気象集誌. 第2輯
Online ISSN : 2186-9057
Print ISSN : 0026-1165
ISSN-L : 0026-1165
64 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • 林 良一
    1986 年 64 巻 2 号 p. 167-181
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    外部条件が変化しない力学的モデルの集合一時間平均予報可能性について統計的解釈を行った。この目的の為に3種類の分散値を定義し,その相互関係を明確にした。集合一時間平均予報の限界をその誤差の分散値が気候一時間平均予報誤差の分散値より大きくなる時期として定義することを提案した。多数の予報の集合平均に対しては,この限界はShukla(1981)の定義した個々の時間平均予報の限界に近い。後者の限界は基本初期値に少し異るperturbationを与えた時間平均予報の分散値が非常に異る基本初期値から出発した時間平均予報の分散値に近づく時期と定義される。
    集合一時間平均予報可能性の統計的有意性についても議論し,analysis of varianceの解釈もはっきりさせた。信頼巾が十分小さくないかぎりは予報可能性のnull hypothesisは安易に受入れるべきではないことを強調した。Shukla(1981)は大循環モデルを使った予報実験により31-60日平均は力学的に予報不可能である事を示したが,統計的にこの結論を支持するには実験回数が少なすぎることを信頼巾により示した。
  • 岩嶋 樹也, 山元 龍三郎
    1986 年 64 巻 2 号 p. 183-196
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    大気中に見られる極めて明確な季節変化は,大気に入ってくる太陽放射を外力とし,その周期的な変化によってもたらされている。このような周期外力が変化したとき,大気(の季節変化)は,どのような,またどの程度の応答をするのか,その敏感度を研究することは,季節変化のノルマルな大きさやその年年の変化を理解するために重要である。このような研究を行うために,従来の空間スペクトル•時間積分方式のモデルを時間に関してもスペクトル展開した「時間一空間スペクトルモデル」を新しく提案する。このモデルは,時間一空間スペクトル成分に関する多元連立非線形代数方程式で記述され,原理的には波数切断に応じて容易により高次のモデルへ発展可能である。その非線形から,低次の簡単な場合を除いて,数値解法によって解かれる。より高次のモデルに対しても効率の良い解法が要請される。簡単なモデルによる検討によって,関数二乗和を最小にする「改訂 Marquardt 法」と既知解からパラメータ変化に応じて解を追跡する「連続変形法」を採用した。
    ここでは,相当順圧渦度方程式を用いて,いわゆる空間3波数スペクトル成分で展開した式から,「低次時間一空間スペクトルモデル」を作成し,外力項やその他のパラメータの変化によってどのような解が得られるか検討した。定常外力項だけの場合は従来から知られている多重解が存在するが,さらに周期外力項を加えることによって性質の異なった解を含む多重解が得られた。このような多重解が存在するとすれば,季節変化やその年々の変化を理解する上で極めて重要である。このような結果は,より高次のモデルで検討されるべきであるが,ここで新たに提案した「時問一空間スペクトル方式」に基くモデルによって上記の気候研究目的に対し有用で興味ある結果が得られるものと期待される。
  • 向川 均, 廣田 勇
    1986 年 64 巻 2 号 p. 197-211
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    ブロッキング現象や突然昇温現象などにおいて観測されるプラネタリー波増幅の力学的機構を理解するための基礎的研究として,単純な水平構造を持つ地形により励起された強制ロスビー波の非線型的な時間変動を,準地衡風順圧非粘性のβ-channe1モデルを用いて調べた。
