頸髄損傷における早期神経除圧の臨床的意義を検討するため,脊髄圧迫病変に対して除圧術(脱臼整復または脊柱管内骨片除去)を施した頸椎損傷患者35名の神経学的予後を調査した。受傷時に不全麻痺を呈した20例(Frankel B8例,C10例,D2例)(IC群)は,1年経過時で麻痺の悪化例なく17例に1ランク以上の改善がみられた。回復率(Yale Scale Score)は44.1±30.0%で,受傷から除圧までの時間が長くなると低下する傾向にあり(R=-0.727, p=0.0003),とくに除圧6時間以内(11例:64.0±20.4%)と10時間以降(9例: 19.8±20.2%)で有意差を認めた(p=0.0004)。一方,受傷時Frankel Aの15例(C群)は,調査時は不変8例,改善7例(B5例,C1例,D1例)であった。回復率は11.3±19.6%と低値を示し,除圧時間との相関もみられなかった(R=-0.390, p=0.151)。また,C群の除圧時点での球海綿体反射(BCR)は,陽性8例,陰性7例であり,各々2例と5例に麻痺改善がみられた。CやDへの改善2例は除圧時BCR陰性例に含まれ,それぞれ6時間と3時間で除圧後,BCR出現(spinal shock離脱)とともに随意運動が出現した。以上より,不全麻痺の症例では早期神経除圧(とくに6時間以内)により有意な麻痺の回復が期待できると推測される。一方,受傷時Frankel Aの場合は早期除圧も総じて改善効果に乏しいが,本質的には回復能を有する脊髄不完全損傷(spinal shock期)が潜在している可能性も否定し得ない。それゆえ,たとえ受傷時にFrankel Aであっても頸髄損傷の急性期は臨床的にすべて不全麻痺として対応(早期除圧)することが望まれる。
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