日本救急医学会雑誌
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20 巻, 4 号
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原著論文
  • 鈴木 昌, 船曵 知弘, 伊藤 壮一, 宮武 諭, 城下 晃子, 堀 進悟, 相川 直樹
    2009 年 20 巻 4 号 p. 181-190
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    目的:本邦医師の17%は女性であり,近年の医師国家試験合格者の30%以上を女性が占めているが,本学会では正会員の8.8%,専門医の4.7%,指導医の1.3%に過ぎない。不足しているとされる救急医の確保には女性救急医を増やす努力が必須であるが,その方策は明らかでない。本研究の目的は初期臨床研修医が救急医学を選択するか否かを決断する際に重視する要因を男女共同参画の観点から検討することである。方法と結果:初期臨床研修医51人(女性20人)に無記名アンケート(初期臨床研修終了後に選択する可能性のある専門分野,結婚や育児が医師としての生涯教育,職務,あるいは進路選択に影響するか否か,進路選択の際に考慮する要因)を行った。回収率及び有効回答率は100%であった。救急医を志望する可能性のある臨床研修医は33%に認められた。女性が男性より多く志望する分野は産婦人科(Odds比=30,95%信頼区間:3.4-265)と小児科(3.2,1.0-10)で,救急医学(0.1,0.0-0.6)と外科(0.2,0.0-0.6)では女性志望者が少なかった。救急医志望者は非志望者と比較して結婚や育児が生涯教育や職務に及ぼす影響を小さく評価していた(p<0.05)。アンケート結果を男女間で比較すると,女性研修医は男性より結婚や育児による生涯教育や職務への影響や進路選択への影響を重視していた(p<0.01)。進路選択に関与する要因を主成分分析で解析すると,good life-work balanceの重視と専門性の重視の 2 成分が抽出された。救急医を志望する可能性のある研修医の特徴は,進路選択の際にgood life-work balanceを軽視することであった。結語:研修医の30%以上が救急医を志望する可能性があるが,女性研修医に限定すれば10%に過ぎず,救急医志望の有無には有意な性差が認められた。この性差には,結婚や育児に関する懸念が関与しており,救急医を志望する女性医師を増加させるためには,仕事と家庭の両立を可能にする具体策立案とロールモデルが必要と考えられた。
  • 岡本 博照, 大瀧 憲夫, 寺澤 秀一, 井 清司, 山口 芳裕, 島崎 修次
    2009 年 20 巻 4 号 p. 191-200
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    社会的関心の高い問題であるわが国の救急医の過重労働を把握し,その対策を検討する目的で,国内の三次救急医療機関10施設に勤務する救急医78名(従来型救急医44名,交替制救急医34名)と対照である非救急医11名,計89名を対象に調査した勤務状況について検討した(2005年 1 月から 6 月にかけて実施)。従来型救急医は「日勤+当直+日勤」という勤務形態により平均32.8時間も拘束された長時間勤務が強いられ,勤務中の仮眠時間はわずか平均3.1時間しかとれていないことが判明した。その他の勤務状況(週あたりの勤務時間,日勤回数,当直・夜勤回数,休養日数)でも従来型救急医は他の医師に較べ有意に多く,過重な労働に従事していた(p<0.01)。交替制救急医が勤務する施設のなかには,医師数が少ないにもかかわらず救急医の過重労働が回避された施設が存在した。このような施設では,交替制勤務,診療業務の軽減化,その他に各診療科との連携支援や病院全体での救急医療への取り組みを認めた。産業衛生的に交替制勤務は健康面で問題視される勤務であるが,わが国の救急医の長時間労働の回避には必要であると考えられる。わが国の救急医の過重労働回避には,交替制勤務,診療業務の軽減化,病院全体による救急医療への理解と取り組みのほか,産業医や産業衛生スタッフの協力による医師の労務管理や健康管理も必要であると考える。
  • 池内 淳子
    2009 年 20 巻 4 号 p. 201-211
