気象集誌. 第2輯
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69 巻, 1 号
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  • 古賀 聖治, 田中 浩, 大和 政彦, 山内 恭, 西尾 文彦, 岩坂 泰信
    1991 年 69 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    アンダーセンハイボリュームサンプラーを用いて、南半球が夏季にあたる1986年11月15日から1987年3月13日までのあいだ、インド洋と南極海域において砕氷船「しらせ」、および1986年6月3日から8月1日までの北部太平洋での観測船「白鳳丸」の航海中、船上にて大気エアロゾル粒子の捕集を行った。捕集試料中のメタンスルホン酸(MSA)と過剰硫酸塩(nss-SO2-4)の濃度をイオンクロマトグラフ法により定量分析した。MSAの陰イオン成分であるCH3SO-3は、直径1.1μm以下の粒子において検出された。概して、 CH3SO-3濃度は気温の低下に伴って増加し、反対にnss-SO2-4濃度は減少した。風速の強かった南緯40度付近で、CH3SO-3とnss-SO2-4の濃度は最高値を示し、それぞれ0.067μgm-3と0.77μgm-3であった。これらの結果は次のふたつのことを示している。第一は、高緯度において、低温環境下ではMSA生成がSO2生成よりも活発になり、一方H2O2やOHのようなオキシダント濃度の低下がMSAとSO2からのnss-SO2-4生成を鈍化させること。第二は、ジメチルサルファイド(DMS)の大気への移行量が風の強さに依存していることである。
  • 高橋 庸哉, 遠藤 辰雄, 若濱 五郎, 福田 矩彦
    1991 年 69 巻 1 号 p. 15-30
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    鉛直過冷却雲風洞中で水飽和条件下温度-3~-23°Cで成長時間30分までの実験を行ない、自由落下状態での雪結晶の気相成長特性を調べた。
    得られた結果は以下のようである; 1)雪結晶の晶癖変化は角板(>-4.0°C)、角柱(-4.0°C~-8.1°C)、角板(-8.1°C~-22.4°C)、角柱(<-22.4°C)であった。-5.5、-12、-14.5、-16.5及び-18°C付近で行なった実験では結晶形は時間とともに変化した; 2)等方的結晶の質量増加は時間の1.5乗(マックスウェル型成長の値)に比例し、形状変化を伴う結晶ではこれより速かった。形状変化を伴う結晶には水蒸気がより効率的に昇華凝結することを示している; 3)-12、-14.5及び-16.5°Cで成長した形状変化を伴う板状結晶では通風効果が認められた。一方、-5.5°Cで成長した針状結晶の場合にはその効果は明確でなく、流れを規定しているのがa軸の大きさであるためと考えられる。通風効果はレイノルズ数が2(扇形)または5(樹枝)を超える頃から顕著になった; 4)抵抗係数とレイノルズ数の問には両対数表示で直線関係が見い出された。
  • 斉藤 和雄, 猪川 元興
    1991 年 69 巻 1 号 p. 31-56
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    日本における代表的なおろし風「やまじ風」を対象に、非対称な山に対する2次元山越え気流が非静水圧モデルを用いてシミュレートされる。やまじ風の特徴である「やまじ風前線」とその後面での逆向きの風が、内部ハイドロリックジャンプとそれに伴う循環によって説明される。
    一様流体に対する数値実験によれば、内部ハイドロリックジャンプの振舞は一般流の大きさや山の形に強く影響される。大きな逆フルード数の場においては山の後面でジャンプが殆ど停滞する準定常なレジームが得られ、その後面に一般場とは逆向きの風が発生する。やまじ風のケースでは四国山地の非対称性と中国山地の存在がジャンプの停滞とその後面での逆風をより生じやすくしている。
    1987年4月21日のやまじ風では山頂付近の高度に明瞭な逆転層が存在していた。逆転層がある場合には無い場合と比較して地表風はより大きくなる事が、実況データに基づく大気プロファイルを用いた数値実験により示される。一般流の大きさを時間とともに変化させる実験により、内部ハイドロリックジャンプの発生と移動が定性的にシミュレートされ、やまじ風の概念モデルが示される。
  • 塩原 匡貴, 田中 正之, 早坂 忠裕, 中島 映至
    1991 年 69 巻 1 号 p. 57-70
