近年頭部外傷において,受傷早期のカテコールアミンの大量分泌が血圧上昇と心拍数増加を伴い,内分泌学的観点における予後不良因子であると指摘されているが,現在のところ他の血清ホルモン値についての定説はないと考えられる。受傷後当院救急医療センターへ直接搬送され,初回頭部computed tomograpy(以下CT)検査で頭蓋内出血が確認された,血圧低下のない単独頭部外傷症例14例(男性11例,女性3例)について,病院到着時のカテコールアミン,下垂体ホルモン,甲状腺ホルモンおよび副腎皮質ホルモンを測定した。また,1か月後の生死により14例を2群に分類し,年齢,受傷から病院到着までの時間,病院到着時のGlasgow coma scale(以下GCS),血圧,心拍数,shock index(以下SI),各種ホルモン値について各群毎に比較検討を行い,さらに上記の項目と各ホルモン値の間の関係を調べた。死亡群では生存群に比し,有意にGCSが低値でアドレナリン,ノルアドレナリン,甲状腺刺激ホルモンが高値を示し,副腎皮質刺激ホルモンが低値であった。また統計学的には有意とならなかったが,血圧上昇と共に心拍数が低下,すなわちSIが低下する傾向が認められた。生存群においてこのSIの低下とアドレナリンとの間,死亡群では主に甲状腺刺激ホルモンとthyroxine(以下fT4)との間に統計学的に有意な関係を認めた。甲状腺刺激ホルモンとfT4の間には直線的関係が認められたが,その様式は2群で異なっていた。今回の検討で死亡群に認められたSIと下垂体-甲状腺系ホルモンとの関係について,今後症例数を増加すると共に,その因果関係を明らかにしていく必要があると考えられた。
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