気象集誌. 第2輯
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61 巻, 2 号
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  • 第一部下部成層圏の質量移流の決定
    木田 秀次
    1983 年61 巻2 号 p. 171-187
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    半球領域の数値モデルで大気大循環の準平衡状態を再現し,その中での空気塊の運動を追跡することによって,下部成層圏でのラグランジュ的平均流が求められた。空気塊の平均的な流れ,すなわちいわゆるラグランジュ平均運動の非発散成分を決定するための方法が開発されている。それは,通常のラグランジュ平均運動を時間に関して前方および後方に計算し,それらの平均をとることである。
    そうして得られた空気塊の平均流は,低緯度で上昇,高緯度で下降となる1細胞循環であることが示された。これは,通常の経度平均の子午面循環が低緯度で直接型,中高緯度で間接型の2細胞循環であるのと大いに異る。ラグランジュ的平均流の上昇および下降の領域は,それぞれ放射による加熱および冷却の領域によく一致している。
    空気塊の分散運動から渦拡散係数の大きさが見積られたが,水平には3×109cm2/s,鉛直には1×103cm2/s程度になった。これらは,2次元輸送モデルで広く用いられる値に比べて少くとも一桁ほど小さい。この結果は,プラネタリー波のラグランジュ的力学理論の観点からして合理的とみなせる。ただし,その水平拡散は水平移流とならんで,下部成層圏の空気塊の極向きの運動にとって重要である。
    さらに,大気大循環の統計量が時間的にゆっくり変る場合のラグランジュ的平均流を求める方法も提案されている。そして,ラグランジュ的運動に基づく2次元輸送モデルについて簡単に論じられている。
  • I.モンスーン低気圧の形成
    T. N. Krishnamurti, Richard J. Pasch, Hua-Lu Pan, Shao-Hang Chu, Kevin ...
    1983 年61 巻2 号 p. 188-207
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    波数29でロンボイド剪断した,11層全球スペクトルモデルを用いて,10日間の予報を試みた。初期値としては1979年7月1日1200 GMTのデータを用いた。積分4日目に,ベンガル湾北部にモンスーン低気圧が形成された。形成は500mb付近から始まり,初期の段階で地上へ達する。低気圧の形成時期及びその後の西進は実測とよい一致を示しており,このような現象の予報に対してモデルのskillが示された。予報された風,流線関数は8日目まで妥当なものであった。しかし発散風には2日目以降大きな誤差があらわれた。特にプラネタリースケールで顕著であった。モンスーン低気圧のスケールでは,質量も水蒸気収束場も流線関数の極小部と共に西進し,誤差は目立たなかった。モンスーン低気圧に対して,Kuoの方式による降水量は妥当な値を与えた。
    700mb面で,絶対渦度の式とポテンシャル渦度(浅水方程式)を用いて,7月3日からそれぞれ2日予報を試みたが,モンスーン低気圧の形成は見られなかった。
    モンスーン低気圧の領域でエネルギー解析を行なった。その結果,形成期には順圧過程が重要であり,その後の急速な発達と維持には積雲対流の役割が重要であることが示された。
  • U. C. Mohanty, S. K. Dube, M. P. Singh
    1983 年61 巻2 号 p. 208-221
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    アラビア海及び隣接した領域(0°-30°N,30°E-75°E)における熱•水蒸気•moist static energy(MSE)の収支を求め,アジアの夏季モンスーンのonsetや活動との関連を調べた。この研究に用いたデータは1979年5月16日から7月15日までの1日2回のFGGE Level III-bデータである。
    求めた収支方程式の各項は5日平均を行い,その時間変化や鉛直分布をみた。その結果Kerala coastにおけるモンスーンのonsetのかなり前に,エンタルピー•熱•MSE等が増大することが分った。またモンスーンbreakの少くとも5日前には,これらのパラメーターの減少がみられた。
    収支をとったパラメーターの鉛直分布によると,モンスーンの活動が激しい期間では,熱及びMSEのhorizontal flux divergenceには対流圏上層に2次的な最大がみられるが,モンスーン活動が弱いときには逆に極小となる。
    この研究で得られた収支解析の結果の大すじは,より大きな領域で行った解析と良い一致を示した。しかし顕著な差もあり,これについても論じた。
  • 加藤 内蔵進, 浅井 冨雄
    1983 年61 巻2 号 p. 222-238
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    1978年4月から1979年3月までの1年間について日本海域における大気中と海洋中の熱収支の季節変化を解析した。
