気象集誌. 第2輯
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70 巻, 6 号
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  • 三村 和男
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1023-1036
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    一般化されたラグランジュ平均(GLM)理論と変換されたオイラー平均(TEM)理論が統一形式において再構築された。
    オイラー的情報とラグランジュ的情報の相互の翻訳が可能であるという基本的な前提条件を応用して、2種類の標準型を持つ支配方程式系の対構造が明らかにされた、そして、それらは各々ラグランジュ的視点とオイラー的視点に対応している。これら2種の標準型のいずれか一方だけでも連続体概念の完全な方程式系を形づくり、そして一方から他方へ簡単に変換することができる。
    従って、いずれか一方の標準型を持つ連続体方程式の新しいセットを導入しさえすればいつでも、新しい仮想的連続体が定義される。そして、この新しい連続体の支配方程式系もまた、元の方程式の場合と同様に、簡単に様々な型(他方の標準型やマテリアル型)に変換され得る。新しい従属変数の定義が本質的である、なぜならこの仮想的連続体はこれらの定義に起因する任意性を持っているからである。また、この新しい支配方程式系は初期条件とか空間的対称性のようないかなる物理的前提条件も無しに定式化される。
    ラグランジュ平均連続体において新しい従属変数の形とそれらの付加項を選択することによって、GLM理論が再構築される。そこでは元の粒子群を代表する新しい粒子が、元の粒子群のラグランジュ平均位置に存在し、ラグランジュ平均速度で移動する。
    同様に、オイラー平均連続体におけるひとつの選択肢として、TEM理論が再構築され、そこではある領域の代表としての新しい粒子が、新しいラベルを持ち、ある変換された速度で移動する。
    これらの再構築の副産物として、両理論における非加速定理が調べられ、若干の拡張が得られた。
  • 水野 量, 松尾 敬世
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1037-1043
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    あられ粒子間の衝突が、粒径分布と落下速度とともにストロボTVカメラによって観測された。また、この衝突率を理論式によって求めた。
    あられ粒子間の衝突は二つの粒子の落下速度の違いによって起こり、粒径分布は逆指数分布で、落下速度は粒径のべき乗則で近似できた。観測された落下速度と粒径分布式を用いて、衝突率と衝突分布を導出した。衝突率は、平均粒径の粒子が単位時間に落下する体積と全個数濃度の積に比例して増加する。
    導出した衝突式は、簡単であり、あられ以外の降水粒子に対しても有効である。この衝突式が氷晶増幅と電荷の生成の議論に適用できることを強調した。
  • Stefan Hastenrath, Klaus Wolter, Klaus Wolter
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1045-1056
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    1948-1983年における船舶による海上気象観測と西アフリカの地上気象データを用いて、クラスター分析、相関解析及びトレンドの解析を通した熱帯大気循環パターンの変動を、サハラ砂漠南縁地帯の干ばつ傾向の持続と関連して調べた。
    サヘルにおける雨期の小雨は、北大西洋亜熱帯高気圧の赤道側への張り出し、北東貿易風の強化と南からのcross-equatorial flowの弱まり、熱帯北大西洋のSST負アノマリー、インド洋の SST正アノマリー、の各パターンの出現で特徴づけられる。サヘルの降水量変動とこれらのパターンの関係は、長期的なトレンドでみても、トレンドを除いた年々の変動でみても認められる。
    大西洋域の循環場のトレンドとして、熱帯北大西洋での気圧上昇が認められる。それに対応して、赤道低気圧の南偏、南北大西洋の貿易風の強化と赤道付近での雲量の増加、熱帯北大西洋と中央アメリカ周辺の海洋での雲量の増加、及び熱帯北西大西洋域でのSST下降(南大西洋ではSST上昇)がみられた。
    西アフリカの陸上でも、海岸付近の気温や気圧は隣接する海域と同様な傾向が認められた。サハラ砂漠南縁地帯の内陸域では、温暖化傾向が卓越するが、それは恐らく、海からのモンスーンに伴う冷涼な空気の侵入の弱まり、及び降水量やそこでの蒸発量の減少の結果として考えられよう。中央サハラ砂漠南縁地帯での内陸の気圧下降のトレンドは、気温上昇に伴う静力学的関係を反映しているかも知れない。
