日本救急医学会雑誌
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13 巻, 4 号
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  • Part II:生物テロに対する医療機関の準備と対応
    嶋津 岳士, 西野 正人, 中森 靖, 藤見 聡, 速形 俊昭, 小倉 裕司, 杉本 壽
    2002 年 13 巻 4 号 p. 167-173
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    米国での炭疽菌テロ事件を受けて日本国内でも生物テロの脅威が現実性を帯びるようになった。医療従事者や医療機関の生物テロに関する知識や情報は非常に乏しいのが現状であるが,わが国でも早急に対応計画と準備を行うことが要求されている。医療の側面からみた生物テロの特色は,1) 救急隊員や医療従事者が感染患者に対する最初の対応者(first responder)となる可能性の高いこと,2) 大量の被害者(感染者)の発生する可能性があること,3) その結果,医療機関の能力や医療資源を超える多数の患者が一度に病院へ押しかける可能性があること,4) 実際に生物剤が使われなくても社会不安やパニックを生じること,5) 感染症の自然な流行と人為的な流行との鑑別が困難なこと,6) 初期の症状が一般に非特異的であり確定診断が遅れること,7) 二次感染,三次感染などにより拡大する可能性のあること,8) 医療従事者も感染を受ける可能性があること,9) 感染性汚物や死体の適切な処理が必要なこと,などがあげられる。医療機関の対応においては,指揮系統の一元化,情報の一元管理,職員の安全確保,事前の対応計画の着実な実施,地域内の組織との連携が原則となる。さらに,除染設備や個人防護具(防護服,ゴーグル,マスクなど)の整備に加えて,病院内での感染管理,治療薬やディスポ製品の備蓄,診断や検査の手順の確認,隔離の有無などの治療計画,院内各部署の連携体制の整備などを具体的に計画することが必要である。とくに,各自の役割と各部署の役割,連携体制についての教育と訓練を実施して,すべての構成員に周知徹底することが不可欠である。同時に,地域としての対応体制を整えるために,消防,救急,警察,保健所,医師会や他の医療機関等との連携体制を普段より整備しておくことが重要である。
  • 堀口 崇, 斎藤 良一, 稲桝 丈司, 山本 紳一郎, 菊野 隆明, 中村 芳樹, 市来嵜 潔
    2002 年 13 巻 4 号 p. 174-182
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    近赤外線分光分析装置NIRO-300®を用いて,救命救急センターに搬入された,意識障害患者における酸素代謝障害のモニタリングを行った。対象は,救命救急センターに搬送された後NIRO-300®を装着された患者のうち,意識レベルがJapan Coma Scaleで3桁であった14例(男性9例,女性5例,平均年齢47.4歳)で,本装置により測定が可能となった総ヘモグロビン濃度に対する酸素化ヘモグロビン濃度の割合(tissue oxygenation index; TOI)を上腕部および前額部において測定し,得られた値をTOI-A (上腕),TOI-B (前額部=脳)として比較検討した。また,各種ヘモグロビン濃度変化およびベッドサイドでモニタリング可能なパラメーターとTOIの変動を比較し,前回報告した内容に照らし合わせて検討した。大脳半球に障害が及んでいない3例のみが,TOI-BがTOI-Aよりも高値を示した。大脳半球に障害が及んだ11例中,2例を除いてTOI-Bが減少し,TOI-Aよりも低値を示した。この2例に関しては,出血に伴う血管外のヘモグロビンの影響が考えられた。各種ヘモグロビン濃度変化あるいは他のモニタリング可能な指標と比較対応させた結果,虚血脳における酸素代謝障害を鋭敏に捉えていることが明らかとなった。また,TOI-Bが内頸静脈酸素飽和度とよく相関しながら変化する症例を経験した。以上よりNIRO-300®を用いてTOI-BとTOI-Aを相対的に比較すること,各種ヘモグロビン濃度変化あるいは他のモニタリング可能な指標と比較対応させることで,非侵襲的かつ簡便に脳酸素代謝障害の把握がベッドサイドで行い得る可能性が示唆された。
  • 丹正 勝久, 富田 凉一, 目良 浩一, 白井 邦博, 林 成之
    2002 年 13 巻 4 号 p. 183-194
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    侵襲下のエネルギー代謝動態を規定する因子として,血中インスリン/グルカゴンモル比(I/G)が重要である。今回,外科侵襲患者を対象に血中I/Gおよびグルカゴン動態の検索を行い,エネルギー代謝動態との関連について検索を行った。対象と方法:急性腹症および外傷の手術後患者16例を対象とし(P群),これに対する対照群として健常成人10例を用いた(C群)。P群は手術後第2日,第7日に,C群は早朝空腹時に血中I/Gの測定とともにグルカゴン関連ペプタイドの分子型についてゲル濾過法による検索(N端,C端アッセイ)を行った。また間接熱量測定法によりエネルギー代謝動態の検索を行い,I/Gおよびグルカゴン分子型との関連性について検討した。結果と考察:P群第2日,I/GはC群に比し有意の低値を示した。グルカゴンの分子型についてみると,C群ではC端アッセイで膵グルカゴン画分のみにピークを認めたのに対し,P群第2日では11例においてC端アッセイで膵グルカゴンのピーク以外にグリセンチンに類似した特異なピーク(glicentin-like peptides; GLLP)を認め,このGLLPは分子型から腸管において生成されたものと推察された。他の5例はC群と同様であった。間接熱量測定による非蛋白呼吸商(RQ)についてみると,C群に比しP群が第2日で有意の低値を示した。これをGLLP発現の有無で比較してみると,発現症例に比し,非発現症例で有意の低値を示し,著明な内因性脂質依存型の代謝動態を示した。この群は血糖値のコントロールにも難渋した。以上より,侵襲下では,腸管において通常とは異なる特異なグルカゴンプロセッシングが進行し代謝動態の調節が行われている可能性が推測されるが,このプロセッシングが何らかの原因で障害されると糖質利用障害を主体とした代謝障害が出現するものと考えられる。
