気象集誌. 第2輯
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69 巻, 6 号
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  • 赤道ベータ面において東西方向に動く局在化した熱源に対する線型応答問題
    吉崎 正憲
    1991 年 69 巻 6 号 p. 595-608
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    熱源の構造は与えられたと仮定して、赤道ベータ面において、東西方向に一定の速度で動く局在化した熱源に対する線型応答問題を解析的に解いた。Lau•Lim(1982) は長波近似を用いて同じような問題を解いたが、ここではプリミティブ方程式系を用いて、あらゆる赤道波(ケルビン波•ロスビー波•慣性重力波)が作る応答パターンを求めた。
    まず、鉛直モードが1つで東西および南北方向にガウス分布をした単純な熱源に対して、応答パターンを調べた。熱源が早く東向きに動く場合、ほとんどケルビン波による応答パターンであり、波列は見られなかった。また、熱源がゆっくり東向きに動くあるいは静止した場合、熱源の東側にはケルビン波、西側にはロスビー波の応答パターンが見られた。これらは、長波近似の結果と変わらなかった。一方、熱源が西向きに動く場合、長波近似は成り立たなくなった。特に、熱源が早く動く場合、慣性重力波が作る波列が見られた。ここで用いた熱源が西向きの慣性重力波をよく励起して東向きの慣性重力波を余り励起しなかったのは、南北構造の違いのためである。
    赤道ベータ面のpositive-only wave-CISK モデルには東進しながら発達するモードと西進しながら発達しないモードが存在する(吉崎、1991)。この東進モードは熱帯季節内振動(30-60日振動)の東進するスーパークラウドクラスターに対応する。ではなぜ東進モードの選択性が起こるのか、求めた解析解を用いて、応答問題の立場から考察した。西進するモードが発達できなかったのは、その東側に高次の鉛直モードの慣性重力波の波列ができ新たなモードを常に励起したためである。一方、東進するモードが孤立して発達できたのは、ケルビン波の応答が卓越して慣性重力波の波列ができなかったためである。こうした応答の違いによって、東進するモードだけが選択的に発達することになった。
  • 高藪 出
    1991 年 69 巻 6 号 p. 609-628
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    「カップリング発達」一対流圏上層と下層の二つの渦のカップリングにともなう低気圧の急発達一を、β一平面チャネルの水無しプリミティブ方程式系モデル(16層、格子間隔100km)を用いて数値的に調べた。
    カップリング発達を再現する適切な初期条件を探った結果、下層渦をジェット軸上に、上層渦をその北西方に置いたときに「カップリング発達」が生ずることが判った。この「カップリング発達」は次の三ステージからなる。1)上層フロントゲネシスがもたらす上層渦の変形(初期-2.0日目)。2)下層渦位の移流がもたらす下層渦の北上(2.0-3.0日目)。3)上下の渦の「カップリング」に伴う下層渦の発達加速(2.5-3.5日目)。いずれのステージにおいても、渦と渦、あるいは渦と偏西風ジェットの相互作用が重要な役割を果たしている。
    本論文では、日本列島周辺で1986年4月25-28日にかけて発達した低気圧についての簡単な解析も行った。この低気圧については次の二点の特徴が確認された。1)カップリングに先立つ下層渦の北上。2)傾いた等温位面に沿った上層渦の下方侵入と、急発達開始期の下層渦との「カップリング」。数値実験の結果はこれらの諸特徴をよく再現しており、「カップリング発達」のメカニズムが中緯度で重要であることを示している。
  • 銭 公望, 田中 浩, 大和 政彦, 石坂 隆
    1991 年 69 巻 6 号 p. 629-640
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    サブミクロン領域の個々のエアロゾル粒子に含まれる硫酸イオンと硝酸イオンを同時に検出する方法を開発した。この方法は、硝酸イオンとニトロンの反応及び硫酸イオンと塩化バリウムの選択的反応に基づいている。複合薄膜はニトロンと塩化バリウムの真空蒸着によって作られる。個々の粒子中の硝酸イオンとニトロンの反応及び硫酸イオンと塩化バリウムの反応を進めるためには、オクタノール飽和蒸気の雰囲気中への露出が適している。この反応条件で、個々の粒子中の硝酸イオンの存在は針状結晶の集合体の析出により、硫酸イオンの存在はリーゼガングリングの析出によってそれぞれ示され、その再現性がよいこともわかった。また、大気中のエアロゾルに含まれる主要構成成分である塩化物イオンと炭酸イオンによる妨害はなく、硝酸イオンと硫酸イオンに対してのみ特異的であることもわかる。実際にこの方法を大気中のエアロゾルに適用してその有効性を確かめることができた。もっとも興味あることは、硝酸イオンと硫酸イオンを同時に含む内部混合粒子が観測できることである。
