結核
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81 巻, 10 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 星野 斉之, 小林 典子
    2006 年81 巻10 号 p. 591-602
    発行日: 2006/10/15
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    〔目的〕地域DOTSの治療成績への効果を評価し,課題を検討する。〔対象〕2003年と1998年に登録された喀痰塗抹陽性初回治療患者で標準治療を受けた者。〔方法〕結核の治療成績を,地域DOTS実施前後で比較した。また,生活保護対象者の死亡予防可能性を検討した。〔結果〕外来DOTSを実施した保健所では,社会.国民保険加入者の治療成功率や脱落率の改善を認め,老人保健加入者の脱落率の改善が示唆され,生活保護対象者の脱落率が半減して治療成功率は改善傾向を示した。訪問DOTSを実施した保健所では,国民保険加入者と老人保健加入者の脱落率の改善が示唆された。連絡確認DOTSのみの保健所では,情報把握が不十分だった。生活保護対象者の死亡率は,受給中の者に比して申請中の者で高く,健診発見例に死亡例が少ない傾向があった。〔考察・結論〕外来DOTSと訪問DOTSは治療結果の改善を示した。しかし,連絡確認DOTSのみの保健所は,情報把握が課題である。また,高齢者の高死亡率が未解決である。生活保護対象者の死亡予防策として,ハイリスク者健診の強化,有症状時の早期の医療機関受診の促進,生活保護捕捉率の向上が考えられた。
  • 鹿住 祐子, 菅原 勇, 和田 雅子, 木村 清延, 糸納 秀司
    2006 年81 巻10 号 p. 603-607
    発行日: 2006/10/15
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    〔目的〕51歳女性(症例1)と72歳男性(症例2)の喀痰から検出された抗酸菌を同定する。〔対象および方法〕症例1の患者は1986年から1990年の間に喀疾の塗抹(抗酸性染色)陽性培養陰性が16回あり培養陽性が4回あった。このうち2株が従来法にてM.xenopi-likeと同定され,-80℃ にて保存された。症例2の患者はじん肺患者で,2003年に定期検査の喀痰から抗酸菌が分離され当研究所に同定依頼があった。これら2症例2株において同定試験として16SrRNA遺伝子・rpoB遺伝子のシークエンスと従来法が行われた。〔結果・考察〕2株とも遺伝子検査によってM.heckeshomenseと同定され,従来法にて確認された。発育に4週間かかる遅発育菌で,コロニーは暗所培養にて黄色に着色するScotochromogenであった。M.heckeshomenseを遺伝子学的に類似しているM.xenopiから分けるために16SrRNA遺伝子とrpoB遺伝子のシークエンス,そしてアリルスルファターゼ法が有用であった。ヒトへの病原性は不明であるが,症例1は排菌期間が長いため患者への影響は否定できない。塗抹陽性培養陰性の結果が得られたときは検体処理方法の改善が望まれる。
  • 田澤 節子, 丸茂 健治, 樋口 道生, 吉澤 康男
    2006 年81 巻10 号 p. 609-612
    発行日: 2006/10/15
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    2年間の長期中心静脈(CV)カテーテル管理下の女性患者(49歳)に生じたMycobacterium fortuitumの血流感染症の1例を報告する。この患者は既往歴に直腸癌で直腸切除(36歳),胃癌で幽門側胃切除(42歳),術後イレウス癒着剥離術(44歳~47歳,4回)があった。今回,悪寒,倦怠感と共に38.4℃の発熱とCVカテーテル(Hickman catheter)挿入部位(右鎖骨下)の皮下膿瘍のため当院を受診した。CVカテーテルを抜去し,膿瘍切開ドレナージが行われ,同部にペンローズドレーンが挿入された。M.fortuitumは血液をカルチャーボトルで培養し,ペンローズドレーンチューブ内の膿を血液寒天培地で培養したところ,3日後に検出された。その後,この患者は軽快し,1カ月後に退院した。これらの分離菌株はパルスフィールドゲル電気泳動法で同一クローンであった。これらの知見は本症例のM.fortuitum血流感染は皮下膿瘍からCVカテーテルを介した可能性があると考えられた。
