気象集誌. 第2輯
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75 巻, 3 号
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  • QBOの2局面間の比較
    堀之内 武, 余田 成男
    1997 年 75 巻 3 号 p. 641-656
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    熱帯対流圏に局在した非定常な加熱により励起される波動の中層大気への伝播と作用を全球プリミティブ方程式モデルを用いて数値的に調べた。このモデルは中層大気のための精度のよい放射スキームを積んでいる。春・秋分の場に異なる準2年周期振動(QBO)の位相を重ねた2つの初期場を用いて伝播と作用を比較した。
    春・秋分の初期場の応答の時間発展はHorinouchi and Yoden (1996)が得た静止大気の線形応答の時間発展と似ている。加熱の持続時間が短ければ(1日以下程度)中層大気におけるエリアッセン-パルム(EP)フラックスはケルビン波を含む重力波により主にもたらされる。一方,持続時間が長ければ(1日以上程度)ケルビン波,ロスビー波、ロスビー重力波の貢献が主となる。
    QBOの西風シアー期では、広い範囲の加熱のパラメター値に関して現実的かやや弱い程度のQBO域の西風加速が得られる。一方、東風シアー期では加熱のスケールが大きいと(約1日以上、数千km)現実的な大きさの東風加速は得られない。低・中緯度の中間圏に伝播する重力波はQBOの影響を受ける。これに伴う重力波によるEPフラックス収束の変動が観測される低・中緯度中間圏のQBO的変動をもたらしているかも知れない。
    全球ノーマルモード「5日波」はQBOの位相に敏感である。しかし現実大気中にはそのようなQBO依存性が観測されていないので、5日波の励起源は熱帯にばかりにあるということはなく、少なからぬ量が中高緯度で励起されていると考えられる。
  • 可知 美佐子, 新田 勍
    1997 年 75 巻 3 号 p. 657-675
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    観測期間30年-50年の全球海面水温(SST)、海面気圧、海上風、降水量、北半球500hPa高度のデータを用いて、大気-海洋システムの年々~十年規模変動を調べた。全球の大気・海洋で最も卓越する年々変動は、エルニーニョ・南方振動(ENSO)に伴う変動である。
    十年規模変動に関しては、2種類の変動が存在することが明らかになった。第1の十年規模変動は、主に太平洋域で顕著に現われ、1970年代後半に大きな変化が起きた。1978年頃を境に、熱帯の海面水温、とりわけ東部熱帯太平洋の海面水温が上昇している。逆に、南北太平洋の中緯度域で負の海面水温偏差が現われる。海面気圧は、東太平洋で負、西太平洋・インド洋で正偏差となっている。これに伴って、赤道西部-東部太平洋で西風偏差が卓越し、熱帯のウオーカー循環が弱まっている。SSTが上昇している中・東部熱帯太平洋で降水量が増加している。合成図解析、特異値分解解析の結果、この変動に伴って大気中には太平洋-北米(PNA)パターンが卓越することがわかった。このPNAパターンは、熱帯中・東部太平洋の海面水温の上昇に伴う対流活動の活発化によるものと考えられる。
    第2の十年規模変動は、北半球中緯度に大きな海面水温偏差を持つ。この変動に伴う北半球500hPa高度偏差は、中緯度と高緯度との間の南北シーソーである。特に、西大西洋で南北シーソーが顕著である。さらに、東アジアから北太平洋にかけて大きな正の高度偏差が卓越している。この第2モードは約15年の時間スケールで変動しており、最近では、1987年頃を境に符号が負から正に変化した。
    最後に、長期トレンドについても調べた。ほとんどの熱帯域で海面水温は上昇傾向にある。一方、北太平洋の海面水温は下降傾向にある。北大西洋に大きな海面気圧と海上風のトレンドがある。ほとんどの熱帯域では東風が強まる傾向がある。北半球500hPa高度では、最近50年の間PNAパターンが強まっている。
  • 高田 久美子, 野田 彰
    1997 年 75 巻 3 号 p. 677-686
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    CO2による気候変化における、水蒸気の鉛直プロファイルに対する積雲対流の効果について調べた。Arakawa-Schubertの積雲パラメタリゼーションを用いた一次元放射対流平衡モデルを、積雲対流の最も活発な赤道域の年平均太陽放射を与えて用いた。熱帯の水蒸気・熱バランスにおいては、大規模場による熱帯-亜熱帯間の水蒸気と熱の輸送が重要であるので、それを考慮したものと考慮していないものの2種類のCO2倍増実験を行った。