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    1981年9,月から1985年5月まで仙台市郊外において走査型分光放射計(オーリオールメータ)を用いた太陽直達光•散乱光の分光観測を行なった。観測された波長別光学的厚さと太陽周辺光の強度分布からインバージョン法によりエアロゾルの粒径分布(体積スペクトル)を求めた。
    1982年に起こったエルチチョン火山の噴火前後の比較から、エルチチョン起源のエアロゾルの粒径分布を得た。その結果、エルチチョン•エアロゾルは約0.5μmにモード半径を持つ一一山分布型であり、エアロゾル気柱総量に対する影響は1983年の冬(1982年12月~1983年2月)に最大となり、それから1985年の春にかけて漸減し、ほぼ噴火以前の状態に回復している様子が見出された。
    気柱総エアロゾルの体積スペクトルから、エルチチョン•エアロゾルをモデル化した体積スペクトルを差し引くことにより、仙台上空の対流圏エアロゾルの季節モデルを二山対数正規分布を用いて作成した。その結果、春季と夏季とでは、エアロゾルの体積スペクトルの特徴に大きな違いが見られた。すなわち、春季には半径約3μmの巨大粒子モードが卓越し、一方、夏季には半径約0.2μmのaccumulationモードが卓越している。
  • 岩坂 泰信, 林 政彦
    1991 年 69 巻 1 号 p. 71-81
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    南極昭和基地(南緯69度00分、東経39度35分)で、ふたつの異なる種類のエアロゾル層の存在が、冬の成層圏エアロゾル増大時期に観測された。これらのエアロゾル層を構成する粒子の代表的なものは、それぞれ硝酸3水和物及び氷の結晶と考えられ、従来から存在が仮定されていたタイフ。1-PSCsとタイフ。II-PSCsに対応すると思われる。また、時間的な変化から考えると、初期のエアロゾル層が硝酸3水和物を主体とするものであり発達期のものが氷からなるPSCに相当していたと思われる。しかし、エアロゾル層の構造を詳しくみると、必ずしもこのような単純な区分が成立しているわけではなく、異なるPSCs粒子がそれぞれ層をなして混在していることが予想される。もっとも典型的な例は、初期のPSCsに時々みられる偏光解消度のきわめて高い部分の存在である。
    PSCs粒子が出現しうる領域を調べてみると、厳冬季には氷粒子の出現可能な領域が対流圏界面直上まで広がることが予想され、PSCs粒子が対流圏まで重力沈降していきやすい環境が出来ている(落下途中の蒸発がないため)。このようなことがあれば、PSCsの発生は、粒子状物質及び関連する気体成分の成層圏から対流圏への輸送やオゾンホール形成などに大きな影響を及ぼすことになる。
  • 佐粧 純男, 森 太郎, 小野 崎統, 斎藤 貴志
    1991 年 69 巻 1 号 p. 83-90
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    ろ紙による雪片の含水率測定法(中村、1960)を自動化した含水率計を試作し、野外観測を行った。その結果
    (1)含水率は、同じ質量の雪片同志の問でも大きなばらつきを示した。
    (2)同じ質量を持つ雪片の平均含水率(W)と質量(m)との問には、logW=-αlogm+logβ (2)
    の近似式が成り立った。ここで、αとβは質量に関係のない定数で、αの値は0.27から0.95の間にあり、平均は0.53また、βは0.07から0.51、平均0.25であった。
    (3)定数α、βの物理的意味を知る為に、雪片の融解方程式を解いて、(2)式と同じ含水率と質量の関係を得た。その結果αは落下速度だけに関係しているのに対してβは落下速度の他に融解雪片に含まれる氷の骨組密度、融解層内で周りの空気から雪片に輸送される熱量などに関係していることがわかった。
  • 日中の熱的低気圧と早朝の熱的高気圧
    桑形 恒男, 住岡 昌俊
    1991 年 69 巻 1 号 p. 91-104