  • 降雪形成機構及び氷晶生成頂に対する感度実験
    猪川 元興, 水野 量, 松尾 敬世, 村上 正隆, 山田 芳則, 斉藤 和雄
    1991 年 69 巻 6 号 p. 641-667
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    水蒸気、雲水、雨水、雲氷、雪、あられの混合比、及び雲氷、雪の数濃度に加えて、あられの数濃度も予報するバルク法による雲物理過程のパラメタリゼーション法が示され、冬期日本海上で観測された、雲頂温度-20°Cの対流性降雪雲の3次元シミュレーションに適応された。
    従来のFletcherの昇華核生成•凝結凍結核生成、 Biggの雲粒凍結、及びHallet-MossoPの着氷時における2次氷晶生成を考慮したシミュレーションでは、氷粒子の数密度の最大値は5×104m-3であり、観測値の最大値(2×105m-3)の1/4であった。レーダー反射強度は観測値より10dBZ大きかった。他の点は、おおむね、定性的にはよい一致がみられた。再現された雲の各発達段階における降水形成過程の特徴が明らかにされ、それは、播磨屋•佐藤(1989)や水野•その他(1990)の観測結果と整合的であった。
    各種の氷晶生成頂を大きくした感度実験が、より現実的な雲を再現するために、又氷晶の数密度の増加が降雪形成におよぼす効果を調べるために行われた。氷晶の数を105m-3-106m-3程度の増加させると、雲の数密度がふえ、空中の雪の混合比と数密度が増え、レーダー反射強度が減る。さらに氷晶の数を増加させると(107m-3)、降水が抑制され、雲粒とあられはなくなり、たくさんの雲が空中に蓄積される。これらの実験により、この雲に対して過剰種まきによる降水抑制の可能性があることが示された。
    氷粒子の数密度を予報する方式の利点が議論された。シミュレーションでは、雲やあられの逆指数粒径分布関数のパラメーター、NosとNogは一定ではなく、降水強度の関数というよりはむしろ対流雲の発達段階の関数であることが示された。これはNosとNogをあらかじめ与える方式では得ることのできない結果である。より忠実な雪雲のシミュレーションには、氷晶生成頂に関するよりしっかりした知識が必要不可欠であり、これは今後の重要な研究課題である。
  • 二宮 洗三
    1991 年 69 巻 6 号 p. 669-685
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    北日本周辺の寒気内小低気圧は次の2種類に大別される;(1)アジア大陸東岸で発生す.るmeso-α-scale のpolar low、(2)北海道西岸で海上の暖気と北海道内陸からの寒気流の境界で発生するmeso-β~γ-scale low。
    本報告では(1)の典型例として1985年12月9-11日のpolarlow発生•発達を調べ、下記の発生発達過程を見出した。(1)アジア大陸東岸の下部対流圏では準定常的に強い気温傾度が維持されている。(2)寒冷渦を含む大規模トラフが接近し、その前方の日本東方海上で総観規模低気圧が発達する。(3)大陸東岸で低気圧の循環が強まり、北西象限の東風による暖気移流、南西象限の西風による寒気移流が強まる。このシアーによるfrontogenesisの状況下で対流圏下層で低気圧は西側に伸び東西に伸びるトラフ(シアーライン)が形成される(第17図参照)。(4)北側の暖気移流域では上昇流と厚い雲域が、南側の寒気移流域では下降流と少雲量域があらわれる。(5)同時的に、寒冷渦の近傍かつW-Eトラフの内部でpolar lowが発生する。(6)以上のように、総観規模低気圧はpolar lowのparent lowの役割をはたしている。(7)発生期、polar lowの循環は対流圏下層でのみ見られる。最、盛期にはeyeを持つspiral cloud bandsが形成され低気圧性循環は対流圏中層におよぶ。(8)上層寒冷渦前面の上昇流、寒冷渦通過に伴う鉛直安定度の減少がpolar low発生に有利な条件となる。(9)parent lowが北西太平洋に去り、polarlowが大陸東岸を離れるにしたがいpolar lowは急速に衰える。(10)polar lowが北海道に上陸した時、その中心部と東外縁部との間に強い気温傾度が見られた。これはpolar lowの気流によって海上から侵入した暖気と北海道内陸の寒気との間の気温傾度であるが、この時点でpolar lowは衰弱している。
  • 轡田 邦夫
    1991 年 69 巻 6 号 p. 687-700
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    太平洋上の月平均海上風応力の時系列(ORI•FSUデータ•セット)を用いて、ENSOの発生に関係する周期帯における経年変動の空間特性を調べた。注目する周期帯は、熱帯太平洋東部海域の海面水温(SST)の時系列にみられる2つのスペクトルピークに相当する約3年半と約2年である。各格子領域における海上風応力とSSTとの間の相関特性を用いて、2つの周期帯における空間変動パターンを導出した。