  • 加藤 輝之, 松田 佳久
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1057-1070
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    定常の熱帯加熱によって直接的に作られる内部モード(傾圧モード)の運動による外部モード(順圧モード)の生成を二層全球モデルを用いて研究した。方程式系は鉛直シアーを持った剛体回転している平均東西流を基本場として線型化した。先ず第一に、外部モードの内部モードとの結合を許す基本場の東西流の鉛直シアーの効果を詳しく調べた。第一近似として、内部加熱によって作られる内部モードの運動が、外部モードの運動とは独立に決定され得るということを仮定した。そして、そのようにして決定された内部モードと基本流の鉛直シアーから、外部モードの運動が決定される。この近似を使うと、内部及び外部モードを支配する方程式系を等価深さの異なった値を持つ、二つの浅水方程式系に帰着することが出来る。
    得られた計算結果では、このようにして励起された外部モードの運動は内部モードのそれよりは、熱帯においては小さいが、中高緯度においては大きくなっている。局所的な加熱領域から北東及び南東方向に発する外部モードのロスビー波の波列が形成された。こられの波列は発している領域の対蹠点まで広がっている。内部モードと基本流の鉛直シアーの結合から、外部モードを励起する7つの項が現れるが、そのそれぞれの効果を調べた。その結果、鉛直シアーを持った基本流による内部モードの渦の東西移流を表現する項が、最も重要であることが判った。この強制項に関する考察と数値計算の結果の検討によって、局所加熱領域における外部モードの運動の渦度の符号を詳しく議論した。
    さらに、内部モードの運動から外部モードの運動を励起することが出来る、鉛直方向に大きさが異なるダンピングとエクマンパンピングの効果についても調べた。これらの効果によっても、外部モードの波列は形成された。加熱領域における外部モードの運動の渦度の符号を議論した。
  • 松山 洋
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1071-1084
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    FGGE期間(1978年12月一1979年11月)におけるアマゾン川の流域水収支の季節変化について客観解析データ、降水量データ、河川流量データを用いて解析した。これらのデータを大気の水収支式と流域水収支式に代入することによって流域蒸発散量と相対的な流域貯留量を算定し、水収支各項の関係について検討した。
    ヨーロッパ中期天気予報センターで解析されたFGGE"main"III-bデータより算定される年水蒸気収束量は河川流量データから得られる年流出高よりも小さくなるが、これは熱帯の風の収束•発散が弱めになるような4次元同化方法を用いてこの客観解析データが作成されているためであると考えられる。そこで年流出高と一致するように年水蒸気収束量を1.37倍して補正を施すと、降水量と水蒸気収束量の季節変化のパターンはよく合い、大気の水収支式から得られる蒸発散量は1年間ほぼ一定の値をとることがわかった。これに対して流域貯留量は1年間で大きく季節変化することから、アマゾン川流域全体としては蒸発散量は乾季にも流域貯留量の季節変化の影響を受けないと言うことができる。また乾季の蒸発散比(蒸発散量/降水量)は雨季よりも大きくなり、蒸発散がアマゾン川の流域水循環に果たす役割は、雨季よりも乾季に相対的に重要になることも明らかになった。
  • 中村 健治, 猪股 英行
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1085-1095
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    X-バンドとKa-バンドの2周波レーダによる降雨の偏波観測を行った。このレーダは2つの周波数のアンテナビーム幅が同じになるように設計されており、周波数による差を明確に観測することができる。また偏波を水平•垂直に変えることができる。偏波切換えは遅いため、精度的には若干問題はあるが2周波数により同時に観測しているため、周波数による差は信頼できると考えられる。このレーダにより降雨からの散乱波のZDRの周波数特性を実験的に求めた。X-バンドではZDRは降雨強度とともに増大した。それに対して、Ka-バンドでは、ZDRは近い距離では降雨強度とともに若干増大した。また遠い距離では降雨強度とともに若干減少した。この特性は、Ka-バンドでは、Mie散乱の影響が効いてきて降水粒子の散乱断面積が降水粒子が大きくなっても必ずしも大きくならないこと、また伝搬路での降雨減衰が、水平偏波の方が大きいことから説明できる。
