気象集誌. 第2輯
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77 巻, 1B 号
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  • Fei Chen, Kenneth Mitchell
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 167-182
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    GEWEX/ISLSCP全球土壌水分プロジェクト(GSWP)は全球土壌水分量場を導出し比較するため、また最終的にGCM感度実験にそれらを対応するために、個々の地表面モデルを共通の大気強制力データセットにより実行し、地表面モデルの参加を促した最初のプロジェクトである。このプロジェクトの参加者として、1987年から1988年のISLSCPの共通大気強制力データとNCEP地表面モデル(LSM)を使い、土壌水分量を含む全球の水文量場を導出した。これらの場は観測によって広範囲な大陸領域に亘って一様に得ることは困難である。計算された全球水循環はそれらの水文量の季節変動をよく反映していることがわかった。強制力場の解像度が1×1度と比較的粗いにもかかわらず、土壌水分場には著しい水平変動が見られ、それは降水の水平パターンのみならず、流出や蒸発量の水平パターンにも関連している。また、植生や土壌特性の水平変動が地表面水循環の変動に寄与している。
    計算された全球地表面水循環とNCEP/NCAR再解析地表面データとの比較も行った。ほとんどの領域で再解析の土壌水分量はGSWPの土壌水分量よりも大きな年変化振幅を持つようだ。さらにもっと著しい違いは、北半球中高緯度で再解析の土壌水分量は同地点のGSWP土壌水分量に比べてより非一様であり、より湿っていることである。これは再解析システムに使われている気候的土壌水分の人工的なダンピング場に起因している。
    最後にイリノイ土壌水分ネットワーク(Illinois Soil Moisture Network)で測定された土壌水分量を用いて、計算された土壌水分量の検証を行った。ここでは平均深層根系層の土壌水分量の比較に焦点を絞った。1987年から1988年を対象に計算されたイリノイ州での土壌水分量は、季節発展の位相ばかりでなく、年変動の振幅もよく捕えている。この結果は、正確な大気強制力と論理的に正しい局地植生分布と土壌特性が与えられたならば、LSMは自然の土壌水分量の発展を良く計算することができることを示している。
  • Jared K. Entin, Alan Robock, Konstantin Y. Vinnikov, Vladimir Zabelin, ...
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 183-198
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全球土壌水分“データセット”を作成するために、全球土壌水分プロジェクト(GSWP)により、10個の異なる陸面モデルが2年間(1987-88)の気象観測値によって駆動された。本研究では、植物が利用可能な表層1mの土壌水分量の観測値を、モデルで得られた同じ物理量と比較した。土壌水分量の観測値はロシア、イリノイ(アメリカ合衆国)、中国、モンゴルの、草地と農業地域から得られた。
    どのモデルもどの地域についても実際の土壌水分量をうまく表現してはいない。従って、GSWPは全球土壌水分量を産出できることをまだ実証してはいない。しかしながら、ひとたびバイアスさえ取り除いてしまえば、各モデルは様々な地域の土壌水分量の季節変化をよく再現していることが分かった。モデルのバイアスは地域ごとに異なるので、単に平均値を用いて修正するだけでは正しい結果は得られない。パラメータをより明確にすること、もしくは物理的・生物的プロセスをもっとよく再現することが、各モデルの改良のためにさらに必要である。
    将来のGSWPはもっと長い期間のデータを用いて行なわれるべきであり、流域スケールの検証や、モデルの出力の時間分解能をより細かくすることに重点が置かれるべきである。さらに、衛星計測を取り込むことで増加するであろう土壌水分量の観測値によって、次の研究計画では大いに改善されるであろう。
  • 松山 洋, 西村 照幸, 佐藤 信夫