    この研究は二部に分かれており,第1部において,まず,強制ロスビー波の不安定性を調べた。その結果,表面地形は,この不安定性に対し大きな影響を持つことがわかった。このモデルで最も大きなスヶ一ルを持つ強制ロスビー波は不安定であり,次の二つの種類の不安定性を生ずる。一つは,地形性不安定で,共鳴点よりも強い帯状流中に存在する。これは,Charney and DeVore(1979)の低次モデルでも表現でき,地形に対して一定の位相を持ったまま,地形による造波抵抗で発達する。他方は,共鳴点よりも弱い帯状流中に存在する不安定性で,移動性または停滞性の擾乱を発生させる。これは,低次モデルでは表現できず,基本波と擾乱の波成分との相互作用で発達する。この擾乱の水平スケールは,不安定のための必要条件から予測されるように,帯状流が弱くなると,小さくなる。
    さらに,地形性不安定は,基本波の南北波数が偶数の場合,存在しないことがわかった。
  • 向川 均, 廣田 勇
    1986 年 64 巻 2 号 p. 213-225
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    第1部に引き続き,準地衡風順圧非粘性モデルを用いて,地形によって励起された強制ロスビー波とそれに伴う不安定擾乱の非線型的な時間変動を,初期値問題として解析的•数値的に調べた。
    共鳴点付近においては,Charney and DeVore (1979)と同様な低次モデルを解析的に扱った。線型的に不安定(地形性不安定)な領域では,初期に帯状流を減速すると,波は非線型周期振動において,帯状流の運動エネルギーを造波抵抗(form-drag)により波の運動エネルギーに転換することで,初期の定常解よりも増幅する。逆に,帯状流を加速すると,波は減衰する。この非線型周期振動の周期は,定常解の振幅が大きくなると短くなる。一方,中立な領域においては,運動は初期擾乱の大きさに依存する。小さな擾乱に対しては,波は定常解付近での小さな振動をするのに対し,大きな擾乱に対しては,不安定な領域と同様な大きな変動をする。低次モデルにおけるこれらの特性は,多変数のスペクトルモデルを数値積分することによっても確かめられた。この振動における帯状流と強制波との関係から,Tungand Lindzen(1979a,b)が提示した強制波の線型共鳴による成長という考え方は,この様なプラネタリー波の増幅現象に対し適用できないことが分った。また,Plumb(1979,1981a,b)の弱非線型論における共鳴点付近の強制ロスビー波の増幅の機構が,基本的には正しいことが分った。
    一方,共鳴点から離れた所では,多変数のスペクトル方程式を数値積分することにより,強制ロスビー波と異なる水平スケールを持つ不安定擾乱により,プラネタリー波の時間変動が生ずることが示された。この変動は,共鳴点付近の変動とは全く異なる。
  • Kevin Hamilton
    1986 年 64 巻 2 号 p. 227-244
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    この論文は,半年周期振動(SAO)の卓越する成層圏高度での平均帯状流運動量バランスに対する波動の寄与を観測に基づいて算定しようと試みたものである。この領域における波動の直接観測は極めて限られているので,間接的な方法を用いた。まず第一に,温度の観測値に基づいて放射伝達の詳しい計算を行ない,非断熱加熱率を求めた。次いでそれに応じた残差子午面循環から,平均帯状流運動量の移流とコリオリ'トルクの大きさを算定した。このようにして得られた帯状流の運動量バランスと実測の平均流加速との差は,さまざまなタイプの波動に伴なうE-Pフラックスの収束によるものと考えられる。
    この方法によって見積ったE-Pフラックス収束量の子午面分布を1mbと0.4mbについて月ごとに表示してみると,両レベルとも,赤道域にトラップされた西風加速成分を持っていることがわかる。このことは,SAOの西風加速がケルヴィン波の減衰によるものであることを示したHirota(1978)の結果と一致している。事実,赤道域の1mbレベルでは,全E-Pフラックスの収束が常に西風加速に働いており,従って赤道近傍での東風加速の大部分は,Holton-Wehrbein(1980)やMahlman-Sinclair(1980)らのモデルで示されているような,残差循環に伴なう移流の結果と考えられる。しかし,赤道域から離れた冬半球(及び春分•秋分時の両半球)においては,波動による東風加速も確かに存在している。おそらくこの東風加速は,Hirota(1976,1978,1979)によって示された赤道方向へ伝播する中緯度プラネタリー波の作用によるものであろう。この効果は0.4mbでより明瞭に見られ,SAOの東風加速時期には赤道上の全E-Pフラックス収束が東風加速に働いている。