    対馬海流による熱輸送によって日本海が正味に獲得する熱量は夏に最大値を示し,その値は宮崎(1952)の3音近い。夏に日本海で貯えられる熱量の半分以上はこの寄与による。冬に日本海から大気へ与えられる熱量は日本海の熱含量の減少とほぼ釣り合う。また,「暖流域」から「寒流域」への熱輸送量は夏に小さく冬に大きい。従って,夏に対馬海流によって日本海へ流入する熱が主に「暖流域」で貯えられ,冬の日本海全域での大気への熱輸送に大きく寄与することになる。
    日本海域では海気温差(Ts-Ta)および比湿差(qs-qa)が季節により大きく異なり,大気中の熱水蒸気収支の待徴の季節による違いが顕著である。春には海からの顕熱•潜熱補給量,大気中での凝結量,非断熱加熱率はともに小さい。夏•秋には加熱率が大きく,大気中での凝結熱発生と釣り合う。比湿差が最大となる秋には,凝結量と釣り合うのは海からの蒸発量である。この年の10月には日本海付近を総観規模低気圧の通過時に凝結に伴う大気の加熱率が増大した。この状況でも日本海からの蒸発量は小さくなく,凝結量の半分を占める。一方,海からの顕熱補給と大気の強い加熱という真冬の特徴は10月には北風卓越時にも見いだせないが,これは冬に比べるとまだ小さい海気温差のためである。
  • Morris A. Bender, 栗原 宜夫
    1983 年61 巻2 号 p. 239-243
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    4重格子数値モデルでシミュレートした熱帯低気圧(栗原•Bender,1982)についてエネルギー収支を解析した。眼の中では,擾乱の運動エネルギーが平均流の運動エネルギーと同程度であること,それが眼の壁からの輸入と全位置エネルギーからの変換で補給されていること,そして一般流の運動エネルギーへの変換と粘性散逸で消耗されていることが分かった。眼の壁のエネルギー収支で重要な役割をもつのは,眼の壁の外からの運動エネルギーの流入と,位置エネルギーの外域および眼の領域への流出である。得られた解析結果は,多くの点で,分解能の粗いモデル(Tuleya•栗原,1975)で得られた特色とよく一致する。このことは,眼の構成は眼の壁とその外域のエネルギー収支にはあまり影響を及ぼさないことを示唆している。
  • 米谷 恒春
    1983 年61 巻2 号 p. 244-253
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    数値実験の手法により,次のことを示す。(1)ヒートアイランドに伴うその上空での上昇流は,積雲の発達を促す要因であり,積雲を形戎する引き金となり得る。(2)積雲の形成や発達は,地表の高温域によって変質した下層の大気状態に大きく左右され,ヒートアイランドの半径が異なると積雲の発達の様相が違ってくる。
    (1)の結果は,気候学的に示されている都市域での積雲の活発化を説明する。
  • 第1部:振動数変換法
    林 良一
    1983 年61 巻2 号 p. 254-262
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    極軌道衛星により採集された1日2回の不等時間隔データから時空間スペクトルを求める非直交フーリエ変換法(Salby,1982)を簡単化した。 Salbyの方法は振動数と波数の両方を変換するのに対し,この修正方法はガレリー変換により振動数だけを変換すれば良い。波数-振動数aliasingの性質を調べ,計算機プログラムも例示した。
  • 第2部:波数変換法
    林 良一
    1983 年61 巻2 号 p. 263-268
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    極軌道衛星により採集された1日2回の不等時間隔データから時空間スペクトルを正確に求められるように波数変換法(Hayashi,1980)を非直交フーリエ変換により修正した。時空間スペクトルは変換された波数についての非綜観場の空間フーリエ変換の時間フーリエ係数から求まる。この方法は非綜観場の空間補間を必要とするので超長波の解析のみに効果的である。波数-振動数aliasingの性質を調べ,計算機プログラムも例示した。
  • 巽 保夫
    1983 年61 巻2 号 p. 269-288
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    経済的な時間差分スキームを開発し,プリミティブモデルに使用した。本スキームでは重力波項以外の低周波項はリープフロッグ法で積分し,その時間積分間隔(Δta)はモデルの最大風速から決まる。振動数の高い重力波に対しては安定な数値解を得るためΔtaをM個の短いステップに分割(Δta/M=Δtb)して時間積分を行う。分割数Mは重力波速の最大値と最大風速の比から決まる。すなわち時間積分はΔtb間隔で計算する重力波項とΔta間隔で計算する低周波項(リープフロッグ法の時間外挿に当る2Δta内は一定とみなす)を加えたものを用いてΔtbで積分し,2Mステップで時間積分1サイクルが完了する。本スキームはMarchuk(1965)が提案したsplittingとは全く異なるスキームであり,低周波項に対しては3-levelスキームである特徴を持つ。
    本スキームの利点は,エクスプリシット法であるためにセミ•インプリシット法と比較してプログラミングが大幅に簡略化される点と,低周波項の時間積分にリープフロッグ法を採用したことにより,2次の差分精度が得られる点である。