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 199-215
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1987~1988年のFIFEの観測値と、ISLSCP Initiative I CD-ROMの入力データおよびJMA-SiBの出力を比較した。検証にはA.K.BettsとJ.H.Ballによってまとめられた領域平均値を用いた。
    JMA-SiBでは、1988年の暖候期における5cm以深の土壌水分量が系統的に過少評価されている。これは1987年秋から1988年春にかけての地表面熱収支・水収支の違いによる。この期間の総降水量は観測値・モデルの入力データともに等しい。しかし、前者では降水量がほぼ土壌水分量の増加に寄与しているのに対し、JMA-SiBでは大半が蒸発散量として失われている。1988年春の土壌水分量の違いが生じる原因は、(1)冬季の混合比がモデルの入力データによって系統的に過少評価されており、JMA-SiBの蒸発散量が大気中の湿度に反映されず乾燥し続けていること、(2)この期間の総降水量の半分が、実際には土壌水分量の観測再開直前の11日間に集中して降っているのに対し、これをモデルの入力データが過少評価していること、などであると考えられる。
    このように、モデルの入力データと観測値の間に違いが見られたので、GSWPでは、モデルで得られた土壌水分量と観測値だけを比較して両者の違いを議論すべきではない。FIFEの観測値をモデルの入力データとする別の検証実験が必要であると考える。
  • Changan Zhang, Donald A. Dazlich, David. A. Randall
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 217-234
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    観測ならびに同化データを地表面モデル(SiB2)に外力として与えることにより、グローバルおよび地域スケールでの土壌水分と水収支が算定された。各格子内で計算された流量は河川流出量を計算するためにグローバルな流下モデルの入力として与えられた。算定された土壌水分と水収支の年平均値と季節変化とが、グローバルスケールならびに格子点スケールで利用可能な観測値と比較された。シミュレーションにもローカルな観測にも土壌水分の大きな年々変動があった。主要な河川流域に対する年流出量算定値は観測値と概ね良く一致したものの、多い観測流出量に対してはやや過小推定もあり、少ない観測流出量に対してはいくらかの過大推定もあった。いくつかの河川流域では年平均値の過小評価があったものの、熱帯、中緯度、そして高緯度に特有の河川について河川流量の季節変化は良く再現されていた。熱帯では、土壌水分と地表面水収支の季節変化は降水量の季節変化に支配されている。中高緯度では土壌水分と水収支は気温と降水量の両者の季節変化と、積雪融雪変化の影響を受けている。緯度が上がるに連れて土壌水分の年変化幅は小さくなる。いくつかの格子点について推定した土壌水分の季節変化を観測点の数を変えながら比較した。観測点での観測外力と地表面パラメータにはモデルで利用したものと若干の違いがあるものの、算定された土壌水分はほとんどの観測地点で多年観測値と良く一致している。しかしながら、ほとんどの地点で、季節変化幅は観測値よりも小さく、融雪と土壌乾燥は一ヶ月程度遅く、土壌は夏季に比較的湿潤である。これらの誤差の一部は、外力としてモデルから与えられた気温が非現実的に低く、蒸発を抑制し特に中高緯度で季節進行を遅らせているためであると考えられる。
  • 沖 大幹, 西村 照幸, Paul Dirmeyer
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 235-255
