1979年に行われた夏の「モンスーン観測実験(MONEX)」の高層データを用いて,東部チベット高原領域の熱源の水平,垂直分布とその時間変動を調べた。区分した4つの小領域でそれぞれ質量,熱,水蒸気の収支計算を行ったが,東部チベット高原領域には全体として上昇流,熱源,負の水蒸気源が存在している。しかし,地域的,時間的に大きな変動が存在する。
高度3000m以上の高原上では,400mb 付近に最大加熱率4°C/日を持った熱源があり,この熱源には地表からの顕熱輸送と凝結熱放出がほぼ同程度にきいている。また,この領域では大気中の水蒸気の凝結量と地表からの蒸発量がほぼつり合っており,大規模運動による水蒸気の水平輸送の効果は小さい。一方,アッサム領域を含む高原の南麓地帯では,下層の南西モンスーン流によって豊富な水蒸気が運ばれてきて,多量の雨が降っている。この大きな凝結熱のため,対流圏全体に大きな熱源が存在する。高層の北部斜面地域には小さな熱源が,また,東部斜面地域には比較的大きな熱源が存在する。
東部チベット高原には北の斜面地域を除いて大きな日変化が存在する。00時(約06地方時)よりも12時(約18地方時)により大きな上昇流と熱源が存在し,その差は上昇流で-1mb/時∼-2mb/時,加熱率で1°C/日∼2°C/日である。この日変化は,突出した高原の地表面が日中激しく加熱されることにより生じているものと思われる。
東部チベット高原上の熱源の大きさ,降水量,上層の相対渦度の大きさが約10日∼15日と30日周期で変動していることがわかった。大きな熱源がある時は多量の雨が降っており,上層の高気圧性循環が強い。高原上の熱源と降水量は,インド中部の降水量とほぼ逆位相で変動している。これらの熱源の長周期変動は,モンスーン全体の活動の変動と密接に関係していると思われる。
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