目的:敗血症患者の循環管理に際しては適切な前負荷の確保が必要である。今回の検討は,臨床で汎用されているSwan-Ganzカテーテル(以下SGと略す)で得られた肺動脈楔入圧(PAOP)が,敗血症例の前負荷を正確に反映しているかどうかを確認することを目的として行った。対象と方法:SGを留置した敗血症11例を対象としてPAOPと一回拍出量係数(SVI),および同時に施行した心エコー法から得た左室拡張末期容量係数(EDVI)の関係を検討した。対照値は受傷後5日以内の外傷急性期16例(以下対照群)から求めた。また,それぞれの左室収縮能を検討した。結果:敗血症群のSVIおよびEDVIは対照群と差がなかったが,PAOPは敗血症群で16±7mmHg (mean±SD,以下同様)と対照群9±4mmHgに比べ有意に高値を示した(p<0.05, Student's t-test)。一方,敗血症群,対照群とも左室収縮能は正常かそれ以上に維持され,差を認めなかった。また,EDVIとPAOPの関係では,同等のEDVIにあっても敗血症群のPAOPが対照群より高値をとる傾向が明らかであった。SGの結果のみを元にして解釈した場合,敗血症群は同等の前負荷(PAOP)からより低値のSVIを示し,左室収縮能の低下があるかのごとく判断される。しかし,実際には敗血症群の左室収縮能は正常に保たれており,対照群と差がない。この矛盾は敗血症に陥った場合,PAOPが真の左室前負荷である左室拡張末期容量を反映せずに高値をとってしまうことで説明される。したがって,PAOPのみを指標として敗血症の循環管理を行った場合には前負荷を過大評価した治療となる可能性が示唆された。結語:敗血症時においては,PAOPは左室拡張末期容量を反映せず,左室前負荷の指標としては適切でない。
抄録全体を表示