I. 量子論の生ひ立ちより説き起し、光、電子、プロトンの一見相矛盾せる波動、粒子なる二重性を述べ、之れは吾々が、從來の物理的概念、用語を捨て得ざる以上、吾々の實驗結果を最も簡單に表現するものとして、到底避くべからざるものなる事を示し、茲に光、電子、プロトンは、此の兩面を具備せる實在なる事、舊物理學に比類なきを明にした。此の因つて來る所は、量子論では、測定を行ふ主體と測定さるゝ對象との間に、無視し得ざる相互作用があり、此の兩者の間に、舊物理學の場合の樣な、截然たる境界を置く事が出來ぬ爲めである。
その結果として量子論に於ては、時間、空間の位置並に、エネルギー、運動量の測定に際し、原則的不確定度の存する事を示し、如何なる測定に於ても、同時に是等を全部、限りなく正確に求むる事は不可能であつて、前二者を正確に測定するには、後二者に關する智識の正確さを犠牲とせねばならぬ事、逆に後二者の正確な値は、前二者の不正確さを以つて購はなければならぬ事を述べた。之れからして直ちに、上記の二重性は決して矛盾ではなくてa)時間、空間の問題では、波動性が表はれて、エネルギー、運動量と云ふ粒子性が姿を隠しb)エネルギー、運動量の問題では、時間空間の問題である波動性は見えなくなつて、粒子性が表面に現はれて來るものなる事、恰も盾の兩面を見て居るものに外ならぬ事を明にした。
此の當然の歸結として、古來物理學の信條として來た、因果律に重要な制限を生ずる事となり、a)の場合には確率を與へ得るのみで因果律は成立せず、只b)の場合のみに之れが行はれる事を解説した。
II. 終りに附りとして、簡單に丁抹CopenhagenのBohr教授の教室の話を加へた
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