FGGEレベル-IIIbの風データを用いて,北半球夏の熱帯下部対流圏擾乱の全球的な特徴を解析した。±15°内の赤道領域では,短周期擾乱(10日周期以下)の振幅は,北半球側の方が南半球側より大きい。北半球側では,3~4日周期と約6日周期の変動が卓越し,また,東西波数では10~12のものが顕著に現われる。一方,南半球赤道領域では,顕著な卓越周期は存在しない。
熱帯各地のスペクトル分布の特徴は,各地域ごとに大きく異なっており,熱帯下部対流圏擾乱は各地域ごとに特有な性質を持っていることがわかる。
赤道~25°Nの中部アフリカから中部大西洋にかけて,アフリカ波動に対応する3~4周期変動が卓越する。アフリカ波動の振幅は,アフリカ西海岸付近で最大となり,その後,東大西洋を伝わりながら減少して行く。一方,西大西洋,カリブ海では,約6日周期の変動が卓越する。
熱帯太平洋域では,西部太平洋から東シナ海にかけて周期6日~10日の大きな振幅が存在する。この領域は台風の経路に対応しており,この大きな変動は台風と密接に関係しているものと思われる。また,赤道領域から北上するにつれて,卓越周期が6日から10日へと変化していることが興味深い。
中央アメリカ沖の熱帯東部太平洋には,約6日周期の変動が卓越し,これはこの地域のハリケーン活動と関係しているものと思われる。中部太平洋は全般に擾乱の振幅は小さいが,5°N~10°Nの熱帯収束帯には,3~4日周期の弱いスペクトル•ピークが存在する。
インドシナ半島からインド北部にかけて,6~7日周期の変動が存在し,ベンガル湾北部で振幅が最大となっている。この擾乱はモンスーン•トラフ上を伝わり,ベンガル湾北部で発達するモンスーン擾乱と思われる。
インド洋から東南アジア,西部太平洋にかけて,長周期変動(周期13.3日以上)が卓越する。この長周期変動は,最近注目されているアジアモンスーン活動の30~50日周期変動によるものであろう。周期は約13.3日と短いが,同様な長周期変動が,北アメリカ大陸一大西洋モンスーン域にも存在する。
以上の風の変動と対流活動の変動との対応を調べるために,地球からの長波放射量(OLR)のスペクトル解析を行った。OLRの変動の大きい領域は,風の変動の大きい領域とよく対応しており,対流活動は熱帯下部対流圏擾乱と強く関係し合っていることを示している。
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