チベット高原付近の寒気の吹き出しの機構を調べるために,数値モデルの中でsimulateされている寒気の吹き出し(cold surge)を解析した。
山の周囲の,大気の下層にtrapされるというcold surgeの基本的構造は,モデルの中で良く再現されていた。山の高さを変えながら行なった実験から,山に伴う北風の加速は,coastal Kelvin波の構造に類似していることが示された。しかしながら,単純に線形理論をあてはめると,幅も,位相速度も,実験結果の半分程度となった。このことは,線形理論の限界を示していると考えられる。
Cold surgeを詳細に検討してみると, cold surgeは,二波あることが分った。
最初の寒気の吹き出しは,寒冷前線の南下に伴い,山の東側に,山の側面に沿って北風が加速されているもので,運動量収支の解析から,この加速は,主として,非地衝風成分に伴うものであることが分った。しかし.このcold surgeは,山に沿って廻り,25°Nあたりのチベット高原南西部で減衰した。
一方,2回目のcold surgeは,規模•強さも大きく主要なものと云って良い。このcold surgeは,南下するにつれ,山から離れ,20*Nを越して,更に南下した。このcold surgeに関しては,最初の段階では,第一波と同様,非地衝風成分に伴う加速が大きかったが,20°Nを越す後半の段階では,非線形項が重要な役割を果たしていることが分った。
基本的に,cold surgeは良くモデルで表現されているものの,まだ問題がある。
一つは,寒気が20°Nを越して南下するものの,南西にまがり,インドシナ半島に入り込むことがある。この理由は,インドシナ半島の地形の効果も詳細に取り扱っていないためと思われる。もう一つの問題は,山に沿ってのcold surgeが強すぎることである。この理由は,山のsub-grid scaleの起伏に伴う境界層の拡大という効果が上手に取り込まれていないためと考えられる。事実,この効果を入れた境界層のparameterizationをモデルに導入してみたら,予報結果は,非常に改良された。最後に,地形にtrapされたKelvin波は,大気の下層の現象のため,垂直分解能が重要であることが示された。
抄録全体を表示