本研究にありては,刷子放電の状態にありては電子のみの運動が許されると云ふ考案に立脚し,電界に殘されたる正の電荷の影響を加味して,刷子放電より火花放電への推移に關する一考察を試みて居る。
極めて整然たる形状を有する正のLichtenberg像を生ぜしむるが如き衝撃電壓の下にありても,その電壓を増す時は,放射状に走つて居る幅廣き枝と枝との間に,細い枝が現れ,而も,後者の中のいづれかが,Gleitfunkenに迄發達する事を認めた。此事實に基き,正の刷子放電により生じた針状電極附近の正電荷は,圖形の發達と共に發生した電子群により中和され,その結果,針電極附近の電位傾度は再び高められるに反し,圖形の尖端の電位傾度は比較的高まり難くなると考へた。從つて針電極附近に發達した第二の放電は,火花放電に迄進展し得るに反し,最初に現れた圖形は,刷子放電の状態に止まる事となるであらうとの考察を與へて居る。
而して,第二の放電が一旦針電極附近に發生するや,その發達に對しては,最初に現れた刷子放電圖形上に殘された正の電荷は寧ろ邪魔となる故,第二の放電は最初に現れた幅廣き枝の間を縫ふて進む事となる。從つて,Gleitfunkenの尖端に於て發生した刷子放電圖形が,最初に現れた幅廣き枝と交叉する事あるも,暫く重なつて進むが如き事のないのも同様にして説明出來る。
此考察に從へば,針端對平面電極間の空間放電の場合に於て,正の火花放電は必ずしも針端電極の眞下に於て平面電極に到達するを要せぬ事が説明し得られる。同様にして,電光型の火花路も亦説明し得られるやうに思はれる。
負放電にありては,Gleitfunkenの通路は,常に刷子放電圖形の枝の中に横はると云ふ事實より,Gleitfunkenの發生に對しては,針電極より放出された電子が重大なる役割を演ずるものと思はるゝも,如何にして針電極より電子を放出せしめ得るかと云ふ點に關しては,今後の實驗に俟つ他はない。
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