  • 柴田 清孝, 内山 明博
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1097-1109
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    デルタ4ストリーム近似法の精度を、この近似法を大気大循環モデルに導入するために、不均質散乱大気中で調べた。ガウス•ルジャンドルの積分公式を[0-1]区間で使うことと、マトリックス•オペレイター法を適用することにより不均質大気中の放射伝達方程式を2行2列のの行列方程式に変換できる。2行2列の行列に対する演算は解析的に簡単にできるので、2行2列の行列方程式の解を求めるのにそんなに時間を必要としない。このことは、大気大循環モデルでこの近似法が使えることを意味している。
    デルタ4ストリーム近似法と厳密計算法(32ストリーム近似法)の比較が種々のエーロゾルや雲を含むモデル大気の太陽加熱率の計算を通して行われた。デルタ4ストリーム近似法の誤差は太陽高度角のコサインが0.3より大きい場合は5%以下で、0.3より小さくなると誤差は増加傾向を示すが、誤差は概ね10%以下である。
  • 森 一正
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1111-1123
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    気象庁の観測船啓風丸のレーダーデータを使って、1990年6月8-9日に西部熱帯太平洋上ITCZ内に発生したクラウドクラスターの内部構造と時間変化を解析した。レーダーは、クラスターのほぼ全生涯をとら、えた。このクラスターの水平スケールは約500kmで寿命は約15時間であった。クラスターは成熟期には4つのサブシステムから構成され、それらは下層風の風上側から順に若い段階にあった。個々のサブシステムの寿命は約8-10時間であった。このクラスターの発達と移動は、これらサブシステムの下層風風上側での引き続く発生発達で特徴づけられる。このクラウドクラスターの模式モデルが提案された。
  • 米谷 恒春
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1125-1135
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    仮説検定の方法(ラページ検定)により、1900年以降における日本での降水量が地域ごとに突然変化したことが既に示された。そこで、気温および海面気圧の変化を同じ方法により調べた。
    結果は、気温および海面気圧も不連続的に変化したことを示した。また、気温の変化は観測方法の変化、測器の変更、及び他の要因の変化による見かけ上のものでないことも示された。
    既になされた降水量変化の研究を参照した上で、1900年以降の日本での気候変化は次のようにまとめることができる。(1)不連続的変化が卓越しており、トレンドは有為な変化を生じていない。(2)1914年と1949年に、季節の平均気温が最大で1°Cを越える非常に顕著な気温の急上昇が生じ、これに続く季節で降水量が増加した。(3)季節の気温は1957年と1967年にも変化したが、この最近の変化は、突然に生じたが、気温の急上昇でも急下降でもない。8-10月の平均気温は1957年から年々変動が大きくなり、4-7月の平均気温は1967年から年々変動が小さくなった。(4)気温の下降トレンドが認められたが、ラページ検定で検出できるほど明瞭な変化を生じてはいなかった。(5)海面気圧は3回変化した。海面気圧のデータの質について問題があるが、1924年に気圧が変化しており、1924年に年降水量が減少したことは興味ある点である。
    不連続的変化は、気候システムがカオス的な自動的力学系である、という考えを支持する。地域的な不連続的変化の機構及び非常に顕著な気温の急上昇と温室効果ガスの増加との関係については今後、研究されるべき課題である。
  • Tsing-Chang Chen, Harryvan Loon, Kuang-Der Wu, Ming-Cheng Yen
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1137-1146
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    この研究では、北太平洋領域での1950-1988冬の地上気圧及び500mb高度の10年スケールの変動を調べた。この2変数の非対象成分の殆ど(一95%)は長波(波数1-4)で説明されるため、この波数での10年スケールの変動を議論の対象とした。主として次のことが見いだされた。(1)地上気圧と500mb高度の10年スケールの変動はほぼ順圧的で順定常的な長波で起こっている。(2)10年スケールの500mb高度の変動のパターンは、39冬期平均のパターンの位相と90度ずれている。(3)太平洋における地上気圧と500mb高度の下降と上昇は、より低緯度の西風の強化と弱まりに伴っている。