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大気大循環モデルによる長期シミュレーションにはその下端境界条件である海洋ならびに陸面状態の適切な記述が必要である。海水面温度や海氷密接度など衛星からのリモートセンシングによって比較的観測しやすい海洋表面の状態に比べて、土壌水分や積雪水量など陸地表面のグローバルな観測手法は発展が遅れている。そこで全球土壌水分プロジェクト(GSWP)では水文気象観測値を地表面数値モデル(LSM)に与えることによってグローバルな表層土壌水分量が全球1°×1°グリッドで1987年~1988年に対して求められた。観測値を入力するとはいえ数値モデルを介するので、LSMによる算定結果に対する独立な観測値を用いた検証が重要となる。広域代表性がある水循環観測量は河川流量しか現実的にはないので、本研究ではそれを用いてLSMの水循環推定精度を検証した。これはLSMが推定した蒸発量の間接的な検証にもなり、また、河川流量自身もグローバルな水循環の中で重要な役割を担っているので、その検証は気候学的にも意義深い。LSMの算定結果を観測流量と比較するため、グローバルな河川流路網情報(TRIP)上で流量観測地点固有の集水域を同定し、LSMからの流量を面積平均で集計した。一方で世界の各機関から流量データを収集し、世界の150の主要河川における250の流量観測地点について1987年と1988年の両方をそろえ、LSMによる算定結果と比較した。その結果、外力としてLSMに与えられた雨量計密度が30[/106km2]以上の集水域ではLSMの算定値は平均して年流量の40[%]程度の誤差で推定していることが分かった。この値は年蒸発散量に対しては約18[%]に相当する。全体としてLSM算定値は観測値よりも小さめに年流量を算定していたが、これにも外力として与えた降水量情報の影響があると考えられる。観測月降水量が6時間降水量や対流性/層状性降雨に変換された際の問題も考えられるし、雨量計自体の風による観測誤差も考えられる。風の影響は降水に占める雪の割合が多い高緯度地方で強いはずであるが、実際、高緯度地方のほとんどの集水域についてLSMの推定流量は観測流量よりも小さく見積もられていた。さらに、11のLSMによって算出されたグローバルな旬平均流出量を線形河道流下モデルへの入力として与えた数値計算も行い、月流量として集計して250地点における観測値と比較した。年流量に対する河道流下モデルの影響は極めて軽微であるのに対し、月降水量季節変化に関する推定値と観測値との比較結果では、多くのLSMについて河道流下モデル適用後の方が両者の相関が良くなることが示された。この様に、グローバルな河川流路網(TRIP)によって河川流量を大陸スケールの水循環推定結果の検証に用いることが可能となり、さらに、河道流下モデルを用いてグローバルな水循環をより現実的に再現できることが明らかとなった。大気陸面河川海洋結合モデルを目指して、河道流下モデルやLSMの改良を行うことが今後重要であると考えられる。
  • 年タイムスケールでの成功評価について
    Randal D. Koster, 沖 大幹, Max J. Suarez
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 257-263
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全球土壌水分プロジェクト(GSWP; Global Soil Wetness Project)で求められた地表面モデルによる年間流出率を、良く整備された盆地での観測流出率と全球に亘って比較した。このようなオフラインでのモデル出力の評価は大気強制力自体が持つ圧倒的な影響によって良くわからなくなってしまうため、M.I.Budykoにより示された旧来よりある気候学的な関係を用いて流出率の評価も行った。その関係とは、単に年間雨量と放射収支だけに依存する関係である。地表面モデル値とBudykoの関係から得られた評価値は共に、粗く言って100mm/yrの同じオーダーの標準誤差を持つことがわかった。すなわち、最新式の地表面モデル固有の複雑さは年間のエネルギー水収支の計算では精度を上げてはいないと言える。このように地表面モデルの固有の式構成は、月あるいは時間単位の短い時間スケールの現実的な地表面の振舞いを表わしており、また、Budykoによる式では短時間のスケール内でより多くのエラーが出ると考えられる。
  • Jean C. Morrill, Robert E. Dickinson, Andrea N. Hahmann
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 265-279