    大規模場の輸送を考慮しない場合は対流圏中層以上の水蒸気の増加がほとんどなく、CO2による地表温度の上昇は3次元モデルによるCO2実験の結果よりも小さくなった。しかし、大規模場の輸送を考慮すると絶対湿度は対流圏全層で増加し、地表温度の上昇は3次元モデルによるCO2実験と同程度となった。大規模場の熱輸送はコントロールでの積雲の活発化に寄与しており、水蒸気輸送はCO2増加時の積雲による水蒸気の鉛直輸送の感度を増大させていると見られる。これらの結果から、放射強制力の変化による積雲対流の応答は大規模場の輸送に非常に敏感であることが示された。
  • 直江 寛明, 松田 佳久, 中村 尚
    1997 年 75 巻 3 号 p. 687-700
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    色々な基本場におけるロスビー波の伝播の様相を球面上のバロトロピックモデルの時間積分によって研究した。
    初めに、理想化した基本場における伝播を調べた。東西一様の基本場が強いジェット気流を持つ場合は、ジェット気流はロスビー波の導波管の働きをする。平均流と東西波数1(又は2)の重ね合わせで基本流が構成されているときは,ジェットの入口から射出されたロスビー波はジェット気流の入口と出口の間の経度(西風が強い所)を速やかに東に伝播する。そして、その波はジェットの出口付近で停滞し、そのエネルギーはそこに蓄積する。基本流の東西非一様性が大きいときは、基本流が順圧的に不安定になる。しかし、この不安定は弱いので、伝播の様相がこの不安定の影響を受けることはなかった。一方、基本場からの運動エネルギーの順圧的変換も波のジェットの出口付近での増幅に重要であることもわかった。つまり、ジェットの出口付近での波の増幅は、上流のエネルギー源からのそこへの波のエネルギー伝播とそれに基づくそこでの順圧的変換による増幅と理解される。
    次に、冬(12月から2月)の観測データから得られた1か月平均の300hPa面での流れを基本流として、そこでの波の伝播を調べた。1986年の12月の場合、アジアジェットの入口と出口の間を東へ伝播したロスビー波はジェット出口付近で進行を妨げられ、その付近に停滞した。1984年1月の場合は、ロスビー波の経路はアジアジェットの出口において北大西洋ジェットに接続する東向きの経路と赤道向きの経路とに分岐した。このようにロスビー波の伝播特性は基本流の分布に強く依存することが例示された。
  • Jian-Ping Huang, Kaz Higuchi, Neil B. A. Trivett
    1997 年 75 巻 3 号 p. 701-715
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大気中のCO2濃度の短周期変動を解釈するために、ウェーブレット理論を基にした多重解像度フーリエ解析(MFT)が利用できることを提案した。まず、幾つかの異なった合成信号を用いて検討した結果、時間と周波数において局在性を示す変動の解析にとって本解析は有用であると考えられた。
    次に、MFTは1988年から1995年の間にアラートで観測されたCO2濃度の変動を調べるために適用された。その結果、20-50日と6-14日の準周期的変動が顕著であり、これらの変動の振幅と周波数は季節変化によって強く変調され、また季節変化の最大振幅は冬期にみられることが見いだされた。さらに、これらの短周期変動(特に後者の変動)が明瞭な年々変動を示すことも明らかとなった。
  • 杉 正人, 川村 隆一, 佐藤 信夫
    1997 年 75 巻 3 号 p. 717-736
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    気象庁全球モデルを用いて、アンサンブル気候実験を行い、海面水温(SST)変動に強制されて起きる大気の長期変動と、季節平均場の予測可能性について調べた。
    モデルの34年時間積分を3回実行した。3つの時間積分はいずれも1955-1988年の実測のSSTを境界条件としているが、大気の初期状態が異なっている。
    季節平均場の全変動のうち、SSTの変動で強制されて起きている変動の割合(分散比)を計算した。この分散比は、SSTが完全に予測された場合の最大予測可能性(ポテンシャル予測可能性)を示すものと考えられる。気圧場の分散比は一般に熱帯では高い(50-90%)が、中高緯度では低い(30%以下)。
