空氣の局部破壞に伴ふ殘留電荷の火花放電に及ぼす影響を攻究する第一歩として,周波數の異なる各種の同調波を用ひて,沿面放電の特性を攻究した結果,負の刷子放電に伴ふ殘留電荷の影響は,亞いで來る正の電壓との間の時間的關係が,10
-6秒であるか10
-7秒であるかにより,著しく異なるものである事が認められた。
或半サイクルに於ける放電により發生した正の電荷の存在により,他の極性をもつた次の半サイクルに於ける火花放電の起り易くなると云ふ性質が,周波數の増すと共に益々著しく現はれて來ると云ふ事實は,波長100米附近迄の周波數の間に於てのみ滿足され,周波數がそれ以上になれば,却つて放電し難くなり,遂に衝撃電壓のそれに近づき,然もその變化が波長50米附近で頗る急激に行はれる事が認められた。
波長50米の高周波と云へば,要するに約10
-7秒の間に電源の極性を變更する事となる故,此時間は,大氣中に於て,30kV/cmの電位傾度の下に於て,電子の1糎の距離を移行するに要する時間と同程度のものとなる。從つて,斯る波長の短かい高周波になれば,電子そのものの活動が妨害され,その結果電子も負イオンとして多量に電界に殘留し,正イオンの殘留電荷としての作用を減殺する爲め,火花放電し難くなつたのではなからうかと推測される。若し此考察にして誤りなくば,本研究は此點に於ても亦意義あるもののやうに思はれるのである。
此報告をなすに當り,種々御配慮を煩はした八木教授の御厚意と,終始實驗に從事せられた狩野君及陰極線オッシログラフの使用に際し御助力下されたる笠原君の實驗援助に對し,厚く感謝の意を表す。
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