結核菌は初期の段階でエンドソームの成熟を停止させ抗菌作用に抵抗することでマクロファージ内での増殖を可能にする. T細胞は結核特異免疫の中心的なメディエーターであり, マクロファージを活性化することによって結核感染防御を誘導する。結核菌の蛋白抗原はMHCクラスII分子によってCD4T細胞に提示され, これを活性化しIFN-γ産生を誘導する. CD8T細胞もIFN-γを産生し, 細胞傷害活性を示すことで結核感染防御に重要である. 脂質抗原に対応するγδT細胞などのunconventionalT細胞はIFN-γ産生および細胞傷害活性を介して作用する.
結核感染は人類の約1/3にみられるが, 多くは感染がコントロールされ発病しない. 既に存在するBCGワクチンは成人においては適当な防御活性を賦与できないため十分ではない. 新たなワクチンを開発するためには, 何故BCGや自然感染が十分な感染防御活性を誘導できないか明らかにする必要がある. また, 結核菌のゲノム解読によって感染防御抗原や病原因子の解明に道を開いている. 防御抗原の同定はサブユニットワクチンの開発に重要であり, 病原因子の同定は全菌ワクチンのために重要である.
サブユニットワクチン開発には, (1) ワクチン抗原の免疫原性を高めるためのフォーミュレーション, (2) DNAワクチン, (3) リコンビナントワクチンに関する研究が含まれる. 有望なサブユニットワクチンには蛋白性アジュバントを用いたAg85やMtb8.4, あるいはAg85やESAT-6を含んだ融合蛋白, DNAワクチン候補にはHsp60, Ag85, Mtb8.4があげられる. 弱毒ワクチンとしては, (1) 病原遺伝子を欠失させた結核菌ワクチン, (2) 結核菌またはBCGの栄養要求性変異株, (3) cytolysinなどを組み入れて免疫原性を高めたリコンビナントBCG株, そして (4) Ag85のような重要な抗原を過剰発現させたリコンビナントBCG株の開発が考えられている. また, 異なったアプローチを組み合わせることで増強効果が期待できる. 例えば, 初回免疫を生菌, 追加免疫をサブユニットワクチンで, あるいは初回免疫をBCGと新たなワクチンを組み合わせることでワクチン効果を高めることができるかもしれない.
BCGワクチンや自然感染後の免疫応答に関する研究や低感受性および高感受性宿主問の比較検討から結核感染防御機構に関するわれわれの知見が蓄積されつつある. 有効なワクチン開発までまだまだ道のりは遠いが, 最近のゲノミクス, プロテオミクス, 免疫学研究によってBCGに勝る新たな結核ワクチンの登場する日が来ることを期待したい.
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