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全球土壌水分プロジェクト(GSWP;Global Soil Wetness Project)はISLSCP Initiative-1の下向き長波放射の精度に関して問題を提起した。夜間、気温が低下するときに数時間に亘って最大下向き長波放射が一様に起こるというようなデータのずれが現われる。この問題は6時間毎の長波放射データを計算する式に起因しているようだ。地表面モデルの長波放射日変化の感度試験にBATS(Biosphere-Atmosphere Transfer Scheme)を使い、以下の3つの実験を行った。1)値を変えずに実行したコントロール実験、2)全ての長波放射を6時間進めて与えた実験、3)日平均値を与えた実験。それらと広範囲の月平均値、また6地点の月平均日周期値との比較を行った。コントロール実験に対して、長波放射を置き換えた2つの感度実験の両方に昼間に入射する放射の総量の増加が見られ、また、夜間は減少が見られた。その結果として昼間では上向き長波放射が増え、夜間は昼間の増加分を超える減少があり、収支で見れば上向き長波放射の減少となっている。上向き長波放射の変化は顕熱、潜熱、土壌熱フラックスとバランスしていなければならない。長波放射の変化の結果として、感度実験で計算された顕熱フラックスは昼間では増え、夜間は減り、日間の増加は夜間の減少よりも大きく、結果として収支で見ると顕熱の増加となる。顕熱の変化は上向き放射の変化に対して通常は±1W/m2以内で、そして相違を補う潜熱と土壌熱フラックスの変化は小さい。つまり、水収支項、すなわちGSWPの土壌水分指標計算に関わる導出値の変化は概して無視できる程度である。
  • A. J. Pitman, M. Zhao, C. E. Desborough
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 281-290
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全球土壌水分プロジェクト(GSWP)の枠組みにおいて、一つの地表面スキームを用いて葉面積指数(LAI)に焦点を絞った一連の感度実験を行った。まず、GSWPにおいて提供された元来の緯度経度1度グリッド分解能のLAIを変化させて、植生タイプごとにそのグローバルな平均値を用いるようにした。また、それを植生タイプごとのLAIの標準偏差分だけ加減して変化させた。さらに全球一様のLAIを用いた場合、より粗い空間分解能にLAIを平均化した場合、そして季節変化をずらした場合についての感度実験も行った。数値実、験の結果では、7月平均の全蒸発量で30Wm-2の変化が一般的であった。土壌水分にも概ね5%を越える変化が生じ、それは時に飽和土壌水分の10%を越えていた。この様に土壌水分推定に対するLAIの影響は十分に大きく、GSWPにおいてはLAIを注意深く準備する必要があり、そしてどのような土壌水分推定にあたってもLAIが適切な精度(おそらくは±1以内、少くとも±2以内)で与えられていることが必要である。LAI情報に関するどんな問題(精緻な季節変化よりはむしろ特に量に関して)も土壌水分推定値に誤差をもたらすことであろう。
  • Paul A. Dirmeyer, Fanrong J. Zeng
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 291-303
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    GSWPの一環として、陸面過程にSSiBを組み込んだ2次元の全球モデルをオフラインで2年間積分し、土壌水分量と地表面フラックスの気候値を求めた。そして、この気候値を多くの感度実験の結果と比較した。感度実験では、土壌のパラメタリゼーションと対流性降水の扱いを変えた時に、降水量が流出量と蒸発散量にどのように分配されるかを調べた。
    標準実験では、地表面水収支各項のもっともらしい空間分布が得られ、現実的な季節変化と年々変動が見られた。土壌表層からの蒸発は、おおむね地表面からの水フラックスの大部分を占めているが、密林地域では蒸散が卓越している。一般的に、季節程度の時間スケールにもっとも敏感らしいのは、流出量、土壌からの直接蒸発量、土壌マトリックスにおける保水量の季節変化であることが、感度実験から明らかになった。グリッドスケールでの適切な流出量を再現すること、および植生による遮断蒸発量を過大評価しないようにするためには、対流性降水の現実的な時空間分布が必要である。また、陸面過程において適当に与えられることが多いパラメーターの一つである表層土壌の厚さが、実験結果に対して敏感であることが分かった。一方、表層土壌に空隙を作り深層土壌を固める効果がある、土壌の空隙率の鉛直プロファイルは、実験結果に対して敏感ではないことも分かった。