  • 佐藤 章, 中村 弘, 小林 繁樹, 宮田 昭宏, 中村 達雄, 伊東 範行, 渡邊 義郎
    2002 年 13 巻 4 号 p. 195-204
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    脳動脈瘤に対する低体温療法の意義,適応とその限界につき,直達手術時の低体温麻酔(hypothermic anesthesia,以下HTAと略す)と術後の持続低体温療法(continuous hypothermic therapy,以下CHTと略す)の二面から検討した。HTA群は,軽度あるいは中等度HTA下に急性期手術を施行した163例で,同時期に常温麻酔(normothermic anesthesia,以下NTAと略す)下に急性期手術を受けた229例を対照群とした。来院時gradeは,HTA群で重症例が有意に多かったが,予後は両群で差がなかった。術中の動脈瘤からの出血は,HTA群で8例,5.0%, NTA群では46例,20.1%で,HTA群で有意に少なく,容易にコントロール可能な小出血が多かった。HTA群では,術中のtemporary clip使用による一時的血流遮断も少なく,手術操作による術後の脳梗塞巣や脳圧挫傷の出現も有意に少なかった。HTAは,軽度HTA (35-33℃),中等度HTA (33-27℃),超HTA(人工心肺使用による20℃以下)の3種類に分類されるが,各々の麻酔法の長所,短所を熟知して適応を決定すれば,より多くの症例で,より安全に直達手術を行うための補助治療となりうる。CHTは10例で施行した。6例は高度の脳腫脹に対する頭蓋内圧のコントロールを目的とし,残り4例は術中操作による脳虚血の可能性に対して,HTAから直接CHTに移行し,48時間以内の低体温治療を目的とした。脳腫脹例では,GR 1例,SD 2例,PVS 1例,D 2例と予後不良であった。術中脳虚血への予防的CHTでは,術後に梗塞巣が出現した例はなく,予後もGR 2例,MD 1例,SD 1例と比較的良好であった。CHTに関しては,gradeと予後の記載が明確な最近の5報告からgrade IV, V群についてまとめてみると,SD以下が80%,死亡率50%であった。CHTを用いない自験例でのGCS 8点以下の最重症例に対する成績(SD以下65%,死亡率8%)と比較しても明らかに悪く,その適応には慎重な検討が必要と思われた。
  • 上島 康生, 城野 晃一, 濱島 高志, 斎藤 朗子, 池田 栄人, 栗岡 英明, 依田 建吾
    2002 年 13 巻 4 号 p. 205-208
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    We present a case of an azygous vein injury (AVI) in blunt chest trauma. A 47-year-old woman was involved in a traffic accident, she was injured by the side-impact collision and was brought to the emergency room without any sign of massive hemorrhage. Thirty minutes after arrival, since computed tomography showed right hemothorax, right tube thoracostomy was performed. After 700ml of blood was drained through the chest tube, her systolic blood pressure fell to 70mmHg. Because the bleeding gradually increased via drainage tube, we decided to perform thoracotomy. In the operation we found that the azygous vein was injured in the azygous arch and in the portion between the confluences of 5th and 6th intercostal veins. Thoracic wall injury was not found. Hemostasis was achieved by the suture ligation of the injured sites. The patient was discharged from hospital without any complication caused by hemorrhagic shock 49 days after operation. Only 13 cases of AVI have been reported before our case. Increased hemorrhage caused by chest drainage and delayed hemothorax were reported as characteristic feature of AVI. It might be noted for initial evaluation of chest trauma patients to prepare the potential risk of massive hemothorax caused by AVI.
