褐色細胞腫自然破裂に対し経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を施行した1例を経験した。
症例:42歳の男性。既往歴なし。
現病歴:裁判の傍聴中,誘因なく突然の左腰背部痛が出現した。近医を受診し,単純CTで左腎周囲の異常を指摘され,当院に緊急搬送された。来院時心拍数122/分,血圧175/114mmHg,呼吸数37/分であり,動脈血液ガス分析においてlactate 3.2mmol/Lと上昇を認めた。左腰背部の著しい自発痛があり,末梢の冷感湿潤が著明であった。
経過:前医のCT所見とバイタルサインから褐色細胞腫自然破裂を疑った。腹部造影CTでは,腫瘍内の造影剤漏出像を認めた。その後救急外来で突然のショックを呈したため,緊急で血管造影検査を施行した。左腎動脈の分枝より造影剤の血管外漏出を認め,同部位にコイルおよびゼラチンスポンジによるTAEを施行した。血圧は一過性に70/35mmHgまで低下したが,TAE終了時には101/50mmHgまで回復した。術後集中治療管理とした。経過中一過性の血圧上昇がみられ,また頻脈およびcardiac index 4-6L/min/m
2の高拍出状態が遷延したが,phentolamine,landiololおよびpropranololを用いて改善した。第7病日に手術目的で転院し,発症後第29病日,左腎および副腎腫瘍摘出術が行われ,褐色細胞腫と病理診断された。
考察:褐色細胞腫自然破裂による出血に対しTAEを行った例は稀である。ヨード造影剤で副腎クリーゼが発症することがあるが,本例では発生しなかった。本例ではTAE前のバイタルサインから本症を積極的に疑うことができ,TAE後も適切な血圧コントロールが行えた。
結語:褐色細胞腫自然破裂の1例をTAE施行および集中治療管理により救命した。褐色細胞腫自然破裂に対するTAEは,急性期の血行動態安定化に有用であった。
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