日本集中治療医学会雑誌
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17 巻, 2 号
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今号のハイライト
総説
  • —外傷後ストレス障害と認知機能障害
    卯野木 健, 櫻本 秀明, 花島 彩子
    2010 年 17 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    集中治療の最終的な目的は,原疾患や合併する臓器不全を治療し,それに伴う生理学的な安定を達成することのみではなく,身体的,精神的に回復し,低下した生活の質(quality of life, QOL)を取り戻すことも含まれる。近年,ICU退室患者の中に,外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder, PTSD)や長期にわたる認知機能障害が残る例が明らかになっている。これらの障害に関しては十分な検討が行われていないものの,PTSDはICU在室中の鎮静管理,特にそれに関連する妄想的記憶が要因の一つだと考えられている。また,認知機能障害は低酸素血症などのほか,ICU在室中のせん妄が要因の一つであると考えられている。いずれも,ICU在室中の鎮静管理が関与していることが示唆され,適切な鎮静管理を考える上でこれらの長期的な予後を視野に入れた対応も必要となる。
  • 藤野 裕士
    2010 年 17 巻 2 号 p. 155-161
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    人工呼吸器の技術的進歩と呼吸不全の病態生理学の進歩に伴い,さまざまな換気モードが提案・評価されてきた。換気補助を目的として機械的陽圧人工呼吸を行う場合は,自発呼吸との同調性,呼吸仕事量の軽減,快適性といった要素が換気モードの評価に重要である。急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome, ARDS)のような低酸素性呼吸不全に対して人工呼吸を行う場合は,人工呼吸器関連肺傷害(ventilator-associated lung injuries, VALI)を起こさないための肺保護換気法という観点から換気モードを評価する必要がある。臨床データが不十分なこともあり,これまでの換気モードの中で著しく優位に立つものは知られていないが,いずれも利点と欠点があるため,それらを十分に認識して選択する必要がある。
原著
  • 小山 寛介, 布宮 伸, 和田 政彦, 三澤 和秀, 田中 進一郎, 鯉沼 俊貴
    2010 年 17 巻 2 号 p. 163-172
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    【目的】下部消化管穿孔の合併症と予後の調査,及び重症化の危険因子に関する検討を行う。【方法】2006年4月から2008年3月までの2年間に,下部消化管穿孔に対する緊急手術後ICU管理を行った50例を対象とした。術後急性期の臓器障害の合併頻度と28日死亡率を後向きに調査した。また重症化の危険因子解明のため,ICU-free days(IFD)をエンドポイントとしてSpearman順位相関分析と多重ロジスティック回帰解析を行った。【結果】下部消化管穿孔術後急性期の臓器障害はショック(40%)が最も多く,次いで播種性血管内凝固(24%)の合併頻度が多かった。また,28日死亡率は6.0%であった。重症化の危険因子としては,Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア(オッズ比1.85,P=0.025)と血中の白血球減少(オッズ比20.6,P=0.016)が有意にIFDを減少させる独立危険因子であった。【結論】下部消化管穿孔術後急性期はショックと凝固障害の合併が多い。ICU入室時のSOFAスコア,血中の白血球減少が下部消化管穿孔の重症化に関係することが示唆された。
  • 黒澤 茶茶, 清水 直樹, Zeynalov Bakhtiar Fakhraddin, 阪井 裕一, 宮坂 勝之, 丸川 征四郎
    2010 年 17 巻 2 号 p. 173-177
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    【目的】乳児心肺蘇生で,実際の胸骨圧迫の深さが目標値に到達しているかを検証する。【対象】American Heart Association–Basic Life Support/Pediatric Advanced Life Support(AHA-BLS/PALS)プロバイダーである国立成育医療センターレジデント10名。【方法】乳児の胸骨圧迫計測モデルを用いて,胸郭前後径の3分の1(33 mm)を目標とした際の圧迫の深さを測定した。また,圧迫後に結果を知らせ,再度圧迫を行って結果を比較した。【結果】圧迫の深さは30.0±4.2 mmと不十分で,分散も大きかった。フィードバック後は32.4±1.5 mmと分散も小さくなり,統計学的有意差をもって改善した(P=0.016)。【結論】乳児心肺蘇生では,実際の胸骨圧迫の深さは目標値よりも浅くなるが,その結果をフィードバックすることで圧迫の深さが有意に改善することが示された。質の高い乳児心肺蘇生を実施するためには,指導者が的確なフィードバックを加え,実施者は十分な深さの圧迫を確認することが不可欠である。
症例報告
  • Yuka Osaki, Yasuhiro Maehara, Masaki Sato, Akiyoshi Hoshino, Kenji Yam ...
