心電図
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30 巻, 1 号
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Editorial
第26回 日本心電学会学術集会 学術諮問委員会提言シンポジウム
不整脈にCa拮抗薬とATPをどう使うか―基礎と臨床―
  • 小野 克重
    2010 年 30 巻 1 号 p. 3-19
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    Vaughan-Williams分類第4群に属するCa拮抗薬は,主に電位依存性L型Ca2+チャネルに結合してCa2+電流を抑制する.このため,Ca2+電流依存性興奮組織の洞房結節や房室結節における自動能の亢進もしくはこの部位を回路の一部とするリエントリー性不整脈に対しCa拮抗薬は有効である.撃発活動(triggered activity)とは活動電位の再分極相,あるいはその直後に生じる小さな膜電位振動から発生する単発,あるいは反復性の興奮で,活動電位持続時間が延長している時や細胞内Ca2+過負荷が生じている病的条件で起こる.Ca拮抗薬は撃発活動に対して顕著にこれを抑制する.抗不整脈作用を有するCa拮抗薬は,ベラパミル(フェニルアルキラミン系)とジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)に限られ,通常降圧剤として用いられるジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は血管選択性が強いために心臓作用は期待できない.一方,Vaughan-Williams分類では抗不整脈薬に分類されていないが,アデノシンやATP(アデノシン三リン酸)は受容体を介した心筋細胞外からの作用によって洞房結節の自動能を抑制する(陰性変時作用;negative chronotropic effect)とともに,房室伝導を抑える(陰性変伝導作用;negative dronotropic effect).また,心室筋に対しては間接作用(抗β受容体作用)によって電位依存性L型Ca2+チャネルを抑制する.血管内に投与されたATPは直ちに代謝を受けてアデノシンに変換されるが,それまでの間はATPとしての作用と変換後のアデノシンとしての両作用で心筋や血管機能を調節し,不整脈の診断や治療に欠かせない.本章では,Ca2+チャネルとCa拮抗薬の薬理作用,さらにATPとアデノシンの作用機序を概説する.
  • 小林 洋一, 菊嶋 修示, 宮田 彰, 三好 史人
    2010 年 30 巻 1 号 p. 20-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    ATP(アデノシン三リン酸)は多くの不整脈の診断と治療に用いられる.そのなかで,上室不整脈に対するATPの使い方としては,上室頻拍の停止,上室頻拍の鑑別診断,wide QRS頻拍の鑑別診断,上室頻拍に対するカテーテルアブレーションの評価,WPW症候群に対するカテーテルアブレーション後の副伝導路再発の予知,心房細動に対するカテーテルアブレーションの評価,などがあげられる.まず,ATPのヒトにおける上室の刺激伝導系への作用を概説し,次にATPの基本的な使い方を,さらには,臨床的な診断治療における有用性につき述べ,その他今まであまり使われていない使用方法にも触れる.Ca拮抗薬はすでに20年以上前から不整脈治療に用いられてきたが,本章では静注薬に的を絞り,ATP,ベラパミル,ジルチアゼムの使い分けについて解説する.
  • 三田村 秀雄
    2010 年 30 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    心房細動(AF)の心拍数調節の標的は,基本的には房室結節の内向きCa2+電流である.それを低下させる薬剤としてCa拮抗薬があるものの,本剤は血管平滑筋のチャネルにも作用するため,血圧の低下により反射的交感神経増加をまねく.その結果,急性投与では反対に心拍数を増加させたり,心房不応期を短縮させて停止を困難にすることもある.一方,AFが持続すると心房筋細胞内のCa2+過負荷を回避するためにL型Ca2+電流を減少させるフィードバックが働く.それが心房不応期の短縮をまねき,リエントリー性不整脈の易誘発性に結びつくが,L型Ca2+チャネルを当初から遮断しておくのみではこのリモデリングを回避できない.T型Ca2+チャネルをも遮断することがより持続的な防止効果につながる.両型のCa2+チャネルを遮断するアミオダロンやベプリジルが動物実験や臨床例において高い抗AF効果を示している.Ca拮抗薬はAFの管理において多面的作用を発揮し,有用性が高い.