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    春期の弱風晴天日に中部日本域に発生する熱的高•低気圧の発生機構を熱収支的に解析した。従来、熱的高•低気圧は海面更正気圧を用いて解析されてきたが、その方法では熱的高•低気圧の強さを2~3倍過大評価してしまう。本研究では、新たな解析手法を用いて各高度面における気圧分布を評価した。日中の下層大気の昇温にともなって、内陸を中心に地上気圧が時間と共に減少し、午後遅くには熱的低気圧が発達する。解析の結果、熱的低気圧の強さは約2mb、厚さは約2000 m(海抜高度)と評価された。熱的低気圧は下層大気の昇温量の地域差が原因で発生する。盆地昇温効果と平地一台地効果および海風冷却効果の3つが昇温量の地域差を生み出す原因であり、特にはじめの2つの効果が重要である。一方、早朝には日中とは逆に熱的高気圧が発達する。解析の結果、熱的高気圧の強さは約1.6mb、厚さは約2000mと評価された。 熱的高気圧は下層大気の夜間冷却量の地域差が原因で発生し、盆地冷却効果と平地一台地効果が夜間冷却量の地域差を生み出す原因となっている。
  • 高薮 縁, 村上 勝人
    1991 年 69 巻 1 号 p. 105-125
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    1986年6月1日~20日に熱帯西太平洋上を東進したスーパークラスターに伴う構造とそれを構成する西進構造との特徴を解析した。用いたデータは、GMS赤外ヒストグラムデータ及び気象庁全球客観解析データである。この期間、約3000kmの東西幅を持った4個のスーパークラスターが次々と東進するのが観測された。
    主な結果は次の通りである。(1)1986年6月1日~20日に観測されたスーパークラスターの階層構造は、ケルビン波的構造を持った赤道上の東進モード赤道から数度離れた緯度を西進する偏東風波動とから構成されていた。(2)赤道上の東進モードは北緯10度~南緯10度において特に東西風成分に顕著な振幅を持っていた。コンポジット構造に見られる風と高度場との関係はケルビン波的構造を示しているが、東進速度は10度~12度/日であった。鉛直構造からは対流圏上部からの下向きエネルギーフラックスが示された。
    積雲対流の効果による有効位置エネルギーから東進モードの運動エネルギーへの変換は小さく、一方、対流圏上層における南半球からのエネルギー入力が示唆された。(3)西進する雲クラスターに伴う西進モードの構造は、従来観測されている偏東風波動の構造に対応していた。また、この偏東風波動の振幅は、東進モードとの位置関係によって変調を受けていた。東進モードの下層収束の西方では積雲対流活動がより活発で有効位置エネルギーから偏東風波動の運動エネルギーへの変換が大きく、上層の擾乱の振幅が特に励起されていた。下層擾乱の振幅に対しては東振モードの影響は比較的小さかった。
  • Kyozo Ueyoshi, Young-June Han
    1991 年 69 巻 1 号 p. 127-152
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    急峻で複雑な地形における気流と地形性降雨をシミュレートするための3次元数値メソ気象モデルを示す。急峻な地形上の気流の非線型性を良く再現するために、アラカワの保存スキームの4次の精度のものを使った。降水は、グリッドスケールの凝結による。
    このモデルをハワイ島に適用し、24時間の時間積分を行ったが、山の風下側の擾乱が再現された。無次元解析によると、モデルで再現された渦はカルマン渦列とみなせ、観測される渦に似ている。降水の水平分布も観測のそれに大概よく一致しているが、風下側の海岸付近や風向きに沿っての低地域で降水が過少になっている。一方、南方の半島部における過多の降水は、サブ•ブリッドスケールの効果の扱い方に問題があることを示唆している。
    大規模場の客観解析を利用して、当モデルを局地気候モデルとして応用する議論も示されている。
  • 山田 真吾, 前田 修平, 工藤 達也, 岩崎 俊樹, 露木 義
    1991 年 69 巻 1 号 p. 153-159
    発行日: 1991年
    公開日: 2007/10/19
    ジャーナル フリー
    力学的1か月予報の実用的な可能性を探るために、時間ラグ平均法による集団予報実験を行った。冬期の8ケースについて検証した結果は以下のとおり:
    (1)1-30日平均した北半球500hPa高度場のアノマリー相関係数は、8ケース平均で0.54、根2乗平均誤差は55mであり、単独の力学的予報のスキルや気候値予報のスキルよりも良い。時間ラグ平均法による1か月予報は、実用的にも有効なスキルがあるといえる。
    (2)10日平均500hPa高度場に対しては、集団平均の効果は第2旬目(11-20日平均)以降、明瞭になる。第3旬目(21-30日平均)の根2乗平均誤差は、気候値予報よりやや大きく、実用的な精度としてはギリギリの線である。
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