本編では,ツマグロヨコバイとヒメトビウンカに対する水面施用の防除効果について,その効果の原因を解析するために行なった実験の結果を報告し,薬剤の浸透移行よりも薬剤から蒸散するガス作用が防除効果の主因であろうと論じた。
1) 吸汁毒性のみによるヒメトビウンカ成虫の致死効果を知る実験では,各種粒剤のうち,PHC粒剤が3kg/10aで効果を示し,他の粒剤は全く効果を示さなかった。ツマグロヨコバイに対しては,PHC, MIPC, NACがわずかに効果を示した。
2) これらの薬剤の吸汁毒性による致死作用は施用後4日目から発現し,3日目までは全く効果を示さなかった。しかし,ほ場で水面施用を行ない落下する虫数を調べてみると,施用後1日目にほとんどが落下して死亡し,吸汁による効果とは考えられなかった。
3) 密閉した箱内における粒剤から発散するガスによる殺虫率をみると,ヒメトビウンカに対してダイアジノン,エチルチオメトンはガスによるきわめて高い殺虫作用をもち,他の薬剤もかなりのガス殺虫力をもつことが明らかとなった。ツマグロヨコバイに対してはダイアジノン,MIPCはガスによる強い殺虫力を示したが,各粒剤とも一般的にはヒメトビウンカよりガスの殺虫力は弱い。また,両種に対して水面施用の状態であってもガスによる殺虫効果は十分に認められた。
4) 広く水面施用剤として実用されているダイアジノン,エチルチオメトンに吸汁による殺虫性がなく,ガス殺虫性が高いこと,吸汁による殺虫性が認められたPHCもほ場ではガス作用によって殺虫するらしいこと,現在施行中のほ場試験によってガス作用による防除効果を認めたことなどから,ほ場における水面施用による防除効果の主因は,水底に沈んだ粒剤が,水に溶けるか,別の経路で大気中にガスを発散させ,これによってウンカ・ヨコバイ類を殺虫せしめることにあると考察した。
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