1) コナガ野外個体またはアブラナ苗飼育個体をダイコン(
Raphanus sativus L. var.
acanthiformis MAKINO)発芽種子(2葉期)で飼育し,蛹のステージで,5°C 5日間の予冷を行うと蛹の過冷却点が上昇する現象が見いだされた。この現象は,キャベツの若苗やダイコンの成長苗で飼育したときにはみられず,コナガをダイコンの発芽種子で飼育したときに起きる特有の現象と考えられた。
2) その原因を調べるため,昆虫のSCP決定に関与する要因と一般に考えられている,水分や糖の含量について予冷の有無による違いを調べたが,予冷によるSCPの上昇を説明するほどの差は見られなかった。
3) 血液のSCPを測定したところ,予冷によってその値は有意な変化を示さずつねに低かった。血液採取に際して脂肪体がしばしば混入してくるため,脂肪体も予冷によるSCPの上昇を引き起こしているとは考えられなかった。
4) 予冷した蛹をSCP測定に供試した後,80∼90°Cの熱湯に5分間浸漬する処理を行い,再びSCPを測定したところ,最初の測定で-5∼-12°Cと高いSCP値を示した個体のSCPは,熱湯処理後例外なく低くなり,原因が熱変性する物質であることが示唆された。血液についても同じ処理を行ったが,処理前後で差がなかった。
5) ダイコンの発芽種子で飼育した蛹の消化管内細菌の検出を試みたところ
Pseudomonas spp.,
Erwinia spp.である可能性をもった種々のグラム陰性菌が見られた。
6) ダイコンの発芽種子による無菌飼育を試みたところ,得られた無菌蛹37個体のうちで,予冷の後でも高いSCP値を示す個体は一つもなかった。
7) 以上の結果は,ダイコンの発芽種子で飼育したコナガの蛹の消化管内に氷核活性細菌が増加する可能性を強く示している。グラム陰性菌に属する氷核活性細菌
Pseudomonas syringaeや
Erwinia herbicolaがそれぞれ2°C, 5°Cの予冷で氷晶核として活性化される現象がすでに報告されており,これと本種の蛹でみられた予冷の結果は,蛹のSCPの上昇に氷核活性細菌が関与している可能性をさらに強く支持している。
抄録全体を表示