電極を同心球状にした特殊管を試作して電子振動を發生せしめたる場合に如何なる振動が發生するかを實驗的に明かにしてゐる。平面電極の場合の振動を一次元電子振動,同心圓筒の場合を二次元電子振動と考へる事が出來るから,此處に發表する新しい電子振動は三次元電子振動又は立體的電子振動と考へらるべきものと思ふ。
外部振動回路の存在しない時にはグリッド電壓Vg=400V,アノード電壓Va=0Vの時に150cm程度の振動が發生し,後述の理論波長式に比較すると短い波長の振動が發生する。それと同時に興味ある事は15m近くの長い波長の振動が發生する事であつて,これはダイナトロン型振動ではない。矢張り電子的原因に依る負性抵抗が振動の基因と思はれ丁度マグネトロン振動のB型に相當するものであらう。
次に外部回路が存在する時にはその長さの變化に依つて波長は變化するが,普通の眞空管に於ける結果の如くG.M.振動の範圍とB.K.振動の範圍とが明かでなく,もつと現象は複雜である。一般に理論波長式に比して振動波長は短く,又低電壓に於てよく80cm,60cm程度の振動が發生する。これ等の振動は矢張り外部回路に支配され,非常に強勢であつて波長は電源電壓の變化には無關係であるが,或る電壓の處で急に他の波長の振動に飛躍する。そして普通はグリッド電壓が高くなると波長が短くなるのに反し,グリッド電壓が高くなると長い波長に飛躍する。理論式で波長200cm以上の時でもこれ等の短い振動が發生するのであるが,これは所謂矮小波ではないと思ふ。又定波長の變調の可能性に就いても論じてある。
これ等の短い波長の振動は陽極が負の時に發生し,その時陽極電流は流れず精密に測定した處,却つて負電流が流れて居る事を知つた。これは面白い事である。
纎條がスパイラルになつて居るので,これまでのグリッドスパイラル振動に對して纎條スパイラル振動が發生する事を知つた。纎條回路の長さに依つて波長の變化する範圍と影響を受けない範圍及び波長が飛躍する範圍とがある。この事は丁度G.M.振動とB.K.振動とが交互に發生する時と類似して居る。
次に電子運動が三次元的に行はれて居るか否かを知る爲に波長140cmの振動と波長60cmの振動とに對して三方向に磁界を向けてその影響を見たがVa=0Vの時にはあまり一樣に振動して居ず,或る方向の磁界の場合には振幅が約2倍迄増加すると言ふ特異なる新現象を發見した。併しVaが充分負の時には空間電荷の存在の爲に電子運動は略三次元的に行はれて居る事を知つた。
出力の測定の結果約1W程度の振動である事が知れたが,能率が比較的悪いのは管の設計指針即ちアノード半徑とグリッボ半徑との比ra/rgやグリッドの構造等が未だ圓筒形の如くに明かにされて居ないからやむを得ないので,もつとそれ等を研究すれば電子を三次元的に運動せしめるのであるから,普通の圓筒形の場合よりも能率が高くなり得る事は明かである。
矮小波はかくの如き球状電極に於ても發生する。第一次の矮小波は明かに存在し,第二次以上のものも存在するらしいがその測定の結果は整然として居ないので明かな事は言へない。
最後に電子の走行時間を考へ三次元電子振動の場合の理論波長式を種々なる場合に就き導き出し,波長と電壓關係を理論式より求めて圖示したが,一般的にはB.K.式,Scheibe式に比し同じ條件では僅かに波長が長くなり,實驗結果では波長式の與へる波長よりも常に短い振動が主として發生するので波長式の當否は未だ確たるものではない。
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