臨床神経学
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56 巻, 7 号
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総説
  • 渡辺 宏久, 陸 雄一, 中村 友彦, 原 一洋, 伊藤 瑞規, 平山 正昭, 吉田 眞理, 勝野 雅央, 祖父江 元
    2016 年 56 巻 7 号 p. 457-464
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    多系統萎縮症(multiple system atrophy; MSA)は進行性の神経変性疾患で,パーキンソニズム,小脳失調,自律神経不全,錐体路徴候を経過中に種々の程度で認める.孤発性が圧倒的に多いが,主として常染色体劣性を示す家系も報告されている.パーキンソニズムが優位な臨床病型はMSA-P(multiple system atrophy, parkinsonian variant),小脳失調が優位な臨床病型はMSA-C(multiple system atrophy, cerebellar variant)と呼ばれ,欧米ではMSA-Pが多く,日本ではMSA-Cが多い.平均発症年令は55~60歳,予後は6年から10年で,15年以上生存する症例もある.早期から高度に出現する自律神経不全は重要な予後不良因子の一つである.発症時には,運動症状もしくは自律神経不全のいずれか一方のみを有する症例が多く,いずれの症状も出現するまでの期間の中央値は自験例では2年である.現在広く用いられている診断基準は,運動症状と自律神経不全をともに認めることが必須であるため,運動症状もしくは自律神経不全のみを呈している段階では診断が出来ない.しかし,自律神経不全のみを呈する段階で突然死する症例もあることを念頭に置く必要がある.MSAに伴う自律神経不全の特徴の理解と病態に基づいた責任病巣の特定は,早期診断に有用な情報をもたらすと考えられる.従来は稀とされてきた認知症もMSAにおける重要な問題である.前頭葉機能低下はMSAでしばしば認め,MRIやCTにて進行とともに前頭側頭葉を中心とする大脳萎縮も明らかとなる.最近では,前頭側頭型認知症の病型を示す症例も報告されている.MSAの病態と症候の広がりを踏まえた,早期診断方法開発は,病態抑止治療展開の上でも極めて重要である.

原著
  • 松田 千春, 清水 俊夫, 中山 優季, 原口 道子, 望月 葉子, 白田 千代子, 泰羅 雅登, 沼山 貴也, 木下 正信
    2016 年 56 巻 7 号 p. 465-471
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)患者においては流涎や口腔内乾燥が臨床的に問題となることが多い.本研究では,気管切開陽圧換気下にある進行期のALS患者66例において安静時唾液分泌量を測定し,唾液分泌に関連する因子について検討した.安静時唾液分泌量は中央値0.6 g/minと保たれており,顎の左右上下運動の低下群(P = 0.007),開閉口運動の低下群(P = 0.003),定常的開口状態患者群(P = 0.002),拡張期血圧低下群(P = 0.015)において有意な増大を示した.進行期ALS患者においては,下顎の随意運動低下と関連して安静時唾液分泌量は増大するため,適切な口腔ケアと唾液誤嚥の予防が必要である.

症例報告
  • 白岩 伸子, 保坂 孝史, 榎本 強志, 星野 幸子, 玉岡 晃, 大越 教夫
    2016 年 56 巻 7 号 p. 472-476
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は79歳女性.入院時より遷延する意識障害・右片麻痺があり,頭部MRI上,急性期脳梗塞様の広範囲な皮質病変を認めた為,当初は急性期脳梗塞として治療した.第5病日に右上下肢の痙攣発作および新たなMRI病変を認め,脳波上てんかん波を認めたことから,抗てんかん薬を開始した.抗てんかん薬開始後,上記の症状の改善とともにMRI所見の改善が認められた.また,MRI上,上記の皮質病変とは異なる左海馬等に陳旧性の病変を認め,そこを焦点とした複雑部分発作と考えられた.高齢者の複雑部分発作では,てんかん発作後もうろう状態が長い傾向にある.本症例でも意識障害や片麻痺が消失するまでに2週間を要した.

