日本集中治療医学会雑誌
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20 巻, 2 号
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今号のハイライト
総説
  • 安田 英人, 讃井 將満, 日本集中治療教育研究会
    2013 年 20 巻 2 号 p. 217-226
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    近年,米国のカテーテル関連血流感染症予防ガイドラインでは,皮膚消毒薬として0.5%を超える濃度のグルコン酸クロルヘキシジンを含有するエタノール溶液〔クロルヘキシジンアルコール溶液(chlorhexidine alcohol solution, CH-AL)〕の使用が推奨されるようになった。しかしながら本邦では,依然として10%ポビドンヨードを使用する施設が多い。CH-ALのポビドンヨードに対する優位性を示す研究結果が多いが,エビデンスレベルは必ずしも高くなく,CH-AL濃度による予防効果の違いも明確ではない。CH-ALの妥当性を評価するためには,カテーテル関連血流感染症(CRBSI)およびカテーテルコロニゼーション予防における0.5%を含めた複数のCH-ALとポビドンヨードの効果を比較検討する質の高い研究を行う必要がある。
解説
原著
  • 松原 全宏, 井口 竜太, 比留間 孝広, 中村 謙介, 中島 勧, 片桐 大輔, 土井 研人, 野入 英世
    2013 年 20 巻 2 号 p. 235-242
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    【目的】Endotoxin activity assay(EAA)は,患者好中球・補体系を用いた測定系である。急性腎傷害(acute kidney injury, AKI)および持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy, CRRT)は好中球を活性化する可能性があり,EAAを用いた敗血症診断が,AKIおよびCRRTにより影響されうるかを検証した。【方法】CRRTを必要としたAKI症例を対象とし,CRRT開始前,開始24時間後および48時間後にendotoxin activity(EA)値を測定,敗血症合併との関連を前向きに検討した。【結果】CRRT開始前EA値は,敗血症群において上昇,非敗血症群では低値であった。CRRT施行によるEA値の有意な上昇は認めなかった。【結論】AKIあるいはCRRT施行によって生じうる好中球活性化がEA値に影響することはなく,EAAはAKIおよびCRRT症例においても,敗血症診断に利用できる。
症例報告
  • 伊佐 泰樹, 原山 信也, 荒井 秀明, 長田 圭司, 新庄 貴文, 二瓶 俊一, 相原 啓二, 蒲地 正幸
    2013 年 20 巻 2 号 p. 243-246
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    【はじめに】くも膜下出血,頭部外傷,てんかんなど中枢神経系障害の後に神経原性肺水腫をきたすことが知られているが,脳梗塞が原因とされる報告は少ない。脳梗塞を原因とする神経原性肺水腫と考えられた症例を経験したので報告する。【症例】54歳,女性。緑内障の手術のため入院し,全身麻酔下で濾過手術を施行,術後抜管され病棟へ帰室した。帰室後呼吸苦を訴え心肺停止となり,心肺蘇生を行い18分後に心拍が再開した。胸部X線,CTで両側の肺水腫を認め,急激に進行する肺水腫に対して膜型人工肺を導入し救命に至った。心原性肺水腫,誤嚥や心肺蘇生に伴う肺水腫とは考えにくく,蘇生から約5時間後の頭部CTで早期の脳梗塞を認めたため,神経原性肺水腫の可能性が高いと考えた。【まとめ】脳梗塞の既往や糖尿病など脳血管疾患のハイリスク患者に突然発症する肺水腫では,神経原性肺水腫も念頭におく必要がある。
  • 萩谷 英大, 村瀬 智子, 岡原 修司, 岡田 大輔, 杉山 淳一, 内藤 宏道, 萩岡 信吾, 森本 直樹
    2013 年 20 巻 2 号 p. 247-252
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    アルコール性肝硬変をもつ78歳男性。搬送2日前に左大腿部を虫に刺され,同部位の紫斑と意識障害のため救急搬送となった。左大腿部の紫斑は拡大傾向であったが,搬送直後と4時間後のCTでは外科的介入の適応にはないと判断された。しかしその後も紫斑,ショック状態が悪化したため搬送9時間後に3度目のCTを施行したところ,筋膜から筋層内にかけて著明なガス所見を認めたため局所のdebridementを施行し,術後も集学的治療を継続したが,搬送から約28時間後に死亡した。血液培養,術中浸出液からCTX-M-8 like遺伝子を有するextended spectrum β-lactamase(ESBL)産生大腸菌を検出したため,ESBL産生大腸菌による左大腿部の壊死性軟部組織感染症と診断した。致死的疾患である壊死性軟部組織感染症の起炎菌として,ESBL産生菌のような高度薬剤耐性菌もありうることに注意する必要がある。
  • 小野 雄一郎, 小野 真義, 伊藤 岳, 佐野 秀, 宮本 哲也, 当麻 美樹
    2013 年 20 巻 2 号 p. 253-256
