ある国または地域の結核蔓延状況は,(1) 過去の蔓延状況,(2) 社会・経済的状況,(3) 対策,の3つで決まるが,この結果決められた蔓延状況は,次に強く影響を与え,再び3因子が絡みあって次の状況を作る。こうして「結核蔓延のスパイラル」が形成される。このような視点から世界,日本の蔓延状況を分析した。特に日本については,42年間の各県の罹患率の推移を分析し,47都道府県を,(1) 現在の罹患率が低く,減少が速やかで農村圏にある17県,(2) 過去の影響から高齢者の罹患率が高く,中間的で特徴が少ない18県,(3) 若年者の罹患率が高く,都市結核の様相が著明,あるいは都市結核の様相を示し始めている12県の3群に分けた。世界の結核対策の歴史を振り返ると,(1) 古典的結核対策期(~1963年),(2) 現実的対策期(1964~1990年),(3)DOTS戦略期(1991~1999年),(4) 感染症対策強化期(2000年~)の4期に分けられた。この視点からわが国の対応を見直したが,今後の対策は従来の対策の延長線上にはないと考えられた。今後の対策は,上述の分析のように地域の特性を十分に明らかにし,その特性に応じた対策を強力に進めるべきであると結論した。
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