ミダゾラム鎮静患者の意識,呼吸状態の評価のため,ベンゾジアゼピン拮抗薬のフルマゼニルを投与する際,心循環動態および急性ストレス反応の変化を検討した。対象は,ミダゾラムの持続投与を受け,Swan-Ganzカテーテルによって心循環動態を管理されている喘息重積発作,肺炎,膿胸の5症例(平均61±15歳)である。ミダゾラムは,2~7日間に1.1~3.1μg/kg/minの量で持続静脈内投与されている。各症例のフルマゼニル投与直前の血清ベンゾジアゼピン受容体結合活性は,ジアゼパム当量として250~2,700ng/mlの範囲であった。方法は,一定量のミダゾラム投与下で0.5mgのフルマゼニルを1回投与して,意識レベル,血圧,心拍数,心係数,体血管抵抗の変化を投与60分後まで経時的に評価した。さらに,カテコラミン,3-methoxy-4-hydroxyphenylethyleneglycol(以下MHPGと略す),コルチゾールの血中濃度を,投与60分後まで測定した。フルマゼニル投与後5分以内に全例で意識レベルが改善し,投与5分後に血圧は150±21/67±7mmHgから178±38/81±6mmHg,心拍数は80±7/minから94±17/min, pressure-rate product(以下PRPと略す)は12,000±2,200mmHg/minから17,200±6,800mmHg/minとそれぞれ有意な上昇を示したが,心係数,体血管抵抗の変化は各症例で異なった。血漿エピネフリン,ノルエピネフリン濃度は,投与10分後にそれぞれ120±50pg/ml, 290±160pg/mlから270±120pg/ml, 390±140pg/mlと有意な増加を示したが,MHPG,コルチゾール濃度に変化は認められなかった。ミダゾラム鎮静の患者にフルマゼニルで覚醒を促す際,交感神経系活動の亢進から血中カテコラミン濃度が上昇し,血圧,心拍数,PRPが増加したと考えられる。しかし,本症例に対する0.5mgフルマゼニル負荷では,血中MHPG,コルチゾール濃度が上昇するほど急性ストレス反応は生じなかった。ミダゾラム鎮静患者にフルマゼニルを投与する場合には,心循環動態の変動に注意を要すると思われた。
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