較した。循環動態の改善をカテコラミン使用量にて評価した。【結果】生存率は66%(19/29例)。感染部位別では,肺3/8例,腹部1/4例,原発不詳6/8例が死亡したが,尿路(0/5例)・下肢(0/4例)感染症は全例生存した。グラム染色別では死亡率に有意差はなかった。PMX-DHP施行前後のカテコラミン使用量の減少は,死亡群より生存群において顕著であった。【結論】臨床成績は感染部位と関連があると考えられた。グラム陰性・陽性菌の違いは死亡率に影響しなかった。PMX-DHPによる循環動態の改善反応が良いことが,良好な転帰に関連すると推定された。
  • 岩室 賢治, 原口 靖比古, 若泉 謙太, 本保 晃, 福山 達也, 小山 薫, 宮尾 秀樹
    2012 年 19 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    難治性の低血圧,徐脈,低血糖をきたし,ステロイド投与により劇的に症状改善を認めた症例を経験した。症例は78歳,男性。今回,残胃癌に対して手術が施行された。術後経過は概ね良好であったが,術後2ヶ月にショック状態となり,ICU入室,挿管人工呼吸,全身管理が必要となった。低血圧,徐脈に対し,輸液,輸血,カテコラミン投与,低血糖に対し,ブドウ糖を適宜投与した。カテコラミン抵抗性循環不全および低血糖から急性副腎不全を疑い,診断的治療を兼ねてハイドロコルチゾンを静注したところ,数時間で循環動態および低血糖は改善,カテコラミンの速やかな減量が可能となり,その後の経過は良好であった。本症例はステロイド投与歴もなく,カテコラミン抵抗性の循環不全,低血糖をきたした。このような症例では,既往や明らかな誘因がない場合でも副腎不全を疑う必要がある。
  • 山田 法顕, 熊田 恵介, 中野 通代, 白井 邦博, 吉田 省造, 水田 啓介, 豊田 泉, 小倉 真治
    2012 年 19 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    上顎洞膿瘍が頸部まで進展した症例に対して,速やかかつ積極的な高気圧酸素治療(hyperbaric oxygenation, HBO)の併用により,良好な経過が得られたので報告する。症例は65歳,男性。自宅で倒れているところを発見され,当救命救急センターに搬送となった。呼吸循環動態は安定していたが,左眼窩周囲から顔面・頸部にかけて悪臭を伴う著明な腫脹と発赤,口腔内からの排膿を認めた。頸部CTでは,上顎から頸部にかけて隔壁を形成した広範囲な膿瘍が気道を圧迫し,深部まで進展していた。このため,緊急ドレナージおよび気管切開を施行,術後は集学的治療を行った。外科的治療が十分施行できなかったことや嫌気性菌への対策として,HBOを第4病日より14日間施行した。第11病日には全身・局所とも状態改善し,一般病棟へ転棟,第44病日には転院となった。ドレナージが十分にできない症例や,嫌気性菌感染が疑われる症例に対し,速やかなHBOの併用は有効であると思われた。
  • 橋本 雄一, 玉川 隆生, 齋藤 利恵, 福山 達也, 田村 和美, 照井 克生, 小山 薫, 宮尾 秀樹
    2012 年 19 巻 1 号 p. 71-74
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    急性妊娠脂肪肝(acute fatty liver of pregnancy, AFLP)は妊娠後期に好発し,肝不全や腎不全を併発する母児共に死亡率の高い疾患である。症例は,43歳,女性。2経妊,1経産。妊娠36週時に,黄疸,嘔吐,乏尿を認め,近医より搬送された。入院時に肝不全,腎不全,disseminated intravascular coagulation(DIC)を認めたため,緊急帝王切開にて児を娩出した。術後母体はICUに入室し,入室1日目にAFLPの診断目的で肝生検を施行したが,生検後に大量出血を起こした。出血に対しては,肝動脈塞栓術,凝固因子製剤投与,大量輸血療法を施行した。腎不全に対しては持続血液濾過透析を施行し,母児ともに良好な転帰を得た。肝不全を合併しているAFLP症例では,凝固能の改善を待ってから肝生検を施行すべきである。
  • 比留間 孝広, 五十嶺 伸二, 境田 康二, 佐藤 美香子, 花上 和生, 有馬 孝博, 後藤 眞理亜, 金澤 剛
    2012 年 19 巻 1 号 p. 75-78
