溶媒抽出法は,水溶液から金属イオンを選択的に分離する最も効果的な技術の1つである.従来の溶媒抽出法では,ドデカンやシクロヘキサンなどの極性の低い炭化水素系の有機溶媒が用いられているが,本研究では,溶媒に地球温暖化係数が低い環境対応型フッ素系溶剤HCFO-1233ydを用いた新規溶媒抽出法を提案した.フッ素系溶剤は低沸点・不燃性であるため,蒸留により再利用が可能である.金属種は核廃水によく含まれるCs, Rb, Srと,工業廃水に含まれ先行研究としてもよく取り上げられるCu, Caを選択した.リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)(D2EHPA)を用いると,HCFO-1233ydの抽出性能は,対照系として使用したHFE-347pc-fおよびシクロヘキサンと同等の抽出性能を示し,2価金属では弱酸性の平衡条件下で抽出率90%以上,1価金属ではより中性に近い平衡条件下で60%以上を示した.pH調整の代替にCa鹸化抽出剤を用いた1価金属抽出を行うと,80%以上の抽出率を示した.HCFO-1233ydが金属抽出に対するよい溶剤であることが確認できた.
管型固定床反応機(PFR)を用いた化成品の生産では,ホットスポットによる触媒活性の急激な低下や,コーキングが引き起こす閉塞の回避を目的に,触媒に希釈材を混合して活性を意図的に下げた充填が行われる.管に沿った希釈率の分布は生産パフォーマンスを左右する重要因子であるため,その最適化は試行錯誤に頼らず体系的に実行されることが望ましい.既往の研究では,実機に忠実な触媒失活とPFRの両モデルが利用可能であるという前提の下,様々な最適化法が提案されてきた.しかし実機との乖離が小さいモデルを得るには実機試験が必要で,そのためには一時的な生産停止が避けられず,これが現場を萎縮させ実用を困難にしていた.そこで本研究では,実機試験を行うことなくモデルを同定することを目指し,失活モデルは未知,PFRは実機の近似モデルが利用可能という前提の下で,実際の生産期間のデータを活用した,触媒活性分布の推定法およびPFRモデルの精度の評価指標を提案する.この提案をVinyl Chloride Monomerの生産シミュレーションに適用し,生産収益を最大にする希釈率分布の最適化を実施例として示し,目的の達成手段としての提案の有効性を示した.