    本スキームを気象庁の1981年のルーチンモデル(4L-NHM)に適用して比較実験を行ない,通常のエクスプリシット積分結果と本質的に差がないことを確認した。本スキームによる計算時間短縮率は Kudoh (1978)が開発したセミ•インプリシットスキームによるものと同等(2.6~3.8)である。本スキームは気象庁の1982年現在のルーチンモデル(8L-NHM及び10L-FLM)に採用され,計算時間の短縮に大いに貢献した。
  • 高野 精秀, 浅野 正二
    1983 年61 巻2 号 p. 289-300
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    任意の方向を向いた有限の長さの六角柱および回転楕円体の Fraunhofer 回折の定式化を行い,3次元空間内および水平面内にランダムに方位する各々の粒子の回折強度を計算した。3次元空間内にランダムに方位する六角柱の回折強度は,同じ縦横比の回転楕円体のそれによってうまく近似される。粒子が水平面内に長軸を保って方位する場合の回折強度は散乱角だけではなく方位角の関数でもあり,六角柱と回転楕円体で回折パターンはかなり違う。水平面方位した六角柱の回折強度分布は光源の高度に強く依存し,光源の高度が低いとき方位角について著しく異方性を示す。さらに得られた計算結果の氷晶によって生ずる大気光学現象への応用についても議論した。
  • 佐藤 威
    1983 年61 巻2 号 p. 301-305
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    ポリエチレン膜のドーム付風防型全天放射計の,短波長放射(直達光,散乱光)と長波長放射に対する感度の違いを,快晴時のデータから,従来のShading Disk Methodとは別の方法(Regression Method)により調べた。
    その結果,直達光,長波長放射,散乱光の順に感度が高いことがわかった。感度の違いは,ポリエチレン•ドームの透過率と反射率,それに受光面の吸収率の波長依存性,および,直達光は太陽の方向のみから入射するのに対し,散乱光は全天から入射することによるものと思われるが,定量的な議論はなされていない。日中の長波長放射は,全天日射量Sの経験的な関数f(S)を用いて,次式で求めるのが実用的である。L=σTS4+KLυ-f(S)S
    f(S)はSの減少関数であるが,これは本研究で明らかにされた直達光と散乱光に対する感度の違いに起因する。
    f(S)は快晴時のデータから決定されたが,他の気象条件(曇天,雨天)の時でも使用可能である。
  • 陳 泰然
    1983 年61 巻2 号 p. 306-312
    発行日: 1983年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    The following recent research results of the Mei-Yu phenomenon in southeastern China are reviewed in this paper. 1) Case studies of a Mei-Yu frontal system during June 10-15, 1975. This system was studied in detail for its rainfall characteristics, kinematic and dynaniical structures, budgets of vorticity, moisture, and kinetic energy, and the accompanying mesoscale systems. The results suggested the dynamical processes for maintaining a Mei-Yu trough and the role of a low level southwesterly jet in the formation of mesoscale cb clusters. 2) Composite studies of 8 cases of Mei-Yu frontal systems during the more active years of 1975 and 1977. The structure variation in different stages and different segments of the Mei-Yu trough observed in the individual cases was substantiated. 3) The climatology of Mei-Yu front and its associated frontogenesis and low level jet over southern China and Taiwan for 1968-77. 4) Numerical simulation of the Mei-Yu frontal system. One of the more interesting conclusions in the model simulations is the formation of a low level jet to the south of the Mei-Yu front due to a secondary circulation induced by the convective latent heat release.
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