半球領域の数値モデルで大気大循環の準平衡状態を再現し,その中での空気塊の運動を追跡することによって,下部成層圏でのラグランジュ的平均流が求められた。空気塊の平均的な流れ,すなわちいわゆるラグランジュ平均運動の非発散成分を決定するための方法が開発されている。それは,通常のラグランジュ平均運動を時間に関して前方および後方に計算し,それらの平均をとることである。
そうして得られた空気塊の平均流は,低緯度で上昇,高緯度で下降となる1細胞循環であることが示された。これは,通常の経度平均の子午面循環が低緯度で直接型,中高緯度で間接型の2細胞循環であるのと大いに異る。ラグランジュ的平均流の上昇および下降の領域は,それぞれ放射による加熱および冷却の領域によく一致している。
空気塊の分散運動から渦拡散係数の大きさが見積られたが,水平には3×109cm2/s,鉛直には1×103cm2/s程度になった。これらは,2次元輸送モデルで広く用いられる値に比べて少くとも一桁ほど小さい。この結果は,プラネタリー波のラグランジュ的力学理論の観点からして合理的とみなせる。ただし,その水平拡散は水平移流とならんで,下部成層圏の空気塊の極向きの運動にとって重要である。
さらに,大気大循環の統計量が時間的にゆっくり変る場合のラグランジュ的平均流を求める方法も提案されている。そして,ラグランジュ的運動に基づく2次元輸送モデルについて簡単に論じられている。
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