脳動脈瘤に対する低体温療法の意義,適応とその限界につき,直達手術時の低体温麻酔(hypothermic anesthesia,以下HTAと略す)と術後の持続低体温療法(continuous hypothermic therapy,以下CHTと略す)の二面から検討した。HTA群は,軽度あるいは中等度HTA下に急性期手術を施行した163例で,同時期に常温麻酔(normothermic anesthesia,以下NTAと略す)下に急性期手術を受けた229例を対照群とした。来院時gradeは,HTA群で重症例が有意に多かったが,予後は両群で差がなかった。術中の動脈瘤からの出血は,HTA群で8例,5.0%, NTA群では46例,20.1%で,HTA群で有意に少なく,容易にコントロール可能な小出血が多かった。HTA群では,術中のtemporary clip使用による一時的血流遮断も少なく,手術操作による術後の脳梗塞巣や脳圧挫傷の出現も有意に少なかった。HTAは,軽度HTA (35-33℃),中等度HTA (33-27℃),超HTA(人工心肺使用による20℃以下)の3種類に分類されるが,各々の麻酔法の長所,短所を熟知して適応を決定すれば,より多くの症例で,より安全に直達手術を行うための補助治療となりうる。CHTは10例で施行した。6例は高度の脳腫脹に対する頭蓋内圧のコントロールを目的とし,残り4例は術中操作による脳虚血の可能性に対して,HTAから直接CHTに移行し,48時間以内の低体温治療を目的とした。脳腫脹例では,GR 1例,SD 2例,PVS 1例,D 2例と予後不良であった。術中脳虚血への予防的CHTでは,術後に梗塞巣が出現した例はなく,予後もGR 2例,MD 1例,SD 1例と比較的良好であった。CHTに関しては,gradeと予後の記載が明確な最近の5報告からgrade IV, V群についてまとめてみると,SD以下が80%,死亡率50%であった。CHTを用いない自験例でのGCS 8点以下の最重症例に対する成績(SD以下65%,死亡率8%)と比較しても明らかに悪く,その適応には慎重な検討が必要と思われた。
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