stunned myocardium(気絶心筋)の概念は短時間の虚血後,再灌流されると一時的に心筋収縮機能は低下するが,数日後に改善がみられるとされている。われわれは心肺蘇生により心拍再開が得られた後の心筋にも同様の病態が関与していると考え,心拍再開後の心機能の回復過程について検討した。対象は過去5年間に当センターで扱った心肺停止例のうち,心エコーを用いて経時的に心機能を評価し得た47例。性別は男性36例,女性11例で平均年齢は61.5±16.3歳であった。方法は心拍再開後に心エコーを経時的に記録し,M-モードエコーグラムよりTeichholzの方法により左室駆出分画(EF)を求め,心肺停止から心拍再開までの時間(心停止時間)とEFの回復過程との関係について検討した。結果は心肺停止例の心停止時間は1~60分であり,平均では24.6±14.6分であった。心停止時間と心拍再開後1日以内のEFの関係では心停止時間が5分未満ではEFは69.2±10.9%, 5~30分未満では62.1±10.4%, 30分以上では57.9±11.0%で,心停止時間が長い程心機能の有意な低下がみられた。つぎに心拍再開後の心機能の経時的回復過程では,1日以内,2~3日後,7~15日後のEFはそれぞれ61.1±11.8%, 60.5±9.0%, 67.6±9.2%と心機能は3日以後に有意な回復がみられた。さらに心停止時間が30分未満の群と30分以上の群でEFの変化を比較すると30分未満の群では有意に回復がみられたが,30分以上の群では差はなかった。また年齢とEFの相関はみられなかった。結論として心拍再開後の心機能は心停止時間が長いほど低下がみられ,心拍再開後の心機能の回復には数日を要し,心停止時間が長い例では心機能の回復も悪かった。以上より心拍再開後後の心筋もstunned myocardiumの病態が存在するものと推察された。
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