目的:Systemic inflammatory response syndrome (SIRS)症例に合併したdisseminated intravascular coagulation (DIC)に対するnafamostat mesilate (FUT)投与が凝固線溶系マーカーに与える影響の検討と,これらの症例に対するFUT投与の妥当性の考察。対象と方法:DICを合併したSIRSの16症例を対象とした。さらに16症例をDIC改善の有無で2群に細分し検討を加えた(改善群;n=7,非改善群;n=9)。DICの診断後FUTの投与前,治療開始後1, 3, 5病日に採血し,fibrinopeptide A (FPA), fibrinopeptide Bβ15-42 (FPBβ15-42), D-dimer, tissue plasminogen activator (t-PA)とplasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1)の活性および抗原量を測定した。また背景因子,重症度,不全臓器数,転帰等を検討した。結果:SIRS症例のDICではFPAが著増しトロンビン産生が増加していたが,FUTの投与に伴いFPAは有意に低下した。さらにt-PA活性を認めずt-PA抗原量が増加,両者が解離し,PAI-1は抗原量・活性ともに増加していた。これは線溶抑制活性が亢進していることを示している。この線溶抑制活性の増加にもかかわらず,FPBβ15-42・D-dimer(二次線溶)の高値が全病日持続した。DIC改善の有無によるサブグループ間で比較検討すると,DIC非改善群のFPAはFUT投与にもかかわらず高値が持続し,PAI-1活性はDIC改善群に比較して有意に高値となった。さらにDIC非改善群は改善群に比較して,不全臓器数が多く転帰が不良であった。しかし,両群間のFPBβ15-42・D-dimerの推移に差は認めなかった。これらの結果をもとにSIRS症例のDICに対するFUT投与の妥当性を考察した。結論:SIRS症例に合併したDICに対してFUTは有効な抗凝固薬と考えられる。しかし,本症例のDICでは線溶抑制活性の増加が著しく,FUT投与にもかかわらずトロンビン産生が持続する症例も存在する。これらの症例に対するFUT投与の有効性に関してさらなる検討の必要性を強調した。
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