    このことは、季節平均気圧場の(ポテンシャル)予測可能性は、熱帯では高いが、中高緯度では低いことを示唆している。一方、季節平均降水量の分散比は、ブラジルの北東部の74%、インドモンスーンの31%というように、熱帯の中でも地域によって大きく異っている。全球平均の陸上の地表気温の分散比は高い(66%)が、ほとんどの陸上の地点での局地的な地表気温の分散比は低く(30%)、海面水温予測にもとづく局地的な陸上の気温の予測可能性が小さいことを示唆している。
  • 児玉 安正
    1997 年 75 巻 3 号 p. 737-751
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ヤマセ気流は、オホーツク海高気圧の南ないしは南東の縁にそって、北太平洋で発達した寒帯気団が三陸地方に向かって吹き出すものである。通常、オホーツク海高気圧とそれに伴うヤマセ気流は、夏季に間欠的に現れるのみであるが、1993年の夏季には、それらが7月中旬から8月中旬まで持続した。持続的なヤマセ気流のため、三陸地方では異常な低温が総観規模の時間スケールの気温変動を伴いながら続いた。本研究では、気温変動の相対的な高温期と低温期の両方について、1993年のヤマセ気流の北西太平洋上における気団変質のメカニズムを調べた。
    三陸地方沿岸で観測されるヤマセの気温は、沿岸のSSTを短期間3℃以上上回ることはあったが、SSTを3℃以上下回ることはなかった。つまり、SSTは気温の下限を決めていた。ヤマセ気流の気温変化は北西太平洋上のヤマセ気流の流跡線と関係していた。三陸地方に達するヤマセ気流の空気塊は、低温期には千島列島方面から南西進し、高温期には日本の東方海上から北西進してきていた。三陸沖ではSSTの南北傾度が大きいので、ヤマセ気流の南北方向の向きの変化は、その気団変質に大きな影響を与えていた。流跡線の違いには、オホーツク海高気圧の北太平洋への張り出しの強弱が関係していた。
    低温期には、三陸地方で観測されるヤマセ気流には下層雲を伴った大気混合層が発達した。千島列島から東北地方にいたる海上で、ヤマセ気流は海から顕熱と潜熱をそれぞれ~30Wm-2、~80Wm-2受取り、これによる加熱は下層雲による~70Wm-2の放射冷却を打ち消して、気温をSST-3℃以上に保っていた。
    高温期には、三陸地方のヤマセ気流には下層雲を伴った海面に接地する安定層が発達した。東北北部の沿岸域ではSSTが気温より低く、ヤマセ気流は、顕熱と潜熱をそれぞれ10~20Wm-2、0~20Wm-2失っていた。下層雲による放射冷却もヤマセ気流の冷却に寄与していた。しかし、三陸地方沿岸域での気流の北上が非常に速い場合や、上層雲によって放射冷却が弱められる場合には、ヤマセ気流の気温低下がSSTの低下に追いつかない可能性がある。
    ヤマセ気流の気団変質は低温期であっても、冬季アジアモンスーンが黒潮域に吹き出す際に比べてきわめて弱かった。冬季モンスーンの気団変質では下層雲の放射冷却は海面の熱フラックスに比して無視できるが、ヤマセの気団変質では熱フラックスと同程度で重要である。
  • 岡田 菊夫, 伍 培明, 田中 豊顕, 堀田 貢
    1997 年 75 巻 3 号 p. 753-760
    発行日: 1997/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    電子顕微鏡による組成分析用の個々の成層圏エアロゾル粒子を採集することが可能な気球搭載型軽量サンプラーを開発した。このサンプラー(重量917g)は、二段インパクター、ポンプと制御部から構成されており、3kgのゴム気球により飛揚させることができる。落下地点の正確な予測により、田園地域においても安全にサンプラーの回収が可能である。粒子採集中において、電子顕微鏡グリッドは、インパクターのジェット直下に止まるようにした。観測において、各インパクターにより、それぞれ16試料が電子顕微鏡グリッド上に採集される。
    1994年8月、つくばにおいて、このサンプラーを気球に搭載して地上から下部成層圏において粒子試料を採集した。下部成層圏において、硫酸粒子が半径0.03-1μmのエアロゾル粒子のなかで主要に存在していることが分かった。以前に我々が使用した単段式インパクターと比べ、開発された二段式インパクターを用いることにより、大きな硫酸粒子に起因して採集面上に放射状に形成される液滴リング(satellite droplet rings)の重なりを抑制することができた。このサンプラーで得られた試料は個々の粒子組成の電子顕微鏡分析に活用できる。
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