症例は71歳女性.IgA-λ型M蛋白血症に関連する慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy; CIDP)の精査中に急激に再燃し四肢の完全運動麻痺,呼吸筋麻痺,著明な血圧変動を呈した.この際M蛋白はIgA-λ型とIgM-λ型の共陽性となり,その後IgM-λ型のみ陽性となった.最重症期には脳神経麻痺も加わり,ジシアロシル基に反応するIgM型抗糖脂質抗体が強陽性であった.免疫抑制療法と血液浄化療法は効果に乏しかったが,免疫グロブリン大量療法を継続した結果徐々に改善し,入院18ヶ月後に車椅子移乗が可能となった.併存するM蛋白が変化したCIDPは過去に報告がなく,本例の病態について考察した.
症例は67歳女性.家族歴なし.2009年より進行性の脊椎側弯が出現し2013年他院で体幹ジストニアの診断でトリヘキシフェニジル内服とボツリヌス注射が行われたが改善はなく,2015年に歩行障害が出現した.同年5月当科での[123I]-イオフルパンシンチグラフィー(以後DATスキャン)で異常をみとめ,6月当科入院時は運動緩慢,筋強剛,右優位の静止時振戦,姿勢反射障害をみとめ頭部MRIで異常なくレボドパで運動症状の改善をみとめたことからパーキンソン病と診断した.本例は体幹ジストニアが先行したパーキソニズムでありDATスキャンが診断の一助となりえた症例である.貴重な症例であり文献的考察を加え報告する.
Monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)を合併した孤発性成人発症型ネマリンミオパチー(sporadic late onset nemalin myopathy; SLONM)は予後不良で自家末梢血幹細胞移植が有用とされる.我々は免疫治療(ステロイドパルス療法,血液浄化療法,免疫グロブリン大量療法)のみで症状を維持しえた2症例を経験し,免疫療法は移植困難な場合の代替となる可能性があると考え報告した.筋生検ではType 2B線維欠損を認めない点が先天性ネマリンミオパチーと異なっていた.
症例は47歳女性.前頭部痛と右耳鳴に続いて左片麻痺が出現した.外傷歴や血栓性素因を含む基礎疾患はなかった.血管造影では上矢状静脈洞閉塞,右横静脈洞狭窄を認め,脳静脈洞血栓症と診断した.抗凝固療法開始後,血栓は消退し,頭痛,耳鳴,左片麻痺も消失した.発症7ヶ月後に左耳鳴が出現した.血管造影では脳静脈洞血栓症は再発していなかったが,左後頭動脈から左横静脈洞~S状静脈洞移行部に流入する硬膜動静脈瘻が確認された.左後頭動脈の用手的圧迫を開始し,以後耳鳴の増悪はなく,画像上も硬膜動静脈瘻の増悪や脳静脈洞血栓症の再発はなかった.脳静脈洞血栓症では慢性期に硬膜動静脈瘻が発覚することがあり,経過観察が必要である.
症例は69歳,男性である.初診12日前より複視,7日前より左眼瞼下垂が出現し,4日前には完全閉眼状態となった.左動眼神経・外転神経麻痺を認めたが,圧迫病変や糖尿病などの原因疾患なく,炎症性疾患を想定しステロイドパルス療法を実施した.若干の麻痺改善を認めたが,まもなく左右顔面神経・右外転神経・右動眼神経の麻痺が相次いで出現した.PET/CTで胆囊癌が判明し,左動眼神経麻痺出現後3ヶ月の時点で癌に対する外科治療を行った.術後2ヶ月で多発性脳神経麻痺は軽快し,以後5年間胆囊癌・神経症状ともに再発無く経過している.本例は多発性脳神経麻痺のみを呈した胆囊癌に伴う傍腫瘍性神経症候群の可能性がある.
症例は23歳女性.意識障害,痙攣発作で発症した.著明な高血圧があり,頭部MRIで両側基底核,脳梁,大脳白質および皮質に散在するT2高信号域がみられた.アンジオテンシンII受容体拮抗薬の投与により,血圧が正常化するとともに症状および画像所見が改善し,可逆性後部白質脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome; PRES)と診断した.血漿レニン活性が高値で右腎は高度に萎縮しており,腎静脈および副腎静脈のサンプリングの結果から右腎静脈狭窄による腎血管性高血圧と判断した.腹腔鏡下右腎摘出術が行われ,病理所見より線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia; FMD)と診断された.若年発症の脳炎・脳症の鑑別として,FMDを背景としたPRESをあげる必要があると考えた.
症例は84歳女性.緩徐進行性の認知機能障害の経過中に失行が出現した.神経学的所見は認知機能障害,失行に加え左上下肢の筋力低下を認めた.頭部magnetic resonance imaging(MRI)で右側頭頭頂葉の髄膜のfluid attenuated inversion recovery(FLAIR),diffusion weighted Imaging(DWI)高信号を認め造影効果を有し,血液検査で抗cyclic citrullinated peptides(CCP)抗体が高値であった.脳生検ではくも膜下腔を中心とした炎症細胞浸潤を認めた.ステロイドで加療し臨床症候,検査所見ともに改善した.全経過を通じて関節症状は認めていない.本例は慢性髄膜炎の診断治療を考える上で貴重な症例である.発症時に関節症状のないリウマチ性髄膜炎の報告は稀で,本例では特に抗CCP抗体が高値であり,リウマチ性髄膜炎の発症機序を考える上でも稀有な症例である.
症例は17歳の男性である.徐々に上下肢の筋力低下を自覚し,走った際にバランスを崩すようになった.加えて姿勢時に手指の振戦が出現した.典型的慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーの病型に加えて,上肢の振戦と下肢の運動失調を認めたことから抗neurofascin-155抗体の関与を疑い,陽性であった.同抗体陽性である慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーの詳細な症例報告論文としては本邦初であるが,振戦,免疫グロブリン大量静注療法抵抗性といった,比較的類似した臨床像を持つ一群である可能性が指摘されてきており,同抗体の検討は有効な治療選択の一助となる可能性がある.
症例は70歳男性.右眼痛,複視,視力低下のため入院した.MRIで右海綿静脈洞,外眼筋,視神経が腫大し右視神経周囲にリング状の信号上昇を認めた.縦隔リンパ節腫大,前立腺腫大もあり,高IgG4血症(355 mg/dl)と併せてIgG4関連疾患を疑ったが,海綿静脈洞は生検困難な部位であり,気管支鏡下肺生検と前立腺針生検を施行したが診断できなかった.IgG4値上昇が続き,鼻粘膜の軽度肥厚があったことから鼻粘膜生検を行ったところ,IgG4染色陽性形質細胞浸潤を認めIgG4関連疾患と診断した.IgG4関連疾患では海綿静脈洞,外眼筋,視神経の病変を呈することがあり,鼻粘膜生検が有用であったため報告する.
第217回日本神経学会関東・甲信越地方会抄録
2016年6月4日(土)開催
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