背景:本邦の救急医療機関は初期から3次の3種に分類されている。救急隊員による現場での重症度評価とそれに基づく搬送先の選定(prehospital triage,以下PTと略す)は,本邦の救急医療の重要な要素をなしており,PTは常に正確であることが求められている。目的:東京消防庁におけるPTの有用性と限界について,医療施設における診断と転帰とを考慮して検討する。方法:1997年から3年間に東京消防庁が慶應義塾大学病院(2次・3次救急医療施設,軽症から重症までのすべての救急患者を救急部門が受け入れている)に搬送した全救急搬送患者を対象に,傷病分類(内因性・外因性),PTによる重症度分類(重症・非重症)によって各々2群に分類し,PTの評価と救急室における転帰(ICU・CCUに入院したか否か)とを比較した。さらに,ICU・CCU入院例を対象として入院30日後の累積死亡率を調査し,PTと傷病とが死亡率に影響しているか否かを検討した。結果:3年間の救急搬送患者は15620人であった。このうちPTで重症と判断された患者は1152人(7.4%)であった。一方,内因性は9587人(61.4%),外因性は5763人(36.9%)であった。PTにおける重症患者の頻度は内因性よりも外因性で高かったが(odds ratio=0.52, 95% CI: 0.46-0.59), ICU・CCUに入院した患者は外因性よりも内因性に多かった(3.07, 2.61-3.61)。 ICU・CCUに入院した患者の30日後の累積死亡率は,外因性より内因性が高値で(17.6%, 6.0%, p=0.0003), PTにおける重症が非重症よりも高値であり(27.4%, 12.1%, p<0.0001),両者ともに独立した予後因子であった(relative risk=3.28, 95% CI: 2.37-4.54, 3.03, 1.52-5.88)。結論:PTは,短期生命予後の不良な患者を選択している点において有用性が認められた。しかし,外因性と比較して内因性救急患者においてundertriageが多い限界を有することが示唆された。
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