本研究報告は植物の生長に對し電氣-高壓交流、高壓直流、高壓高周波電流の三種-の影響に關し大正十年以來東京帝國大學植物園に於て行つた實驗結果を記述したるものである。
電氣栽培の野外圃場試驗の成績は或は其收獲に著しき増收を見たと發表し、或は何等の効果がなかつたと報告し、定まったる結果が得られて居らない。故に本研究は温室内で行ひ、供試並に對照植物に對し、外界の條件を出來得る限り均一に保たしむることゝした。
電壓は植物の上方15乃至30糎の一定の距離に吊つた細銅線綱に加へ、以て植物體内にイオン又は誘導作用で微弱な電流を通ぜしめた。
實驗結果の判定は温室内で出來得る限り生長せしめた場合の供試並に對照植物の莖、葉全體の乾燥重量を比較して其結果を判定することゝした。
豫備實驗-高壓交流實驗、電源は交流50サイクル21,000ヴオルトを用ゐ種々の植物に就て試みた。結果は多くは電氣は生長を助くることを示し、例せば最近ソバに對する二つの例に於ては各9.8%及び8.03%の増長を示した。
高周波實驗-瞬滅火花間隙で高周渡電氣(基本波周波数130,000サイクル)電壓最高約13,000ヴオルト(火花間隙で測定し約1.5-1.6糎)で試みた。當初の結果は區々であつたが最近のソバに對する一例は12.55%の増長を示した。
高壓直流實驗-ケノトロンを以て交流を整流して高壓直流を發生せしめ、空中の細銅線綱を(-)極に、植物を(+)極に保ち、或は電壓を一定に保ち、或は植物内の電流を一定に保つ爲め電壓を交流側にて測り實効値で10,000-15,000ヴオルトに變化して試みた。當初の結果は特に増長を認めなかつたが、最近烟草に對するものは顯著であつて其一例は21.7%の増長を示した。
定温暗箱實驗 以上の栽培試驗の外、更に電氣の効果を確むる爲め、定温暗箱内で燕麥の甲柝(芽生へ)の電氣に因る伸長度の變化を測定した。暗箱内の温度は±0.01°Cの範圍内に保ち、電極には白金線の突針を甲拆の垂直上部に30粍の距離に吊り、伸長度は毎五分時に80倍の水平顯微鏡て測定した。其結果は第六圖Curve 1-32に示してある。其要領は次の如し。
1. 放電せざる場合の伸長度は一定である(第六圖Curve 1)
2. 放電當初に於ては概して一且少しく伸長速度を減ずるも、十數分の後伸長速度を増し、通例三•四十分以内に最大に達し、一、二時間の後常態に復す。即ち放電の結果特異なる波状の伸長速度變化、之を"電氣伸長反應"とも稱すべき現象を惹起する。
3. 放電に因る伸長度は或る距離にあつては適度の電壓に於て最大となる。
4. 伸長度の増加は全く放電の現象に起因し、尖端放電に伴ふ他の理化學的現象は殆んど伸長に影響を與へぬ。
伸長増加の原因が電氣に因ることは明かであるが、其イオン作用によるものか、或は又單に電流に因るものかは未だ明らかでない。
著者等は以上の外尚電氣の冬芽開展の促進作用(第七圖)及びオヂギサウの葉柄の屈垂作用(第八圖)等の實驗を試みた。何れも電氣が植物に對し特殊の影響を與ふることを示してゐる。
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