梅雨前線帯への水輸送システムである亜熱帯高気圧の特徴について、1988年7月前半の特別高層気象観測の行なわれた時に九州付近が高気圧に覆われた事例を取り上げて解析した。高気圧域の水蒸気場等の異なる2つの期間を比較する(期間(1):7月6~10日、期間(1):7月11~15日)。
亜熱帯高気圧のリッジを越えて北へ向かう水蒸気輸送の大変弱かった期間(1)では、特に900mb面より上方で(境界層の上方)大変乾燥していた。高気圧域での広範囲にわたる強い下層南風による北向き水蒸気輸送の大きい期間(II)では、高気圧域における可降水量も期間(1)に比べかなり大きかった。この時、境界層の上方でも比湿や相対湿度が大きい点が注目される。
期間(1)の高気圧域では下層雲量も大変小さかったのに対し、期間(II)では浅い積雲対流の強化に伴って下層雲量が20~60%へと増大した。また期間(II)では、下層自由大気中での比湿や相対湿度の増加と下層雲量の増加の対応は日変化スケールでもみられた(海上)。大規模場の沈降に伴う乾気の下降が期待されるにもかかわらず、この期間では風下へ向かって水平方向に比湿が増大していた。今後、水蒸気収支の定量解析で更に確かめる必要があるが、梅雨前線の南側の亜熱帯高気圧域における、特に境界層上方でもみられる多量の水蒸気の維持に対して、浅い対流の役割の重要性が示唆される。
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