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    インフルエンザA/H1N1pdm09による重症病態は数多く報告されている。インフルエンザ感染に劇症型A群溶連菌感染症,血球貪食症候群を併発した1例を報告する。症例は24歳の男性。高熱,意識障害で前医を受診,精査の結果,インフルエンザ感染による多臓器障害と診断され,当院に紹介搬送となった。来院時,呼吸不全・循環不全を呈しており,心機能の著明な低下も認めたため,人工呼吸器管理,補助循環を導入した。また,臨床所見から血球貪食症候群を併発していると判断し,免疫抑制療法や血漿交換を施行したが,溶連菌菌血症も併発し,救命することができなかった。死後の骨髄検体で血球貪食像や溶連菌の組織浸潤を認めた。インフルエンザは日常診療でしばしば遭遇する疾患であるが,ときに致死的な合併症をひき起こすため,注意すべきである。
  • 宮崎 嘉也, 佐藤 敬太, 白井 直人, 白井 ひろみ, 崔 成重, 足立 健彦
    2013 年 20 巻 2 号 p. 257-260
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    デクスメデトミジン(dexmedetomidine, DEX)は,ICUにおける鎮静薬として広く使用されている,選択性の高いα2受容体作動薬である。今回我々は,DEX長期投与中に高体温をきたした2症例を経験した。両症例とも,プロポフォールおよびDEXを人工呼吸管理中の鎮静薬として使用した。体温は,DEX投与中に39℃前後まで上昇し,数日間持続した。いずれの症例も,感染性要因を中心とした原因検索を行ったが,熱源は特定できなかった。高体温にもかかわらず全身状態は安定しており,抜管後DEX投与を中止したところ,数時間の経過で体温は低下した。症例2では,再投与による体温上昇を確認することができており,原因は薬剤熱が最も疑わしいと判断した。DEX投与による高体温は,長期投与の適応拡大に伴って問題となる可能性があり,非感染性薬剤熱の原因薬剤として考慮する必要がある。
  • 山下 茂樹, 入江 洋正, 大竹 孝尚, 吉田 光剛, 岡本 洋史, 新庄 泰孝, 横田 喜美夫, 米井 昭智
    2013 年 20 巻 2 号 p. 261-264
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    血糖値の著明な逸脱と同時に,頭部CT・MRIの異常所見を認めた2症例を経験した。1例目は82歳男性で,右片麻痺,構音障害で受診した。受診時の血糖値は11 mg/dlであり,ブドウ糖の投与と画像による精査を行ったところ,頭部CTでの左後頭葉から頭頂葉の脳溝消失と,MRIの拡散強調画像での左中大脳動脈領域における高信号を認めた。ブドウ糖投与の開始3時間後に片麻痺は軽度改善した。2例目は54歳男性で,意識障害,痙攣で受診した。受診時の血糖値は1,087 mg/dlであり,尿中ケトン陽性であったため糖尿病性ケトアシドーシスと診断した。頭部CTで左被殻の高吸収を認めたため脳出血を疑ったが,インスリンにて血糖値は低下し,痙攣は消失した。発症4日目のMRIのT1強調画像で左被殻に高信号を認めた。著しい低血糖・高血糖は頭部CT・MRIに異常所見をきたすことがあり,脳梗塞や脳出血との鑑別が重要である。
  • 古島 夏奈, 江木 盛時, 吉鷹 志保, 戸田 雄一郎, 森田 潔
    2013 年 20 巻 2 号 p. 265-269
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    【目的】術後重症患者に生じる酸塩基平衡異常の程度および原因をStewart-approachで検討した。【対象・方法】術後7日間以上ICUに滞在した食道癌術後患者60名を対象とし,酸塩基平衡の解析に必要な因子を術後6日間測定し,その変化(Δ)を検討した。本研究は,臨床研究審査委員会の承認を得て行った。【結果】対象患者では,術後6日間で代謝性アルカローシスと軽度の高二酸化炭素血症が生じた(P<0.01)。代謝性アルカローシスの発生には,血清Cl値の低下を主因とするSIDa(apparent strong ion difference)の上昇が関与していた(ΔCl; -3.9 mmol/lP<0.01,ΔSIDa;+5.3 mmol/lP<0.01)。【結論】当院での食道癌術後患者では,低Cl血症を伴った軽度の代謝性アルカローシスを生じていた。酸塩基平衡異常の検討においてStewart-approachは有用である。
短報
レター
調査報告
  • 後藤 幸子, 藤野 裕士, 水谷 太郎, 岡元 和文
    2013 年 20 巻 2 号 p. 299-302
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    本邦における集中治療医学の卒前教育の現状を調査することを目的として,全国国公立大学病院集中治療部協議会参加施設に対し,集中治療部の所属医師が行う医学生への講義に関するアンケート調査を実施した。53施設中48施設より回答を得た。専従常勤医の数は,救急部と併設された集中治療部で中央値が8人,併設なしでは3.5人であった。講義時間は半数以上の施設が5時間以下で,講義・実習時間共に施設による差が大きかった。私立大学を含めたより詳細な調査が必要と思われる。
  • ~小児集中治療室の騒音とその対策~
    春名 純一, 小池 宏寿, 宮下 和久, 山中 寛男, 橘 一也, 竹内 宗之, 木内 恵子
    2013 年 20 巻 2 号 p. 303-305
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    【目的】病院騒音で最も騒音レベルが高い部門の1つである小児集中治療室(pediatric ICU, PICU)において,建築学的な騒音対策を施した場合のシミュレーションを行った。【方法】大阪府立母子保健総合医療センターPICUにてジオノイズ®(騒音予測ソフト)を用いて騒音の実測値と予測値との比較を行った。【結果】PICUの天井と壁を吸音仕様とすれば,騒音レベルは約5.9 A-weighted decibels(dBA)軽減できると試算された。【結論】天井や壁の材質交換などの騒音対策は,PICU騒音軽減の有効な手段と推定された。
