やすりはハンドツ-ルであるからその切削抵抗や工具寿命などの切削因子はあまり明らかではない.そこで筆者らは,やすりの切削性を明らかにするために,形削り盤を基にリンク機構などを付加してやすりの加工性能試験装置を開発すると共に,同時多刃切削であるブロ-チ加工にならって基礎的な切削因子である比切削抵抗を導いた.次に被削材に炭素鋼を用いて切削試験装置による単目やすりの切削実験を行い,切削ストロ-ク数の増加に伴う被削材の除去長さや切削抵抗の測定と共に切れ刃の観察を行った.その結果,切削ストロ-ク数が増加すると,被削材の除去長さおよび切削力は減少するとともに,比切削抵抗が増加することがわかった.切削ストロ-ク数の増加とともに逃げ面摩耗幅が増加していることから,やすりの切れ刃の損耗と共に切削性は低下し,比切削抵抗が増加していることを確認した.
工具表面の研磨の有無によりダイヤモンド砥粒の突き出し高さが異なる2種類のPCD工具を用い,両者による単結晶サファイアの加工特性の差異を検証した.未研磨のPCD工具を用いて,切込み量0.2 μm,送り速度2 mm/minで加工した結果,算術平均粗さ3.2 nmRa という高品位加工面が得られた.研磨を施したPCD工具においては,脆性破壊による加工が主体的となり,加工後表面の算術平均粗さは242.4 nmSaであった.長距離加工後の工具表面には強固に凝着する付着物の存在を確認した.アルカリ基水溶液中における電解作用を援用したリコンディショニング法により,工具表面に存在する付着物を除去し得た.さらに,飽和水蒸気を用いたマイクロドロップピ-ニングによるリコンディショニングにより,工具表面の付着物は確実に除去されるとともに,同処理を施す前に比べ処理した後の方が高品位な加工面が得られ,付着物を除去する有効性を確認し得た.
本報においては,著者らがこれまで開発してきた無線通信機能を具備した回転工具ホルダを5軸MCで適応させ,同時5軸加工中の刃先近傍での振動加速度の取得を実施した.そのデ-タより,加工後ワ-ク表面状態の推測や振動原因の推測を検討した.一方で協働ロボットにおける磨き作業に着目して,協働ロボット土台に具備されている力センサの内部情報を用い,単に人との接触を検出するだけでなく磨き加工中の力をリアルタイムで把握できるようにした.さらに,開発した無線振動モニタリングシステムの技術とロボットの内部情報を融合させる手法を構築し,磨き動作のセンシングおよびそのデ-タを用いた磨き加工の高度化を検討した.これらシステムを用い,5軸加工中に得られたデ-タから協働ロボットでの仕上げ加工動作の最適制御を実施した.すなわち,前工程のインプロセスデ-タを用いて後工程の加工改善につなげる新たな改善手法を提案したのでその詳細を報告する.