    NCARのCCM.V1を用いて、気候値のSSTを与え1月を持続させた基•準実験に対して、1950-1959年及び1979-1988年の(1950-1988年39冬期平均からの)偏差を与えて数値実験を行った。この数値実験によって、この研究で報告された大気循環の10年スケールの変動は、10年スケールの熱帯•温帯北太平洋の海面水温変動に関連していることが証明された。
  • 王 介民, 光田 寧
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1147-1154
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    HEIFE (Sino-Japanese Cooperational Program on Atmosphere-Land Surface Interaction Processes at Heihe River Basin:黒河域における大気一陸地相互作用過程に関する日中協同研究計画)の一環として砂漠のオアシスにおける接地境界層の乱流輸送および乱流特性の観測を行った。先に行った砂漠上の観測とは異なって水蒸気輸送は昼間に顕熱輸送の4倍に達する。水蒸気量は正午前と夕方に二つの最大を持ち、水蒸気の変動量はその間の昼間に大きくなる。一方、気温の変動量は夕方気温が低下する時間に最大を示す。また、正規化された湿度変動の安定度に対する変化は砂漠上と異なって比較的よくまとまって気温の場合と同じ関数で示すことが出来、相似則に従うことが見られた。
  • 塚本 修, 王 介民, 光田 寧
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1155-1160
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    周囲を砂漠で囲まれた中国西北部のオアシスで、夕方になると水蒸気圧に顕著なピークが観測されることがわかった。これは夏の晴天で風の弱い日に特徴的に見られる。
    地表面付近でのフラックス観測や上層のゾンデ観測から、この原因として以下の様なことが考えられる。周囲の砂漠よりも湿潤で低温なオアシス上空に高温•乾燥の砂漠の気塊が移流してきて、昼間は上層の鉛直輸送が下層大気よりも活発になる。これが水蒸気の発散を引き起こすが、夕方になると砂漠での顕熱輸送量の急減により、上空での鉛直輸送が押えられる。すると、水蒸気輸送量の収束が起こり、水蒸気圧のピークに結びつくのではないか、と考えられる。
  • 川真田 正宏, 山田 真吾, 工藤 達也, 高野 清治, 楠 昌司
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1161-1166
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    火山噴火により成層圏にエーロゾルが注入されると、それらが太陽放射を吸収、散乱することにより成層圏の温度を上げ、対流圏の温度を下げるといわれている。そこで、1991年6月のピナトゥボ火山噴火後の大気温度の変動を気象庁数値予報課作成の客観解析データを用い調べた。
    その結果、エーロゾルが存在するとみられる下部成層圏の全球平均気温偏差は噴火後急激な上昇をはじめ、1991年10月には、+20°Cに達し最大となった。以後、徐々に減少し1992年8月現在も正偏差が続いている。この上昇は通常の年々変動より明らかに大きくエーロゾルの影響とみられる。一.方、対流圏の全球平均気温は噴火後下降したが、大きさは今の所年々変動の範囲内である。
  • 山崎 孝治
    1992 年 70 巻 6 号 p. 1167-1173
    発行日: 1992年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    半球間や成層圏と対流圏の問の空気塊の輸送の様子を観測データに基づく180日間のトラジェクトリー計算によって調べた。一方の半球から他の半球への輸送は上部対流圏を通して行われることがわかった。半球間の交換時間は約1年と推定された。対流圏から成層圏への輸送は主に熱帯対流圏界面を通して行われる。熱帯下部成層圏からの流れは2つに分かれる。一つは亜熱帯のトロポポーズギャップから対流圏にもどる流れであり、他方は下部成層圏を極方向に向かう流れである。
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