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    本研究では,列車脱線事故における多数傷病者発生事例の検証に資することを目的とし,2005年JR福知山線列車脱線事故における事故発生390分後までの医療機関への搬送状況とその際の搬送手段の活用状況等に関する時刻歴分析を行った。分析結果は入手した文献等に基づく試行結果であることを前提とし,(1)傷病者の搬送された医療機関は事故発生地点から半径約20km圏内に分布し,警察・消防は事故発生地点から半径20km圏内の医療機関に事故発生情報を伝達した一方で,TVなど一般報道や兵庫県広域災害・救急医療情報システム(HYOGO-EMIS)は事故発生地点からの距離に依存せず広く伝達していたこと,(2)事故発生直後の重症者の搬送先病院は主に日常重傷者救急実績のある病院が多く,事故発生90分後までの軽症者と重症者及び中等症者の搬送手段や搬送先医療機関は異なっていたこと,(3)事故発生70分後までに傷病者搬送を行った救急車はほぼ初回搬送であり,以降, 2 回目の搬送を行う救急車が増加し,事故発生90分以降は中等症者の搬送間隔が密になったこと,等を示した。事故発生後390分頃までの時刻歴分析より,事故発生から70分間(もしくは90分間)は,事故現場近傍の災害応急対応従事者のみで災害医療活動を全面的に支え,その後,事故発生後180分程度で傷病者搬送が概ね収束に向かったと推定される。多数傷病者発生事故では迅速に災害規模を確認し応援要請を行う事故発生直後の初期対応の時間帯が最も重要であり,この時間帯をできる限り短くすることが必要である。そのためには,1)災害発生情報伝達の迅速化,2)地域の現状に合致したより具体的なシナリオによる訓練の実施,3)傷病者搬送用ヘリコプターの整備体制強化 が必要であることを示した。
  • 萩原 靖, 上野 正人, 山本 章貴, 水島 靖明, 石川 和男, 松岡 哲也
    2009 年 20 巻 4 号 p. 212-220
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    鈍的脳血管損傷は欧米ではその多くが頸部脳血管に発生し,その頻度は全鈍的外傷の約 1 %前後,また椎骨動脈損傷(VAI)では25%,内頸動脈損傷(CAI)では50%もの高率に二次的脳卒中が発生すると報告されている。一方,頸部脳血管損傷の本邦での報告は少なく,頻度や治療などの点で一定のコンセンサスが得られていない。我々はこうした病態に対して積極的に血管内治療を導入して対処してきたが,今回鈍的頸部脳血管損傷の頻度・危険因子及び治療戦略における血管内治療の意義について検討した。2001年10月~2007年 9 月の期間に搬送された鈍的外傷患者1,405例を対象とし頸部脳血管損傷例につき調査した。その結果13例(0.93%),17血管の頸部脳血管損傷が認められた。損傷血管の内訳はVA I 13,CAI 4,損傷形態ではDenver grade IVが 9,grade IIが 7 で多かった。不安定型頸椎損傷が10例(76.9%)に並存し,また全不安定型頸椎損傷25例のなかで血管損傷を伴ったものが10例(40%)であった。10例11血管に血管内治療及び抗血栓療法を施行し,その他は抗血栓療法のみで治療した。血管内治療群の11血管中, 9 血管は損傷血管のコイル塞栓を, 2 血管は頸動脈ステント留置を施行した。コイル塞栓を行った 9 血管の損傷形態は,grade IV 6 血管,grade II 3 血管であり, 1 症例を除き急性期に頸椎整復固定を要する症例であった。ステント留置の 2 血管は共にgrade IIのCAIで,経過中に進行が疑われた症例であった。治療開始後の脳卒中の発生は認められず,治療効果によると考えられた。鈍的頸部脳血管損傷の治療の第一選択は,一般的には抗血栓療法であるが,不安定型頸椎損傷を合併し,急性期に頸椎整復固定が必要な場合や,全身の出血性合併症で抗血栓療法が施行できない患者に対しては血管内治療が有効な手段となり得ることが示唆された。
症例報告
  • 沢本 圭悟, 文屋 尚史, 米田 斉史, 武山 佳洋
    2009 年 20 巻 4 号 p. 221-225
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の女性。岩盤浴入浴中に意識消失した状態で発見されて救命救急センターに搬入となった。来院時,意識レベルGCS(Grasgow coma scale)3,収縮期血圧77mmHg,直腸温41.1°Cであり,意識障害,ショック,高体温を呈していた。直ちに急速輸液と体表冷却を開始した。各種検査や既往からは意識障害を来すような異常を認めず,病歴と身体所見から 3 度熱中症の診断で入院となった。ショックに関しては輸液負荷と血管収縮薬を必要としたが徐々に改善した。また,経過中にDICと肝機能異常を呈したが経過観察により軽快した。第 7 病日に人工呼吸器から離脱した。第30病日にリハビリテーション継続を目的に転院となった。神経学的後遺症は認めなかった。岩盤浴とは,40°C程度の岩盤上に20-30分間の仰臥と10分程度の休憩を繰り返し,多量の発汗を得るサウナ形式の風呂の一種である。岩盤浴はサウナや一般入浴に比べ安全と宣伝されているが,高齢者の入浴の際には熱中症予防も含めて,十分な注意が必要である。
  • 高橋 春樹, 出口 善純, 阿部 勝, 山田 創, 秋月 登, 小林 尊志, 中川 隆雄
    2009 年 20 巻 4 号 p. 226-231