  • 吉川 泰弘
    2006 年81 巻10 号 p. 613-621
    発行日: 2006/10/15
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    :主な人獣共通感染症は700種類以上を数え,中でも結核は重要であり,結核を含む抗酸菌症は霊長類や反笏動物に多い。結核菌の自然宿主はヒトであるが,牛型結核菌や非結核性抗酸菌なども含めて多くの動物は抗酸菌に感受性が高い。また,最近のわが国のペットブームによりヒトと動物の間での再帰感染例が増加し,動物園動物における抗酸菌症の発生も見られている。動物の国際取引も増加しており,動物由来の感染症や食品に関する国際基準は1927年に設立された国際獣疫事務局(OIE)が決定している。加盟国はその基準に拘束されるが,わが国は比較的良好にコントロールされており,乳牛での牛型結核の発生はほとんどなく,実験用の輸入サルでも人型結核の報告は少ない。しかし,結核予防法が感染症法に統合される予想の下,動物における抗酸菌症の届け出や非汚染証明書の発行などの範囲等は検討すべき課題であり,獣医のみならず医師もこの問題に関心を持つ必要がある。
  • 青木 正和
    2006 年81 巻10 号 p. 623-629
    発行日: 2006/10/15
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    ある国または地域の結核蔓延状況は,(1) 過去の蔓延状況,(2) 社会・経済的状況,(3) 対策,の3つで決まるが,この結果決められた蔓延状況は,次に強く影響を与え,再び3因子が絡みあって次の状況を作る。こうして「結核蔓延のスパイラル」が形成される。このような視点から世界,日本の蔓延状況を分析した。特に日本については,42年間の各県の罹患率の推移を分析し,47都道府県を,(1) 現在の罹患率が低く,減少が速やかで農村圏にある17県,(2) 過去の影響から高齢者の罹患率が高く,中間的で特徴が少ない18県,(3) 若年者の罹患率が高く,都市結核の様相が著明,あるいは都市結核の様相を示し始めている12県の3群に分けた。世界の結核対策の歴史を振り返ると,(1) 古典的結核対策期(~1963年),(2) 現実的対策期(1964~1990年),(3)DOTS戦略期(1991~1999年),(4) 感染症対策強化期(2000年~)の4期に分けられた。この視点からわが国の対応を見直したが,今後の対策は従来の対策の延長線上にはないと考えられた。今後の対策は,上述の分析のように地域の特性を十分に明らかにし,その特性に応じた対策を強力に進めるべきであると結論した。
  • 山岸 文雄
    2006 年81 巻10 号 p. 631-638
    発行日: 2006/10/15
    公開日: 2011/05/24
    ジャーナル フリー
    糖尿病,エイズ,胃切除,悪性腫瘍,抗TNF-α製剤投与例からの結核発病について,その臨床像および対策について検討を行った。最近の糖尿病合併頻度は増加が著明であった。糖尿病合併例の肺結核は進行例が多いが有症状期間が短く,糖尿病合併例では結核の進展が早いと考えられた。日本人のエイズ合併結核症例は中年に多く,増加傾向であった。播種型結核を含む肺外結核が多く,HAART療法の汎用化と共に予後は改善されていた。胃切除の原因疾患は胃癌が最も多かったが,予後は良好であった。胃切除症例ではやせて栄養状態不良の症例が多かった。悪性腫瘍を合併した肺結核症例は予後不良であり,特に肪癌,悪性リンパ腫の予後は不良であった。抗TNR-α製剤であるインフリキシマブ投与例からの結核発病,特に播種型結核を含む肺外結核が多かった。インフリキシマブ投与前のツ反は減弱していた。化学予防例からの結核発病はなく,化学予防率の増加に伴い結核発病例は減少していた。免疫抑制宿主では結核発病の早期発見のため,定期的および有症状時の検査が必要であり,結核発病防止のため,結核既感染例では年齢制限を加えない積極的な化学予防が必要であると考えられた。
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