日本救急医学会雑誌
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21 巻, 11 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 佐々木 淳一
    2010 年21 巻11 号 p. 871-888
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/01/18
    ジャーナル フリー
    救急・集中治療を要する重篤病態における最大の死亡原因はsepsisであるとされ,その診断と治療開始の遅れが予後の悪化に繋がることが明らかにされている。抗菌薬適正使用の最大の目的は抗菌薬耐性菌の出現抑制であるが,一方でsepsisを含む重度感染症病態に対する集学的アプローチの根幹をなすものとして,最大の治療効果を求めることでもある。感染制御の点から考えると,培養結果における定着と感染の区別,グラム染色による塗抹鏡検,徹底的な血液培養実施などによる的確な感染症の診断は,全身的抗菌療法を考えていく上で非常に重要である。全身的抗菌療法では,病態診断後は速やかに抗菌薬投与を開始し,的確な抗菌薬投与方法を選択すること,すなわちantimicrobial stewardshipが重要となる。具体的には,抗菌薬のde-escalating strategy,PK-PD(Pharmacokinetics-Pharmacodynamics)解析に基づく抗菌薬投与法の設計,antibiotic heterogeneityなどが含まれる。更に,治療のために抗菌薬を使用した結果で発症するClostridium difficile関連下痢症は,感染対策上の大きな問題であり,不必要な抗菌薬使用は慎むべきである。
原著論文
  • 萩原 佑亮, 長谷川 耕平, 渡瀬 博子, 千葉 拓世
    2010 年21 巻11 号 p. 889-898
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/01/18
    ジャーナル フリー
    背景と目的:社会的需要の高まりとともにER型救急医療を提供する施設が増加し,日本救急医学会ER検討委員会より「ER型救急専門医を育成するための後期研修プログラム」が提示された。しかし,救急関連の学会にて研修に関する問題点が発表されながらも,その実態を記述した研究はまだない。本研究では,ER型救急医を目指す後期研修医の職業満足度と研修満足度を調査し,各々に影響を与える因子を明らかにすることを目的とした。対象と方法:救急医としての職業満足度や研修満足度に関する質問票を作成し,2010年2月に無記名アンケート調査を行った。結果:回収率は100%,解析対象者は67名(男57名,女10名)であった。因子分析の結果,満足度を規定する因子として,労働環境因子,ストレス軽減因子,院内研修体制因子,指導教育因子の4因子を抽出した。高い職業満足度ありは45名(67.2%),高い研修満足度ありは34名(50.7%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,高い職業満足度はストレス軽減因子のみ5%水準で有意に関連した(Odds比3.0, 95%信頼区間:1.2-8.6)。高い研修満足度は院内研修体制因子のみ有意に関連した(Odds比2.9, 95%信頼区間:1.2-8.4)。他科への転向を考えている後期研修医は19名(28.8%)であった。χ2検定の結果,高い職業満足度を得られない群は,他科への転向の意思が有意に高かった(Odds比5.1,95%信頼区間:1.6-16.0)。一方,高い研修満足度と他科への転向の意思では有意差が認められなかった(Odds比1.7, 95%信頼区間: 0.6-5.0)。結語:研修満足度を高めるには研修環境を整えること,職業満足度を高めるには業務上のストレスを軽減させることが重要であった。また,高い職業満足度が得られなければ,救急医を確保できないことが示唆された。
  • 鈴木 昌, 堀 進悟
    2010 年21 巻11 号 p. 899-908
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/01/18
    ジャーナル フリー