    2010 年 17 巻 2 号 p. 179-184
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    Bronchoalveolar lavage (BAL) was performed in 5 patients with acute respiratory distress syndrome (ARDS; ARDS group hereafter) and 2 patients with respiratory failure (non-ARDS group hereafter) within 3 hours of intubation before ARDS treatment other than mechanical ventilation. ARDS was diagnosed based on the criteria defined by the American-European Consensus Conference. BAL fluid (BALF) and sera samples were obtained on the same occasion. The presence of 17 cytokines/chemokines in these specimens was simultaneously determined using a Bio-Plex® Suspension Array System. The levels of these cytokines/chemokines in BALF and sera samples were compared between the ARDS group and the non-ARDS group. The levels of chemokine granulocyte colony-stimulating factor (G-CSF), monocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1) (monocyte chemoattractant factor), and macrophage inflammatory protein-1β (MIP-1β) in the BALF samples were significantly higher in the ARDS group than in the non-ARDS group. The level of pro-inflammatory cytokine interleukin (IL)-6 in BALF was also higher in the ARDS group than in the non-ARDS group. In contrast, the levels of IL-1β and IL-8 in BALF were higher in the non-ARDS group than in the ARDS group. The levels of these cytokines in BALF were higher than the corresponding sera levels in both groups. These results indicate that severe initial alveolar injury significantly activates chemokines in patients with ARDS caused by direct lung injury (such as pneumonia), unlike the increased levels of the inflammatory cytokines IL-1β and IL-8 in BALF of patients with early ARDS.
  • 松本 充弘, 平尾 収, 木岡 秀隆, 大橋 祥文, 大田 典之, 後藤 幸子, 内山 昭則, 藤野 裕士
    2010 年 17 巻 2 号 p. 185-189
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    患者は18歳女性。神経性食思不振症(anorexia nervosa, AN)のため,当院精神科に入院した。入院後,低血糖発作による意識レベルの低下を認めた。ブドウ糖液投与にて意識は改善したが,心臓超音波検査(ultrasonic echocardiogram, UCG)にてたこつぼ型心筋症の像を認めた。また血液検査にて血清リン値が0.9 mg·dl−1に低下していたため,refeeding syndromeと診断され,ICU入室となった。入室後,血清リン値をはじめ適宜電解質の補正をしながら徐々に投与カロリーの増加を図った。電解質,体重の改善を認め,入室後16日目にICU退室となった。長期間低栄養状態にある患者に対して栄養投与をする場合,バイタルサインや水分バランス,リンを含めた電解質異常を注意深く観察しながら治療すること,また投与カロリーの増加を緩徐に行うことが重要である。
  • 和田 剛志, 澤村 淳, 菅野 正寛, 平安山 直美, 久保田 信彦, 星野 弘勝, 早川 峰司, 丸藤 哲
    2010 年 17 巻 2 号 p. 191-195
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    甲状腺クリーゼと診断した4例を経験した。1例は来院前に心肺停止となり,蘇生後低酸素脳症により不幸な転帰となったが,他3例は迅速な診断と治療により良好な経過をたどった。4例すべてに心不全徴候を認めたが,甲状腺治療薬が心不全や全身状態を悪化させる可能性があるため,治療に際しては十分な循環動態の監視が必要と考えられた。また,外傷後の異常な頻脈と発熱持続を認める場合,甲状腺機能評価を視野に入れた治療が必要と考えられた。