  • フランス気象局における予報と同化実験
    H. Douville, E. Bazile, P. Caille, D. Giard, J. Noilhan, L. Peirone, F ...
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 305-316
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    高品質、高解像度の全球土壌水分量データは直接観測によっては得にくいが、複雑な気候モデルの境界条件、初期条件として有用である。1度×1度の水平解像度全球土壌水分気候値を作り出す可能性を求める研究のために、全球土壌水分プロジェクト(GSWP;Global Soil Wetness Project)のフレームワーク内で、1987年1月から1988年12月までの間、気象観測値と解析値を強制力としてフランス気象局のISBA地表面スキームを用いた実験を行った。コントロール実験といくつかの感度実験を行い、土壌水分はモデルにとって最も難しい気候パラメータであると共に、計算された気候値はどのようなものでも十分注意を要しなければならないことが示唆された。土壌含水率の絶対値の関連や根の深さに及ぶ深い層を含む地表面スキームを考えると、従来からの土壌層厚は殊に危険をはらむものである。河川流量気候値の比較では、大河川の盆地で計算された流出量はISBAスキームとGSWP実験のデザインに含まれる不足量のために少なく評価されているように見える。更に信頼性のある気候値を得るために、土壌水分量の全球再解析を試みた。それには地表面近傍の気温と相対湿度の計算値と観測値の間を繰り返し比較することにより修正された土壌水分量を使う連続最適内挿法を用いた。1987年7月について予備実験を実施し、理想的な状態でこの方法の可能性が示された。観測値、地表面特性、大気強制力などの不確実性が再解析の質を悪くしやすく、GSWPフレームワークではデータの更なる一貫性が必要であることが示唆された。また、同化手法の偏りを改善した、いくつかの良い結果を示した。
  • Aaron Boone, Peter J. Wetzel
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 317-333
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全球大気気候モデルに典型的な空間スケールでは、蒸発散、土壌水分、そして流量といった水収支要素は、主に土壌水分の非一様性のために、格子内で非線型的に変動しうる。この変動のかなりの部分は格子内における土壌特性の変動に起因している。こうしたスケールでは、土壌水文学的特性を特徴づけるパラメータの変動を考慮することが適切である。土壌水分パラメータの変動を特徴づけることの可能な、気候モデル用に扱いやすい簡潔な手法を提案した。それは、同一の土壌/植生境界面の下に、水平方向には相互作用しないいくつかの土壌カラムを配置する手法である。各土壌カラムごとに定めねばならない水文学的パラメータの平均値と統計的積率は、格子平均の土壌特性(砂と粘土質の割合)から単純な回帰関係によって定められるようにした。取得可能な格子内の土壌特性の変動情報はグローバルには限られていることからこの簡潔な手法を用いることにした。全球土壌水分プロジェクト(GSWP)の数値実験の枠組みで、土壌特性の非一様性を考慮してグローバルな土壌水分を推定するのにPLACEモデルを用いた。格子平均蒸発散量(地表面エネルギー収支算定に利用)、土壌水分量、そして流量は3つの土壌カラムの重みつき平均で表現された。非均一性の考慮によって主要な水収支構成要素に大きな影響が現れた。各格子点内の土壌特性が均一であると仮定した標準計算に比べて全球平均の蒸発量は17%減少して全球流出量は48%増加した。全球平均の流出率は12%増加した。土壌水分は19%増加して、土壌水分指標は49%増加した。今後のグローバルな地表面データセットには、格子内の非均一性をいかにモデル化するかについて検討するために、格子内の土壌の非一様性に関する情報が含まれていることが望ましい。
  • I:設計とISLSCP Initiative Iデータによる評価
    Y. C. Sud, D. M. Mocko
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 335-348
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ISLSCP Initiative-Iデータを用いた全球土壌水分プロジェクトでの評価で、SSiBモデルによるロシア小麦地帯(RWB)での融雪が観測と比べて非常に遅れ融雪水の浸透が極端に少ないことが示された。さらに、融雪水の多くが土壌水分増加ではなく流出となった。この欠点はSSiBの雪モデルと土壌層のモデル化の不十分のためであった。本研究では独立の雪層を考慮した新雪モデルを採用している。雪は入射太陽フラックスを吸収・射出し冬と融雪期を通じて雪温・地温に影響する。ISLSCP Initiative-Iデータによる評価で、新雪モデルはRWB域での融雪が2~3週間早くなり、融雪期の初期に土壌が融け、より多くの融雪水が土壌に浸透する。このように新モデルは土壌水分やボルガ河流出をより現実的に再現する。融雪の遅れ(1~4週間)の理由として、(1)密な森林での衛星による雪観測の不正確さ、(2)モデリングの仮定、例えば雪の年齢の影響を無視していることや雪による太陽放射吸収の簡単化のために雪面温度と平均気温の区別が不適切になること、(3)ISLSCP気温データの低温バイアスの可能性、が考えられる。