  • 横堀 将司, 望月 徹, 松本 尚, 工廣 紀斗司, 小南 修史, 小林 士郎, 益子 邦洋
    2002 年 13 巻 4 号 p. 209-214
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    A 44-year-old woman who sustained facial and chest injuries with hemorrhage in a motor vehicle accident developed hypovolemic shock upon arrival at the hospital 40 minutes after the collision. Radiographic examination showed multiple rib fractures, bilateral pneumohemothorax, and pulmonary contusion. Computed tomography (CT) of the brain showed an occipital subdural hematoma. Left hemiplegia appeared the next day. Carotid angiography disclosed a traumatic dissection of the right internal carotid artery with thrombosis. To prevent progression of thromboembolism, we confirmed the presence of adequate collateral circulation from the opposite carotid artery and conducted balloon occlusion in the proximal portion of the thrombosed segment. Ischemic symptoms did not worsen after occlusion. The patient recovered and successfully underwent rehabilitation. In conclusion, balloon occlusion is effective in patients who have traumatic dissection of the internal carotid artery with thrombosis with severe multiple trauma, precluding anticoagulation therapy or neurovascular surgery.
  • 業天 真之, 今井 茂樹, 飯塚 雅美, 玉田 勉, 梶原 康正, 福田 充宏, 小濱 啓次
    2002 年 13 巻 4 号 p. 215-219
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    In 3 patients with traumatic or iatrogenic hemothorax, we conducted transcatheter embolization of the intercostal artery after thoracic drainage. The procedure was completed within 1 hour, and hemostasis was successfully achieved. Few studies have reported intercostal arterial embolization by transcatheter. This procedure is less invasive and requires less time than thoracotomy and thoracoscopic surgery. Even if the volume of hemorrhage is less than the operative indication, this procedure should be conducted aggressively. Complications include spinal infarction related to inflow of embolic materials to the anterior spinal artery and dermal necrosis in the intercostal arterial dominant area. However, these complications can be prevented by carefully confirming the site under direct vision during infusion and carefully selecting embolic materials. Transcatheter arterial embolization may thus be effective for facilitating rapid, safe hemostasis in patients with intercostal arterial injury.
  • 2002 年 13 巻 4 号 p. 220-221
    発行日: 2002/04/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
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