  • 大江 透
    2010 年 30 巻 1 号 p. 46-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    特発性単形性心室頻拍(VT)における特発性は,通常の検査(身体所見,心電図,胸部レントゲン,心臓超音波検査,血液検査)では不整脈以外に異常を認めないことより診断される.したがって,特発性と診断された症例でも,MRI,心筋生検および遺伝子解析などの方法を用いて詳細に調べると,異常が認められる可能性がある.単形性は,VT時の心電図で診断され,QRS波形が単一で一定の場合である.特発性単形性は主にその発生部位から,(1)左脚束枝起源,(2)心室流出路起源,(3)房室弁輪部起源,(4)その他の部位起源,に分類される.また,薬物の有効性から,左脚束枝起源VTはベラパミル感受性VT,心室流出路起源VTはアデノシン感受性VTと各々よばれている.器質的心疾患に合併するVTの薬物治療にはアミオダロンが選択されることが多いが,特発性と診断された患者にはCa拮抗薬が著効する場合がある.本稿では,特発性単形性VTのうち,頻度が高い左脚束枝起源VT(ベラパミル感受性VT)と心室流出路起源VT(アデノシン感受性VT)を取り上げる.
  • 清水 渉, 相庭 武司, 山田 優子, 岡村 英夫, 野田 崇, 里見 和浩, 須山 和弘, 相原 直彦, 栗田 隆志, 鎌倉 史郎
    2010 年 30 巻 1 号 p. 55-62
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    先天性QT延長症候群(LQTS)の薬物治療としては,β遮断薬のほかに,内向き電流を減少させるIb群Naチャネル遮断薬やCa拮抗薬,外向き電流を増加させるKチャネル開口薬などが考えられる.Ca拮抗薬のベラパミルは,単相性活動電位(monophasic action potential ; MAP)記録を用いた臨床研究や,動脈灌流心室筋切片標本を用いた実験的LQTSモデルによる検討からその有効性が報告されている.当院では主にβ遮断薬治療による外来経過観察中に遺伝子型が同定された先天性LQTS患者193例中11例(5.7%)で,torsade de pointes(TdP)の反復によるelectrical storm(ES)を認めた.ESのリスク因子としては,女性,発端者,LQT2型,失神・心停止・TdPの既往,Schwartzスコアー≧6,安静時QT時間≧ 500msecが,直接的な誘因としては,低K血症や低Mg血症があげられた.ES急性期の治療として,Ca拮抗薬のベラパミルの静注と持続点滴が有効であった.
症例
  • 杉山 裕章, 今井 靖, 海老原 文, 藤生 克仁, 平田 恭信, 永井 良三, 田中 信大, 山科 章
    2010 年 30 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,男性.生後,修正大血管転位(C-TGA),心室中隔欠損(VSD),右胸心の指摘を受け,2歳時にVSD閉鎖術,33歳時に三尖弁置換術(TVR)が施行された.以後,心機能低下はあるものの心不全の顕在化なく経過していたが,2008年10月,突然心肺停止となった.搬送先で蘇生されたが,体心室(解剖学的右室)の収縮能低下を伴う心不全管理に難渋し,カテコラミン依存状態となった.当院転院後,非薬物療法の検討が行われたが,悪液質,MRSA保菌や胃瘻の存在もあり,補助人工心臓・心臓移植が躊躇された.他方,心室内伝導障害と体心室の収縮非同期を認めたため心室再同期療法(CRT)を先行導入したところ,著効を示しカテコラミンからも離脱しえた.成人期に達したC-TGAにおける体心室の適応破綻はしばしば問題となるが,本症例は補助循環も考慮されるほどの最重症心不全に対してもCRTが著効する場合があることを示唆した貴重な症例と考える.
  • 福本 耕太郎, 高月 誠司, 谷本 耕司郎, 西山 信大, 相澤 義泰, 福田 有希子, 佐藤 俊明, 三好 俊一郎, 小川 聡
    2010 年 30 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/14
    ジャーナル フリー
    症例は72歳女性,9年来の発作性心房細動.2007年3月カテーテルアブレーションを施行されたが心房細動が再発したため,同年12月に2回目のアブレーションを施行し,再度左右の上下肺静脈を電気的隔離した.その後,心房細動発作は消失したが,2008年3月に,心房頻拍が発作性に出現するようになったため,同年4月に3回目のアブレーションを施行した.無投薬下では右下肺静脈のみに伝導再開を認め,イソプロテレノールおよびアデノシン三リン酸(ATP)の静注時のみ右上肺静脈に一過性の伝導再開を認めた.臨床的に認められた心房頻拍は右肺静脈起源と考えられ,再度右上下肺静脈を電気的隔離した.最終的にイソプロテレノールおよびATP静注でも右上肺静脈左房間の伝導を認めなくなり,その後不整脈の再発なく経過している.前回のアブレーションから4ヵ月後,ATP静注時にのみ右上肺静脈左房間の伝導を認め,それが臨床的な心房頻拍の原因となっていた.慢性期にもATPによって伝導が再開する機能性ブロックが起こりうること,ブロックの確認にATPが重要であることが示唆された.
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