    その結果、約3.6年の周期帯の変動は、高相関域が熱帯域だけでなく、中•高緯度域にまで広がり、太平洋規模の特性を示す。ENSOのピーク時には、赤道付近の海域における西風偏差などの赤道に対して対称的なパターンと共に、赤道北方の西部海域における東風偏差などの非対称なパターンも認められる。こうした空間特性は、コンポジット解析による結果と類似しており、この周期帯の変動がENSOに関係する変動における重要な要素であることが示唆された。一方、約2年の周期帯の変動は、熱帯域の特に西部で卓越するが、高相関域が熱帯域に限定され、中高緯度域との間の連関は認められない。この周期帯の変動は、熱帯域で特徴的であると共に、3.6年周期の変動との位相関係がENSOイベントの発生に重要であることが示唆された。
  • 菊地 勝弘, 藤井 雅晴, 城岡 竜一, 吉田 晋
    1991 年 69 巻 6 号 p. 701-708
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    雲頂や雲底の凹凸が太陽放射や大気放射に影響を与える筈であるが、これらの凹凸を詳しく測定した例はない。そのため層積雲を対象として、雲底構造がどのようになっているかを調べるために、基線長462mの2ケ所に広角カメラの光軸を鉛直上向きにしてステレオ写真観測を行った。観測は主に1986、87年の夏と秋に行われた。
    一組の雲底のステレオ写真を画像解析装置を使って処理し、凹凸のエッジを求めた。その結果、解析された層積雲の雲底は300m.程度の凹凸があることが明らかになった。
    さらに、雲底の高度と輝度の関係から、雲底の凹凸の形状を求めた。雲底付近の風速が小さく、またシヤーが弱い時は、凹凸の大きさと深さの関係はほに半球に近かった。しかし、風速が大きく、シヤーが強い時は、半球よりも偏平になることがわかった。
  • 内野 修, 高島 英之, 田端 功
    1991 年 69 巻 6 号 p. 709-714
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    零下30度まで冷却した新しい型の光電子倍増管R3236とフォントカウンティング法で、エーロゾルの散乱に敏感なNd:YAGレーザーの基本波1064nmを用いて成層圏エーロゾル及び高度2.25km以上の対流圏のエーロゾルのライダー測定を行った。その結果R3236はバックグランドレベルに近い成層圏エーロゾルの観測にも有用であることがわかった。
    つくば(36.1°N,140.1°E)における1988年11月から12月にかけての観測によると、圏界面より上で積分された成層圏エーロゾルの後方散乱係数は3.3×10-5sr-1であった。自由大気中でしばしば対流圏エーロゾル層が観測され、散乱比が最大となる高度は、安定な成層圏エーロゾルに比べ、観測ごとに変化した。また二つの逆転層に閉じ込められた対流圏エーロゾル層も幾つか観測された。
  • 小寺 邦彦, 千葉 長, 山崎 孝治, 柴田 清孝
    1991 年 69 巻 6 号 p. 715-721
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    Nigamは対流圏の帯状平均東西風のEOF解析を行い、その第一モードは亜熱帯ジェットの南北変位を現わしているものと考えている。彼の抽出した第一モードの時系列をずらし相関を用いて調べると、東西.風の変化はまず成層圏から始まり、次いで対流圏に伝播してくるのが認められる。また、大気大循環モデルを用いた実験によっても、初期に成層圏に与えた変動が対流圏に伝わりそこで重要な変化を引き起こす可能性が示唆される。
  • 木田 秀次, 小出 孝, 佐々木 秀孝, 千葉 長
    1991 年 69 巻 6 号 p. 723-728
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    この論文には、領域気候のシミュレーションが行なえる領域モデル開発のために、高分解能の領域モデルを大気大循環モデルに結合する新しい方法が提案され、それに基づく1か月積分が試験されている。
    領域モデルを大規模スケールのモデルに結合させる伝統的な手法は、いわゆる側面境界条件を通じて結合させるものである。しかし、ここでの新しい方法は、現象を波数空間で見て、ある波数を境界にして低波数側と高波数側とに分け、それぞれ大循環モデルと領域モデルとで積分し、それらを結合する。
    その方法は、具体的には、領域モデルのある適当な境界波数以下の大規模場を大循環モデルの大規模場に、ある適当な時間間隔で置き換えることにより行なわれる。
    1ヶ月積分の数値実験の結果によると、その期間中、積分は極めてスムースに進み、大規模現象に関連するメソスケール現象もよく再現されている。このことから、今回の方法は領域気候のシミュレーションを行なう一つの方法として有効であると考えられる。
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