  • 島田 忠長, 織田 成人, 貞広 智仁, 仲村 将高, 安部 隆三, 奥 怜子, 篠崎 広一郎, 平澤 博之
    2010 年 17 巻 2 号 p. 197-202
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    神経性食思不振症(anorexia nervosa, AN)は時に致死的となりうる病態であり,その集中治療には特別な配慮が必要である。今回,敗血症の治療経過中に,低リン血症を呈したANの2例を経験した。症例は55歳女性と31歳女性で,両者とも自宅にて意識レベルが低下し,当院に搬送された。来院時ショック状態であり,低血糖補正後も意識レベルの改善がなく,ICUに入室した。両者とも敗血症を呈していたにもかかわらず,血中interleukin-6濃度は高値を示さなかった。また,来院時は高リン血症を示すも,栄養開始後に血清リン値は激減し,体内のリン不足が明らかとなった。経過は良好で,第5病日に一般病棟へ転棟した。ANでは,炎症に対する生体反応の低下が推測され,注意を要する。また,体内のリン不足が必ずしも血清リン値に反映されるとは限らないため,AN患者の栄養管理には投与エネルギーの制限,連日の血清リン値測定,および的確なリンの補充が重要であると考えられた。
  • 甲斐 慎一, 横田 喜美夫, 山下 茂樹, 米井 昭智
    2010 年 17 巻 2 号 p. 203-206
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    2005年1月~2008年4月に出血により同種血輸血を必要とし当院ICUに入室した帝王切開術後患者12例について検討した。妊産婦の平均年齢は33歳で,疾患は常位胎盤早期剥離4例,弛緩出血2例,前置胎盤2例,癒着胎盤2例,hemolysis, elevated liver enzymes, low platelet count(HELLP)症候群1例,子宮破裂1例であった。8例が産科disseminated intravascular coagulation(DIC)を合併した。ICU入室期間は平均3日,入院期間は平均20日で,全例軽快退院した。平均同種血輸血量は赤血球濃厚液18単位,新鮮凍結血漿15単位,濃厚血小板18単位であった。7例が止血術を要し,うち3例は経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization, TAE)のみ施行,2例は子宮全摘術のみ施行,1例はTAE中に出血性ショックとなり緊急で子宮全摘術を施行,1例は子宮全摘術後も出血が持続しTAEを施行した。産科出血は,迅速な輸血や止血術が肝要であり,院内の緊急輸血体制の整備に加え,産科医,集中治療医,麻酔科医,放射線科医の協力体制を整えることが必要である。
  • 永野 達也, 伊関 憲, 仁木 敬夫, 杉浦 明日美, 二藤部 丈司, 川前 金幸
    2010 年 17 巻 2 号 p. 207-210
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    アナフィラキシーショックからの蘇生治療に難渋し心肺停止に至った1症例を経験した。症例は65歳の男性。ハチに刺されショック状態となり,当院救急部に搬送された。7ヵ月前に急性心筋梗塞の既往があり,β遮断薬を内服していた。アナフィラキシーショックに対してエピネフリンの筋注や静注を行ったが治療に反応せず,心静止となった。心肺蘇生とエピネフリンの追加投与により自己心拍が再開し,2ヵ月後に独歩退院した。本症例では心肺停止の原因として,ハチ毒による冠血管攣縮と,β遮断薬の内服がアナフィラキシーに対するエピネフリン治療に影響を及ぼした,という2つの病態が考えられた。β遮断薬内服中の患者がアナフィラキシーショックに至った場合には,通常の2~5倍量のエピネフリン投与が必要であると言われている。
短報
調査報告
  • ―松田班調査結果報告―
    ICU 機能評価委員会, 今中 雄一, 林田 賢史, 村上 玄樹, 松田 晋哉
    2010 年 17 巻 2 号 p. 227-232
    発行日: 2010/04/01
    公開日: 2010/10/30
    ジャーナル フリー
    ICU入室患者の治療成績を向上させるには,患者の重症度評価と予後に関するデータ蓄積が必要不可欠である。そこで,全国のICUの実態・治療等に関する松田班調査が2006,2007,2008年度に行われた。各年度の10月の1ヵ月間にICUに入室した患者を対象に,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアを用いた重症度評価と予後,各施設のICU運用状況等を調査した。今回は2007年度の調査結果を検討した。ベッド数は6床が最も多く,中央値は8床であった。午前10時に専任の医師がいない施設が21%あり,夜間にはさらに増加した。APACHE II スコアは11,12点が最も多く,実死亡率はAPACHE II スコアから予測される死亡率より低かった。今後は治療に関与する因子を特定し,わが国ICUの治療成績向上を目指す必要がある。そのためには,恒常的なデータ収集システムの構築が必須である。
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