    目的:救急搬送先となる病院の選定が困難であった事案(選定困難事案)は大都市とその周辺都府県に頻発する。本研究の目的は都道府県別の医療にかかわる公的統計資料を用いて選定困難事案が多発する地域の特徴を抽出し,その原因を考察することである。方法:厚生労働省および総務省の公表資料から,医療資源および医療の利用状況に関する統計資料として,選定困難事案の発生割合,人口密度,人口に占める65歳以上と15歳未満の割合,人口10万人当たりの以下の指標;救急搬送人員,救急医療機関数,救命救急センター数,一般病床数,病院医師数,救命救急医数,初期臨床研修医数,1日あたりの平均外来患者数と新入院患者数,救急外来受診患者数,および時間外外来受診患者数,ならびに救急搬送に占める重症患者の割合を都道府県別に収集し相関分析と主成分分析で解析した。結果:選定困難事案の発生割合は人口密度と正の相関を認めた。人口密度の高い都市では救急医療利用者が多いものの軽症患者が多く,一般外来を受診する患者が少ないことから,受療行動が一般外来から救急外来へシフトしていると考えられた。また,都市では利用可能な医療資源に限界があることも示唆された。主成分分析では,救急医療需要を示す第1主成分と単位人口当たりの医療資源供給量を示す第2主成分が抽出された(累積寄与率は53.7%)。選定困難事案の発生率は第1主成分で0.60,第2主成分で-0.37の成分負荷量を示した。結語:選定困難事案の多発は,救急医療需要の増大と医療資源供給量の不足が要因と考えられた。都道府県別には東京都や大阪府で需要抑制が,埼玉県や奈良県のような大都市周辺府県で救急医療の供給増加がその対策と考えられた。
症例報告
  • 岩村 高志, 伊集院 正仁, 平原 健司, 井上 慎介, 川内 保彦, 佐野 直人, 宮本 比呂志
    2010 年21 巻11 号 p. 909-916
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/01/18
    ジャーナル フリー
    症例は80歳の男性で,左母趾の爪剥離部より感染し,受傷後7日目に当院に入院となった。全身の筋強直と痙攣を認めたため人工呼吸管理を開始したが,midazolamおよびdiazepamでは筋強直と痙攣の抑制は困難であった。入院第6病日より自律神経機能障害の所見が顕著となり,一日の収縮期血圧の変動は170mmHgに達した。propofol(80-160mg/hr)とmagnesium(1g/hr)の併用療法を開始したところ,筋強直・痙攣および血圧変動の抑制に効果的であった。目標血中magnesium濃度5.0-6.0mg/dlにおいては,magnesium単独ではそれらの抑制は困難であり,高magnesium血症に伴う副作用の危険性を考慮すると両者の併用が第一選択と判断した。創部からの嫌気性培養の結果,芽胞を有しバチ状の形態を呈するClostridium様桿菌が同定された。同菌の16SリボゾームRNA解析を行い遺伝子学的に破傷風菌と確定診断し得た。大量magnesium投与は副作用のリスクを伴う治療であるため,血中magnesium濃度に十分注意するとともに破傷風の確定診断が重要である。一般的に破傷風菌の同定は困難であるとされているが,今後確定診断のための遺伝子学的検査の発展が期待される。
  • 中嶋 浩二, 糸川 博, 大石 敦宣
    2010 年21 巻11 号 p. 917-922
    発行日: 2010/11/15
    公開日: 2011/01/18
    ジャーナル フリー
    急性期脳梗塞において,recombinant tissue-type plasminogen activator(rt-PA)静注直後に症状の改善とともに,脳血管撮影で側副血行を介した血流の増加を観察することができたので報告する。症例は,突然の右片麻痺と失語で発症した65歳の男性である。頭部CTでは頭蓋内に出血性病変や早期虚血性変化を認めず,経皮的脳血管形成術を志向して行った脳血管撮影では左中大脳動脈水平部の閉塞を認めた。rt-PA静注療法の適応があると判断し,rt-PA静注療法を開始した。投与開始から30分後に神経症状の改善を認めたため,rt-PA静注療法前に留置した血管造影用シースイントロデューサーを用いて脳血管撮影を行ったところ,左中大脳動脈の閉塞は変わらず,左前大脳動脈からの側副血行路を介した血流が増加していた。rt-PA静注療法直後の臨床症状改善には,側副血行の血流増加が大きく寄与している可能性がある。
編集後記
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