目的:過去10年間当院にて入院加療した高血圧性小脳出血29例をretrospectiveに検討し,その保存的治療および手術成績について興味ある知見を得たので報告する。対象と方法:29例のうち保存的に加療したものは15例(以下C群),手術治療を行ったものは14例(以下S群)であった。これら2群について年齢,来院時意識レベル,血腫量,血腫部位,および第4脳室穿破,急性水頭症の有無と予後につき検討した。結果:平均年齢はC群65.9歳,S群69.1歳で有意差はないもののS群においてやや高齢者が多かった。来院時意識レベルはGlasgow Coma Scale (GCS)スコアでC群14.0, S群10.1で両群間で有意差を認めなかった。血腫量の平均は有意にS群の方が多かった。血腫部位に関してはS群では半球と虫部がほぼ同数だったのに対し,C群では半球が虫部の2倍であった。第4脳室穿破を認めたものはC群5例(40%)に対し,S群8例(60%)とS群に多く,急性水頭症を認めたものはC群では1例のみであり,S群では6例(50%)であった。予後を検討するとC群ではGlasgow Outcome Scale (GOS)で,good recovery (GR) 10例,moderate disability (MD) 3例であり,この2群で86%を占めたのに対して,S群ではsevere disability (SD) 4例,death (D) 4例で,この2群で70%を占めた。S群の予後は明らかに不良であり,独歩退院例でも眩暈感,ふらつきなどが復職を妨げる要因となっていた。結語:以上より,高血圧性小脳出血の予後は血腫の量で決定される傾向があり,手術を要した症例の予後は概して不良であるといえる。したがって,急性期においては血腫増大をいかにして阻止するかがきわめて重要である。また,血腫の第4脳室穿破はほとんどの例で急性水頭症の原因とならず,血腫量10mlまでのものは,血圧のコントロール,止血剤の投与など保存的治療を第一選択とすべきである。
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