目的:重症頭蓋内疾患患者に対する脳代謝モニタリングの新しい試みとして,頭蓋内トノメーターを作成し,脳表細胞内pH (pHi)を測定しその有用性について検討した。対象:1994年から1998年の5年間に当施設に搬送されたGCS8点以下の重症頭部外傷26例,および脳血管障害患者17例で開頭術もしくは頭蓋内圧モニタリングが必要と考えられた症例。方法:先端にシリコン製のバルーンのついたカテーテル(トノメーター)を脳表に留置した。バルーン内に注入した生理食塩水と脳表細胞内の炭酸ガス分圧が平衡に達したところで生理食塩水を採取し,得られた炭酸ガス分圧と,動脈血中HCO
3-濃度からpHiを算出した。全例で頭蓋内圧(ICP),脳灌流圧(CPP),19例で頸静脈洞酸素飽和度(SjO
2)を測定した。予後は当施設退院時のGlasgow Outcome Scaleで評価した。予後別のpHi, CPP,およびpHiの相関関係について考察した。さらに対象を頭部外傷群と脳血管障害群に分類し検討するとともに,pHiの経時的変化をもとに対象を3タイプに分類し検討した。結果:pHi, CPPともに生存例,死亡例の間に有意差を認めたが(p<0.0001),予後良好群(GR+MD),予後不良群(SD+PVS)の間には有意差はなかった。pHiとCPPの間には正の相関関係を認め,頭部外傷例で顕著だった(r
2=0.524)。最終的にpHiが7.2以上を呈する症例では死亡例はなかった。pHi 7.2以上では有意にSjO
2の正常値(50~80%)を示すことが多かった。結論:機能予後予測は困難であるが,生命予後をよく反映した。局所の低酸素状態を反映し,全脳の虚血に至る前に速やかに治療を開始できる可能性が示唆された。低侵襲でベッドサイドでも測定可能であり,重症頭蓋内疾患患者の脳代謝モニタリングとして有用であると考えられた。
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