  • II: GEOS II GCMによる土壌水分初期値化と地表フラックス・降水・水文への効果
    David M. Mocko, Greg K. Walker, Y. C. Sud
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 349-366
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    GSWP ISLSCP Initiative Iデータで強制したSSiBモデルをより現実的な雪の物理過程と融雪浸透過程を導入して改良した。新モデルをGSWPデータで再度積分した。新SSiBは顕著な融雪のある地域において、より湿って暖かい土壌をシミュレートし、より現実的な融雪時期と流出をもたらした。このシミュレーションを使ってGEOS II GCMの地面温度・土壌水分・積雪を初期値化し、1987年と1988年6-8月のアンサンブルランを行った。それぞれのアンサンブルは5月29日から6月3日のECMWF再解析を初期値とする6例である。
    旧SSiB GCMに比べて、新水文過程を含む新SSiB GCMではカナダとロシアの中・高緯度帯の降水予測が顕著に改善された。蒸発散、土壌水分、流出も、新SSiB GCMは旧SSiB GCMに比べて良くなった。さらに、北部インドの降水量の1988年と1987年の差も新SSiB GCMでより強調された。米国では、旧SSiB GCMでは1988年の干ばつ状態のシミュレーションに失敗したが、新SSiB GCMでは少し良くなった。これは1988年と1987年の差でも明らかである。この領域では初期条件の影響は約1ヶ月で失われ、その後非現実的な循環になる。
  • Paul A. Dirmeyer
    1999 年 77 巻 1B 号 p. 367-385
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    GSWPの一環として、1987~1988年における高分解能の新しい全球土壌水分量データを作成した。1°×1°の土壌水分量データの2年間の全球気候値を得るために、観測値と4DDAによる気象データを与えてSSiBをオフラインで積分した。このGSWPデータはこれまでに利用可能なデータセットよりも高品質であると考えられる。また、このGSWPデータが気候の再現実験に与えるインパクトについて、陸面過程にSSiBを組み込んだCOLAのGCMを用いて調べた。
    陸面-大気結合モデルを用いたこの予察的な感度実験で調べたい、本質的な問題が2つある。1つめは、「より現実的だと考えられるGSWPデータを取り入れることによって、夏季の気候の再現性と予測可能性が劇的に向上したか?」ということである。ここでは、夏季(6~8月)の気候の再現実験を行なう際に、1987-1988年のGSWPデータを境界条件とした場合の結果を、通常の陸面-大気結合モデルの実験結果と比較した。後者では、土壌水分量データを現業の解析値を用いて初期化し、陸面-大気結合系の中で何の拘束条件もなく積分した。どちらの実験でも、同一の海面水温の観測値を与えた。GSWPの土壌水分量データは陸面-大気結合モデルの気候値とは大きく異なり、前者を境界条件とした実験では、モンスーン地域と夏半球の中緯度における降水量の偏差パターンがよく再現されるという結果が得られた。しかしながら、陸面-大気結合モデルでは系統誤差がほとんど改善されていない。すなわち、前述した降水量の偏差パターンの再現性がよくなったのは、異なる土壌水分量から得られた地表面フラックスが原因であると言える。
    2つめは、「土壌水分量の年々変動は、再現された気候の年々変動に寄与しているか?」ということである。そこで1988(1987)年のGSWPの土壌水分量データを陸面-大気結合モデルの1987(1988)年の境界条件とした場合と、その逆の場合の2通りについて数値実験を行なった。前者では降水量の偏差パターンの再現性が明らかに悪くなっており、これは、土壌水分量の年々変動が気候にとって重要であることを示している。しかしながら、海面水温による降水量の違いの方が、土壌水分量に基づく変動よりも、一般的には卓越している。
  • 小池 俊雄
    1999 年 77 巻 1B 号 p. i-ii
    発行日: 1999/03/26
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
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