委員会報告
  • 日本集中治療医学会倫理委員会
    2013 年 20 巻 2 号 p. 307-319
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    日本集中治療医学会倫理委員会は,2006年に公表した「集中治療における重症患者の末期医療のあり方についての勧告」に基づいて活動を続けている。このたび,評議員の所属施設において,臨床倫理の問題を扱う病院倫理委員会(hospital ethics committee, HEC)の設置および活動状況などを把握するための調査を行った。回答率は73.2%であった。HECに関して,15.0%の施設ではHECを機能的にも有しておらず,その50%は今後の設置予定もなかった。病院倫理マニュアルは25.8%の施設で整備されておらず,その66.7%の施設は今後も作成予定がなかった。終末期に関するマニュアルでは,人工呼吸や補助循環,水分補給も中止・差し控えが認められており,実際に中止・差し控えが行われていた。その他,臨床倫理に対する病院の不理解や病院単位ではない臨床倫理コンサルテーションシステムの構築希望などの意見があった。この結果を踏まえ今後の活動の方向性を定めていきたい。
  • 日本集中治療医学会教育プログラム作成ワーキンググループ委員会, 全国国公立大学病院集中治療部協議会集中治療教育プログラム改訂委員会
    2013 年 20 巻 2 号 p. 320-328
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    本教育プログラムは日本集中治療医学会教育プログラム作成ワーキンググループ委員会と全国国公立大学病院集中治療部協議会集中治療教育プログラム改訂委員会が合同で策定したものである。本プログラム策定の目的は,集中治療に必要な知識・技術を網羅し,研修を受ける医師達自身でのチェック項目となり,さらに上級医の指導の目安となることである。日本集中治療医学会では,本教育プログラムを正式に専門医受験資格の要件とすることによって,専門医到達目標を明らかにし,日常臨床の中で教育の成果および診療実績を評価するシステムを構築する方針としている。諸施設における集中治療室の診療・運営形態に多少の違いがあっても,そこで働く医師が共通して利用できる集中治療教育プログラムとして,臨床現場で広く活用されることが期待される。
  • 日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会
    2013 年 20 巻 2 号 p. 329-334
    発行日: 2013/04/01
    公開日: 2013/05/14
    ジャーナル フリー
    日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会は,日本集中治療医学会認定集中治療専門医研修施設に重症敗血症および敗血症性ショックに罹患した患者の登録を依頼し,第1回Sepsis Registry調査として,2007年10月1日より12月31日までの調査期間に47施設からのエントリーを得た。登録症例総数は305例であり,そのうち基本情報の整った解析可能な症例で,重症敗血症および敗血症性ショックと評価できた266例を抽出した。登録症例として,内科領域より66例,外科領域より58例,救急領域として142例がエントリーされ,平均年齢は67歳,男女比率は170例/96例だった。主な感染部位は,腹腔内感染症が85例,カテーテルを含む血流感染症が42例,尿路感染症が22例,軟部組織感染症が27例だった。重症敗血症および敗血症性ショックを惹起した起炎菌は上位から,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌41例,Esherichia coli 36例,Klebsiella pneumoniae 28例,Pseudomonas aeruginosa 28例,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌24例であり,初期起炎菌としての真菌検出例はCandida albicans 4例とCandida non-albicans 6例だった。ICU入室日のAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアとSequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(平均±標準偏差)は20.3±9.9と8.5±4.7であり,急性期disseminated intravascular coagulation(DIC)診断基準に準じたDICを126例(47.4%)に認め,このICU死亡率は77例(61.1%)だった。敗血症性ショック145例(54.5%)のうち,early goal-directed therapy(EGDT)が施行されたものは42.1%だったが,ICU死亡率は非EGDT達成群の42.9%に比較してEGDT達成群で26.2%と有意に低かった。また,経腸栄養の併用は101例(38%)に認められ,APACHEIIスコアは非経腸栄養群の19.5±4.7と経腸栄養群の21.8±9.9に差を認めなかったが,経腸栄養によりICU死亡率が35.1%から23.7%へ,院内死亡率が43.0%から28.7%へ有意に低下していた。今回解析された266例の重症敗血症および敗血症性ショック全体の治療成績は,ICU死亡率30.8%,28日死亡率36.4%,院内死亡率37.6%だった。以上のように,第1回Sepsis Registry調査では,重症敗血症および敗血症性ショックにおける経腸栄養,および敗血症性ショックにおけるEGDT施行と生命予後改善の関連が示唆された。
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