    以上の結果により,SAOの東風加速に関しては,Holton-Wehrbein及びHirotaによる二通りのメカニズムは両方とも重要であると言える。プラネタリー波動の寄与は冬半球及びより高いレベルで最も卓越し,一方残差子午面循環の寄与は夏半球及びより低いレベルで顕著となる。
  • 岩崎 俊樹, 住 明正
    1986 年 64 巻 2 号 p. 245-258
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    北半球モデルの予報に対するEnvelope Orographyの効果を調べるために,1984年2月について29例の予報実験を行った。
    Envelope Orography の導入は日々の予報を改善する。特に,帯状平均や惑星波等の系統的誤差を著しく減少させる。これは Envelope Orography がプラネタリースケールの定常場を維持するのにたいへん有効であることを示唆している。帯状平均場では,低緯度で増大し,高緯度ぞ減少するという質量配分の誤差が減少する。この場合,中緯度の下部対流圏における過度の赤道に向う流れが主に抑えられている。この流れの変化は,下部対流圏の気温予想(帯状平均)にも影響を与える。定在波に関しては,モデル大気の Envelope Orography に対する応答は緯度により異っている。60度付近の高緯度では,波数3の改善が顕著である。その時間的な振舞は中緯度の forcing に対する遠隔的な応答を示唆している。中緯度(40N)では,80E付近に顕著な効果が現れる。その時間的な振舞はヒマラヤ付近のfocing の差に直接誘起されたことを示唆している。
    2つの予報の気温の相違は主に熱の水平移流に基づいている。またコールドサージの予報も EnvelopeOrography により変更を受ける。
  • 村松 照男
    1986 年 64 巻 2 号 p. 259-272
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    レーダーと衛星で決定した台風眼(T8019, WYNNE)の移動軌跡上にトロコイダル運動による顕著な周期変動が観測された。周期は5~8時間,最大振幅は23kmであった。周期の減少とともに振幅も減少した。レーダーエコーの解析の結果,台風眼の中心は台風系全体の中心とは一致せず,約20km偏位し系の中心に対し反時計回りに回転していることが明らかとなった。
    この間,外側と内側の eye wal1の直径が各々260kmと30kmである二重眼構造と,それに対応する風速分布の二重極大が観測された。特に,気圧と風速場で楕円状の循環が見られ,その結果としての矩形状エコー構造が外側 eye wal1の内側で観測された。この矩形と楕円状循環は台風系の中心に対しトロコイダル周期と同周期で,外側 eye wal1に内接しながら回転していた。台風眼は楕円の一方の焦点を追うように移動し,この結果としてトロコイダル軌跡となった。しかしながら,なぜ眼が系の中心から偏れるのかはまだ明らかとなっていない。
  • 山元 龍三郎, 岩嶋 樹也, サンガ N.K., 星合 誠
    1986 年 64 巻 2 号 p. 273-281
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    気候は高度の非線型システムであるので,非線型物理システムの振る舞いの研究に基づく Lorenz(1968)の非決定論的気候変動論は,重要な意義を持つ。Iwashima ら(1986)は,熱的強制の季節変化の下で,大気大循環の時間•空間スペクトルモデルが,安定な多重解を持つ事を示したが,この結果は Lorenz の非決定論的気候変動論を支持するものである。Lorenz(1976)は,特に準自律性(Almost Intransitivity)におけるレジームの遷移が,気候変動において重要な役割を演じている可能性を強調し,それが実際に発現しているならば,年々変化における時間平均の唐突な変化として現れるだろう事を示唆している。