  • 坪口 晋太朗, 矢島 隆二, 樋口 陽, 石川 正典, 河内 泉, 小山 諭, 西澤 正豊
    2016 年 56 巻 7 号 p. 477-480
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は54歳女性で,緩徐に進行する歩行障害と構音障害を呈した.左乳癌に対して乳房切除術と癌化学療法を受け,神経症候の進行は術後一旦停止していたが,小脳性運動失調が再び増悪した.頭部MRIでの小脳半球の萎縮,血清Yo抗体陽性,乳癌の既往より傍腫瘍性小脳変性症(paraneoplastic cerebellar degeneration; PCD)と診断した.CTで指摘された左腋窩リンパ節の廓清と癌化学療法の変更に加え,免疫グロブリン大量療法を行った結果,神経症候は改善し,独歩可能となった.亜急性の経過と治療反応性の不良が特徴とされるYo抗体陽性PCDにも,緩徐進行性で治療反応性が良好な非典型例があることを報告した.

  • 伊藤 大輔, 安井 敬三, 長谷川 康博, 中道 一生, 勝野 雅央, 髙橋 昭
    2016 年 56 巻 7 号 p. 481-485
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は65歳の女性である.再発性の小リンパ球性リンパ腫に対し,半年間rituximab等が投与され,めまいと小脳性運動失調が発症した.頭部MRIで両側中小脳脚病変を認め,進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)を疑い,髄液中JC virus(JCV)-DNA PCR検査を数回施行し,4回目に初めてJCV-DNAが検出され,診断が確定した.小脳萎縮を認め,granule cell neuronopathyの合併が示唆された.Mirtazapineとmefloquineの併用治療により長期生存が得られた.PMLでは両側中小脳脚の病変で発症する例がある.また,病初期には髄液検査でJCV-DNAが陰性のことがあり,繰り返し検査する必要がある.

  • 松本 有史, 鈴木 博義, 飛田 宗重, 久永 欣哉
    2016 年 56 巻 7 号 p. 486-494
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は死亡時77歳の女性.40歳頃に神経線維腫症1型と診断され,またC型肝炎ウイルスのキャリアーであった.72歳時に視覚異常と歩行障害,74歳時に両側聴力低下と小脳失調症状を呈し,頭部MRIのT2強調画像にて小脳,脳幹,前頭葉,側頭葉,視床の表面に低信号の所見を認め,脳表ヘモジデリン沈着症と診断した.剖検では画像検査で確認された病変部位のほかに脊髄下部優位に鉄沈着が認められた.本例ではduropathyの一つとされる髄腔と交通する多房性前仙骨髄膜瘤の合併があり,神経線維腫症1型による血管壁脆弱性も加わって,脳表ヘモジデリン沈着症の出血源となった可能性が示唆された.

  • 清水 久央, 原谷 浩司, 宮崎 将行, 掛樋 善明, 長見 周平, 片浪 雄一, 川端 寛樹, 高橋 信行
    2016 年 56 巻 7 号 p. 495-498
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は38歳男性.ダニ刺咬後2ヶ月経過してから片側顔面神経麻痺を呈した.ベル麻痺としてステロイド,アシクロビルを投与し2週間で症状は消失.ライム病の可能性も考慮しドキシサイクリンなどの内服を2週間行った.2ヶ月後に頭痛,発熱などの髄膜炎症状が出現.髄液検査では単核球優位の細胞数上昇を示した.アシクロビルの投与で症状は軽快したが血清ボレリア抗体が陽性でありライム病による髄膜炎と考えた.セフトリアキソンを点滴静注し以後再発はない.抗菌薬を投与したにもかかわらず髄膜炎に進展する症例はまれである.ライム病は本邦では症例が少なく診断が難しい疾患であるが,治療効果の判断にも注意が必要であると思われ報告した.

  • 北村 泰佑, 後藤 聖司, 髙木 勇人, 喜友名 扶弥, 吉村 壮平, 藤井 健一郎
    2016 年 56 巻 7 号 p. 499-503
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/28
    [早期公開] 公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー

    患者は86歳女性である.入院1年前より認知機能低下を指摘され,入院2週間前より食思不振,幻視が出現し,意識障害をきたしたため入院した.四肢に舞踏病様の不随意運動を生じ,頭部MRI拡散強調画像で両側基底核は左右対称性に高信号を呈していた.血液検査ではビタミンB12値は測定下限(50 pg/ml)以下,総ホモシステイン値は著明に上昇,抗内因子抗体と抗胃壁細胞抗体はともに陽性であった.上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎を認めたため,吸収障害によるビタミンB12欠乏性脳症と診断した.ビタミンB12欠乏症の成人例で,両側基底核病変をきたし,不随意運動を呈することはまれであり,貴重な症例と考え報告する.

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