黒蛹ホルモンによる黒蛹形質の制御機構を解明するため,黒蛹発現時における血液および皮膚のフェノールオキシダーゼ活性の消長について研究を行なった。
1. 上蔟期後における皮膚のフェノールオキシダーゼ作用力の消長は,正常系統では吐糸20∼30%頃にピークがあり,以後化蛹期にかけて作用力は減少するが,黒蛹系統では吐糸終了期後から黒蛹ホルモンの臨界期前後にもう一つの特異的なピークがみられた。
一方黒蛹系統の血液のフェノールオキシダーゼ作用力は,吐糸終了前頃から増大して吐糸終了後頃最大となり以後化蛹にいたり徐々に減少するが,正常系統では吐糸終了前頃から増加し,以後化蛹にいたるまで減少しない。
2. 吐糸終了期直前に腹部第3環節の後方で結紮した個体について,黒蛹ホルモンの分泌臨界期後に結紮前半部と後半部の血液と皮膚のフェノールオキシダーゼ作用力を調べた。その結果黒蛹系統の血液では結紮前半部より後半部の方が活性が大であるが,正常系統では逆に前半部が大である傾向が認められた。他方黒蛹系統の皮膚においては結紮前半部が後半部よりフェノールオキシダーゼ活性が大で正常系統では逆に後半部の方が活性が大であり,このような点からもこの時期における皮膚のフェノールオキシダーゼ活性と黒蛹色素形成とは密接な関係があることが明らかになった。
3. カイコの血液中のフェノールオキシダーゼ作用力は,血液を保護することによって高まり,生体内ではプロエンチームとして存在していることが確かめられ,さらにこの血液のプロエンチームを活性化する物質が皮膚中にも存在することが明らかになった。
4. 黒蛹色が発現するための必要条件としては,前胸腺ホルモン,黒蛹ホルモン,黒蛹遺伝子(
bp),血液および皮膚におけるフェノールオキシダーゼ活性,血液のプロフェノールオキシダーゼ活性化物質並びに上蔟期以後における低温保護といった少なくとも6つの要因が考えられる。これらの相互関連の全ぼうはまだ不明であるが,黒蛹遺伝子は黒蛹ホルモンの存在において吐糸終了期後における皮膚のフェノールオキシダーゼ活性の増加に直接あるいは間接に関与しているものと考えられる。
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