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    外傷性窒息は強い外力が胸郭に加わった際に発症し,顔面・頸部・前胸部の溢血斑,眼球結膜の充血,顔面腫脹等が特徴であり,脳循環障害により意識障害を呈することがある。今回,42歳男性がトラックの下敷きになり外傷性窒息を呈し,意識障害,眼球機能障害の神経障害を呈した症例を経験した。本症例は緊張性気胸,肝損傷等の重症胸腹部損傷,出血性ショックを合併し,受傷直後より意識障害を認めたが,左半盲以外の脳後遺症を残すことなく救命できた。外傷性窒息はその受傷機転から,本症例のように重症胸腹部損傷を合併することがあるので,意識障害や眼球機能障害等の神経障害や外見所見に惑わされることなく,外傷初期診療ガイドラインに準じた診療を行い,手術適応を決めることが重要である。
短報
調査報告
  • 永松 聡一郎, 幸部 吉郎, 山下 和人, 川口 敦, 三木 智子, 藤井 智子, 志水 太郎
    2012 年 19 巻 1 号 p. 97-98
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【目的】集中治療に従事する医師のバックグラウンドを調査するために,サブスペシャルティ分野を検索した。【方法】 日本集中治療医学会の専門医で,日本麻酔科学会(麻酔),日本救急医学会(救急),日本循環器学会(循環器),日本脳神経外科学会(脳神経外科)の専門医資格を有している医師数を調査した。【結果】日本集中治療医学会の専門医は麻酔(69.0%),救急(41.6%),循環器(3.86%),脳神経外科(1.76%)の専門医資格を有する。【結論】日本の集中治療医学は麻酔科学に大きく依存している。
委員会報告
  • 日本集中治療医学会規格・安全対策委員会 , 日本集中治療医学会看護部会
    2012 年 19 巻 1 号 p. 99-106
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    【目的】ICUにおける鎮痛・鎮静の実状と課題を明らかにする。【方法】日本集中治療医学会専門医研修施設(219施設)に対して,2009年6月1日~30日の1ヶ月間にICUに入室したすべての成人症例の各種呼吸管理における鎮痛・鎮静と評価法の記載を依頼した。【結果】97施設から回答があった(回答率44%)。気管挿管,気管切開下の人工呼吸症例は,フェンタニル持続静注とプロポフォール持続静注が最もよく用いられており,筋弛緩薬の使用頻度は気管挿管下の症例で11%,気管切開下の症例で8%であった。非侵襲的人工呼吸症例では,デクスメデトミジンが最多であった。自発呼吸のみで管理された症例の38%,64%はそれぞれ鎮痛薬,鎮静薬を投与されていなかった。鎮痛は看護師による総合的な評価,鎮静はRichmond Agitation-Sedation Scaleによる評価が主であった。鎮痛薬の使用,1日1回の鎮静薬の中止・減量の実施,せん妄の評価は十分ではなかった。【結論】わが国のICUでの鎮痛・鎮静は,いくつかの課題はあるが,おおむね良好に行われている。
  • 日本呼吸療法医学会危機管理委員会 , 日本集中治療医学会新生児小児集中治療委員会 , 日本集中治療医学会新型インフルエンザ調査委員会
    2012 年 19 巻 1 号 p. 107-111
    発行日: 2012/01/01
    公開日: 2012/07/10
    ジャーナル フリー
    日本呼吸療法医学会危機管理委員会,日本集中治療医学会新生児小児集中治療委員会,同学会新型インフルエンザ調査委員会が共同で,2010年度インフルエンザ重症症例を集積した(44例)。内訳は,小児症例19例,成人症例25例であった。小児症例では死亡例はなかったが,成人症例の死亡率は52%であった。小児症例では成人症例に比較し,(1)人工呼吸日数(小児6日,成人12日),ICU滞在日数(小児7日,成人17日),在院日数(小児14日,成人26日)が短かった,(2)意識障害が多かったが,多臓器不全の合併は少なかった,(3)extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)は1例(生存)のみであった(成人14例,生存率36%),(4)PEEP/peak inspiratory pressure(PIP)最高値は相対的に低かった(小児8/25 cmH2O,成人19/30 cmH2O),(5)高用量ステロイド投与症例は少なかった(小児32%,成人56%),(6)シベレスタットの使用例はなかった(小児0%,成人52%),などの特徴があった。
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