本研究は,生体適合性セラミックス製人工膝関節を加工対象とした,デスクトップ型5軸NC精密研削盤の製作を目的とするものである.研削盤は,工具側に直動3軸,工作物側に回転2軸を有するTable-on-Table型の構造とし,人工膝関節に求められる加工精度(形状精度:5μm)を満足するように,FEM解析による剛性設計と形状創成理論による精度設計を行った.研削盤の試作後,静的コンプライアンス試験,位置決め精度試験,真直度誤差運動試験を実施し,それぞれが十分な精度を有していることを確認した.さらに,炭素鋼の研削実験により,それらの運動精度が加工に反映されることを確かめ,ジルコニアセラミックスの研削加工実験より,加工精度は5μm以下に抑えられ,加工面に大規模な脆性破壊が存在しないこともわかった.これらの結果から,小型でありながら,人工膝関節の加工において従来の研削盤と同等の加工性能を有している研削盤を試作することができた.
Ti合金等の難削材の高効率加工に適用可能なコ-テッド工具の開発を念頭に,耐熱性に優れるTiB2系薄膜の高硬度化を目指した.スパッタリング法によるTiB2系薄膜形成時にBを過剰に含有したタ-ゲットを用い,薄膜中のB/Ti比を2以上にした.これにより成膜時のTiの酸化が抑制され,TiB2系薄膜中の酸素含有量は低下した.それに伴い微小硬度が上昇するとともに,密着性も改善した.この結果をふまえ,TiB2系薄膜中の酸素含有量を制御することを目的に,スパッタ成膜前の真空度を高めた実験を行った.その結果,TiB2系薄膜中の酸素含有量を3at.%まで低減させることができ,35GPaを超える微小硬度が得られた.この高硬度かつ高密着性を有するTiB2系薄膜を切削工具用コ-ティング材として用いることを目的としてCを添加し,摩擦摩耗特性を改善した.Ti合金切削時にCを添加したTiB2系薄膜をコ-テイングした工具を用いることにより,ドライ加工においても切削油を供給した場合と同様の切りくず排出性を実現できた.また,被削材(Ti合金)の表面平滑性も向上し,加工初期の切削抵抗を低減させることが可能となった.
パウダ-ジェットデポジション(PJD)は常温大気圧環境下で適用可能な成膜法である.筆者らは本手法を用いてハイドロキシアパタイト(HA)膜を歯質上に形成する歯科治療法を推進している.PJDに供するミクロンオ-ダのHA粒子は凝集性が高いため,粒子タンクからハンドピ-スまでの搬送配管内壁に粒子が残留することが課題となっていた.本研究ではこの欠点を解決するため,配管による粒子搬送を用いない粒子タブレット切削方式の歯科用PJDハンドピ-スを開発した.その結果,配管内への粒子残留がなく,HA膜の形成が可能であることを示した.