関東平野中部で陸風が吹き出す際にしばしば現れる前線のような現象について,地上の大気汚染を調べた。汚染を支配する因子を探るため,汚染と気象条件との関係を統計的に解析した。
前線は,10
-4s
-1のオーダーの水平収束と正の渦度を持ち,約10kmh
-1で東へ進む。前線の通過時刻は,関東平野上の気圧傾度の東西成分と相関を持ち,冬は平均20時頃,夏は2時頃である。一方,陸風の風向は,気圧傾度の南北成分と相関を持つ。
冬で陸風の風向が西寄りである日には,前線の通過に伴ってしばしば気温の低下と汚染物質濃度の上昇が起こる。濃度が上がるのは,一酸化窒素,一酸化炭素,浮遊粒子状物質であり,これらは自動車の排気ガスにまれる物質である。濃度は前線通過の約1時間後に極大になり,以後は下がる。冬で陸風の風向が北寄りである日や夏は,汚染はあまり目立たない。
冬の個々の日の濃度は,地上付近の安定度と相関を持つ。従って,汚染強度は安定度に支配されると考えられる。冬の日の汚染強度が陸風の風向によって異なるのは,気象条件の違いに伴う風速と雲量の差によって,安定度が異なるためであると考えられる。一方,汚染強度の季節による差は,前線の通過時刻の違いによる陸風層内の排出強度の差にその原因の一部があると考えられる。また,陸風による移流は汚染物質の輸送に寄与すると考えられる。これら汚染を支配する因子と,関東平野上の気圧傾度および陸風の性質との間の関係を,整理して図にまとめた。
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