筆者らは前報で(1962 a),ニカメイガの卵塊性幼虫集団の大きさと生存率との関係によって集合性の意義を追求したが,本報ではその集合性の機構を解析するために二,三の実験を試みた。すなわち,ふ化の斉一性とイネ茎内での幼虫の集合度との関係を実験的に調べ,またふ化した幼虫が摂食場所に到達するまでの行動の観察をも行なった結果,次のことがわかった。
1) 大きい卵塊では小さいものに比べてふ化がより斉一に起こり,前者では平均13分,後者では平均20分でふ化が完了した。また小さい卵塊では,ふ化開始から完了までに要する時間に卵塊による変異が著しく認められ,10分から25分でふ化を完了するものまであったが,卵粒数の比較的多いものが早くふ化を完了するといった傾向はなかった。
2) ふ化の2日前に1箇の卵塊を数箇の小片に切り離すと各小片のふ化の状態は上記の小卵塊のふ化と同じような傾向を示したが,各小片を合わせてもとの1箇の大きい卵塊として見た場合にはふ化完了までにきわめて長時間(2∼3時間)を要した。またとなりどうしの各小片があいついでふ化する傾向はなく,各小片で独立にふ化が起こった。
3) ふ化2日前に1箇の卵塊を数箇所任意に針でつぶすと,ふ化完了までに長時間(1∼1.5時間)を要した。
4) 野外のイネ茎における幼虫の集合性は,大きい卵塊ではきわめて強く,針でつぶした卵塊では最も弱かった。
5) ふ化した幼虫は大部分まず葉の先端へ移動し,しばらくwanderingしたのち下降するが,このうちの1ぴきが他の幼虫に先がけて摂食場所に到達し,下降してくる他の幼虫と合流して集団を作り摂食活動に入った。なおこの場合1ぴきの幼虫ではほとんど摂食できず2ひき区では全区のうち半数が摂食可能であって,集団を作らないと摂食しにくいことがわかった。
以上の結果からふ化の斉一性が幼虫集団の形成過程に影響を与え,以後の幼虫の生存率に大きな役割を演じているものと考えられる。
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