重症敗血症に対して行われるアンチトロンビンIII (AT-III)投与には,凝固機能抑制以外にも血管内皮機能調節作用が期待されている。今回われわれは,エンドトキシン(LPS)投与ラットを用いて,AT-III大量投与が血管内皮細胞の血管作動因子産生に及ぼす影響を検討した。対象と方法:Wistarラットに中心静脈カテーテルを挿入して,翌日よりLPSを24時間かけて静脈内に持続投与し敗血症モデルとした。そして,これと同時にAT-III 250U/kgもしくは500U/kgを24時間静脈内に持続投与して,投与終了時における生存率,およびprostaglandin (PG)I
2やendothelin-1を含む各種血中マーカーの測定を行った。なお,コントロールとしてAT-IIIの代わりに生理食塩水のみを投与する群も設定した。結果と考察:LPS 10.0mg/kg投与時のコントロール群の生存率は0%であったが,250U/kg投与群では50% (p<0.05), 500U/kg投与群では100%とAT-III投与による著しい生存率の改善がみられた(p<0.01)。つぎに,LPS 1.25mg/kg投与時のAT-III活性は250, 500U/kgの投与により,それぞれ有意に上昇し,両群で共に200%以上に達していた(各々p<0.05)。そして臓器障害の指標としたALTやBUNの上昇は有意に抑制されていた。また,血管拡張や血小板凝集抑制作用をもつPGI
2の代謝産物である6-keto-PGF
1αは,LPSの投与により正常の約2倍に増加したが,AT-III 500U/kg投与により,さらに3倍近くまで増加がみられた(p<0.05)。一方,PGI
2とは逆に血管収縮作用をもつendothelin-1はLPS投与により正常の約7倍に増加がみられたが,AT-III投与による影響はみられなかった。以上の結果から,LPS投与ラットにおいて,AT-IIIはとくに大量投与を行った場合には,血管内皮細胞に作用してPGI
2産生を刺激し,これが抗凝固作用とあいまって臓器保護的に作用し,生存率の改善に結びついているものと考えた。
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