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の女性。主訴は呼吸困難 飼い犬に左手を噛まれた2日後,呼吸困難で近医を受診した。動脈血ガス分析にて低酸素血症を認め,血液検査にて敗血症,播種性血管内凝固症候群,多臓器不全と診断され,当センターに転送された。集中治療(エンドトキシン吸着,持続血液濾過透析)にて軽快し,第14病日退院した。後日,血液培養よりCapnocytophaga canimorsusが検出された。C. canimorsusはイヌ咬傷後の敗血症の原因菌として米国では死亡例も多数報告されており,高齢者・易感染者に重症例が多い。本邦での報告は稀であるが,早期に適切な抗生剤を選択する上で念頭に置くべき病原体と考える。
  • Takeshi Tatsuta, Kenji Okumura, Tomoharu Shimizu, Eiji Mekata, Satoshi ...
    2009 年 20 巻 4 号 p. 232-236
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    We report a case of severe anorectal injury caused by a jet ski accident. An 18-year-old girl riding on the back of a craft fell backward from the seat when the craft was suddenly accelerated. Her buttocks closely opposed the water jet nozzle of the craft as she entered the water. Afterward, she had severe perianal and abdominal pain. Two posterior anorectal tears were observed on physical examination. An abdominal CT scan revealed free air and ascites in the abdominal cavity and presacral space. A perforation of the anterior rectal wall was detected during an emergency operation. The perforated rectal wall and posterior sphincter muscles were sutured and a diverting sigmoid colostomy was made. She was discharged from our hospital 24 days after the surgery without any complication. Her diverting colostomy was closed six months later. Her anal function was almost perfectly preserved. Reports of severe traumatic injuries caused by jet ski accidents are increasing. Hence, wearing of a wet suit is recommended for not only the driver but also passengers during personal watercraft operation. Injury prevention education and government regulation for the drivers should also be considered to avoid traumatic injury from jet skis.
  • 小濱 圭祐, 日浦 祐一郎, 平尾 素宏, 辻仲 利政
    2009 年 20 巻 4 号 p. 237-240
    発行日: 2009/04/15
    公開日: 2009/09/04
    ジャーナル フリー
    症例は56歳の男性。胃癌にて幽門側胃切除術を施行された。その後便秘の精査目的にバリウム注腸造影を実施。術後 4 か月頃から上腹部痛を自覚,腹痛の増悪を認め夜間救急外来を受診した。右下腹部に圧痛を認め硬結を触知した。発熱はなかったが血液検査にて軽度炎症所見を認めた。腹部CT検査を施行したところ糞石を伴う肥厚した虫垂を認め,虫垂炎の診断のもと開腹手術を施行した。虫垂は肥厚し炎症性変化を呈していたものの穿孔は認められなかった。虫垂切除を行い,術後はとくに問題なく経過し第11病日に軽快退院した。切除標本にて肥厚した虫垂内部にマーキングクリップを核とした糞石を確認した。胃癌手術術前の内視鏡検査施行時につけられたクリップが脱落し虫垂に停滞していたもので胃切除術直後のX線写真にて確認されていた。検査に伴い体内に遺残する物質はその排泄確認も重要である。
編集後記
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