    今までの気候の診断的研究が連続的変化を前提として進められたのと対照的に,この論文では,Lorenz(1976)の示唆に従って時間平均の有意な不連続を取り上げる。或る年を境にして,それ以前の10年またはそれ以上の期間の時間平均値が,それ以後の時間平均値と比較して統計的に有意な差を示す場合を「気候ジャンプ」と呼ぶ事にした。時間平均に対する95%の信頼限界を採用して S/N 比を導入し,気候ジャンプを検出する方法を提示した。顕著な年々変化のために気候ジャンプの発現時期を1年単位で指定する事は無意味である事を注意した。1900年以降の北海道•本州•四国•九州において空間平均をした季節平均気候データに対して,気候ジャンプの検出を試みた。その結果,気温•海面気圧•降水量•日照時間•最大積雪深において,1950年頃に集中して気候ジャンプが検出された。同じ時期に気候ジャンプが各種の気候要素に共通して発現している事実から,これらの気候ジャンプは,大気大循環の唐突な変化の一つの現れだと考えられる。
    1950年頃の気候ジャンプが Lorenz の準自律性におけるレジームの遷移に伴う現象である事を確かめるためには,現在の気候が他律的でない事を確かめる必要があり,その頃に顕著な変化が外部要因に認められるかどうかを調べた。1910年代の後半から1940年代の半ばまで大規模な火山噴火が無かったが,1940年代後半以後大噴火が頻発した。即ち,約30年間大量の火山性エアロゾルの注入の無かった成層圏が,気候ジャンプの発現の直前の火山活動の再開によって,多量のエアロゾルを含み始めたと考えられる。この火山性成層圏エアロゾルの急増が,気候ジャンプ発現のトリガーになった可能性がある。しかし,これを確認するためには全地球的なデータ解析が必要である。
  • 安田 延壽, 近藤 純正, 佐藤 威
    1986 年 64 巻 2 号 p. 283-301
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    牧草で覆われ灌木が散在するV字谷で風速と気温の三次元分布を観測した。尾根の風速が2.6m/s以下の時,冷気層内に典型的な冷気流が発生する。そのような冷気流の79の観測例を中心に解析した。谷内冷気層は二層に分かれる。即ち,上部が集積流冷気層で下部が一次冷気層である。集積流冷気層内の温位の鉛直分布は高さの一次式で表わされる。典型的な冷気流の風速の鉛直分布はプラントル型よりは放物線型に近い。最大風速の高さより下では風速は吹送距離によってあまり変わらないが,上部では吹送距離が大きくなると風速が増す。冷気流の最大風速は冷気の強さの平方根に比例する。また,頂上から800m下流の地点では,冷気層高度も冷気の強さと共に少し増大する。下流方向への熱流束は吹送距離によって変わり,吹送距離が400m,800mの所で,ー1.01MW,ー1.77MWであった。この二地点での熱流束の差から計算された鉛直顕熱輸送のバルク係数CHと底層スタントン数の逆数B-1Hは0.01及び20であった。
  • 岩坂 泰信
    1986 年 64 巻 2 号 p. 303-309
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    1983年,南極昭和基地(69°00'S,39°35'E)で,ライダーによって測られた成層圏エアロゾル量は,冬に入り成層圏の温度が低下するとともに急速に増大しはじめる。初冬においては,偏光解消度は低い値にある。その後,エアロゾル量のみならず偏光解消度も高い値をとる。これらのことは,寒い冬の成層圏で非球形の粒子が多量に造られていることを示唆しており,Steeleら(1983)によって提案された"氷粒子の昇華成長が,極域成層圏の冬のエアロゾル量の増大をもたらす主要な機構'とする考えを支持するものである。
    しかしながら,初冬に得られた結果は,個々の氷粒子の成長のみならず粒子の数密度の増加も冬期のエアロゾル量の増加に寄与しうることを示唆している。6月3日におこなわれた気球観測でも,多数の大粒子が下部成層圏に存在していた(約15個/cm3)ことがみいだされている。エイトケン領域からの大粒子の形成が,冬期のエアロゾル量増大をもたらすもうひとつのプロセスの可能性を持っている。
  • Pratap Singh, T. S. Verma, N. C. Varshneya
    1986 年 64 巻 2 号 p. 311-318
    発行日: 1986年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    本論文では,雷雲の動きが雲の内部,および周辺の微物理過程に与える影響が計算により調べられた。その結果,雷雲の雲頂付近の飽和空間電荷密度は雲の上昇運動により減少すること,静止した雷雲に比べて雲内の電場のgrowth rateは減少することが示された。このような電場のgrowth rateの減少が降水粒子の帯電および降水の発達におよぼす効果もまた調べられた。
feedback
Top