目的:バイオテロを含む異常な流行を早期探知するための症候群サーベイランスの候補の一つとして救急車搬送数に着目し,その統計学的な性質を明らかにする。材料と方法:東京消防庁が保有する1995年1月1日から2004年12月31日までの救急車搬送数のデータの内,主訴が発熱であった救急車搬送数を対象とする。異常な救急車搬送数の増加の探知は,前半の5年間をベースライン推定のためだけに用い,後半の5年間を前方視的に解析する。異常な救急車搬送数の増加の探知は,実際の救急車搬送数がベースラインよりも残差の標準偏差の3倍以上を上回った場合と定義する。感度・特異度は,前方視的に分析された5年間で,異常な救急車搬送数の増加が探知されていない日を対象に人為的に救急車搬送数を増加させ,それが探知されたかどうかで判断する。結果:ある行政区域に限定すれば平均的には1.1%,つまり年4回程度で流行が探知されたが,東京都全体では39.7%,つまり2.5日に一回異常な救急車搬送数の増加が探知された。特異度は都全体,あるいは23区では非常に高く,追加的な救急車搬送数が1名であれば90%を越えている。感度も高く都全体では異常な救急車搬送数の増加の規模が5人であっても73%の確率で探知できる。考察:以上の成績からこのシステムの異常な救急車搬送数の増加を探知する能力は優れていると判断される。したがって,その正確性を増し,また感度を落とさず特異度を上げるためには他の側面をモニターしている症候群サーベイランスとの比較が必要不可欠であると考えられる。救急車搬送の情報は既に電子的に記録されるシステムが確立しており,それを本稿のような形で解析評価すれば,世界最大の人口を対象とする症候群サーベイランスとなる。その実用性も極めて高いので,早急に東京都のバイオテロ対策として,位置づけられ,活用されることが望まれる。
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