遞信省電氣試驗所平磯出張所では電波傳播の研究に資する目的を以て昭和9年以來電離層の實驗を行ひ來り,その結果は前報告即ち「電離層電子密度の年變化」に於て報告した。而してその報告中に述べられたE層に關する實驗結果を取り上げ,之を基礎として考察して見ると,太陽の輻射に關し今までと異つた見地から若干の資料が得られる事が明かとなつた。尤も之は吾人の當初の目的としては全く別箇の問題に屬するけれども,電離層の研究が太陽の輻射の研究に對して一つの手段を提供するものとして注目すべきものであると信ずる。
即ち先づE層の電離が太陽の位置と活動性とに對して如何なる關係にあるかを定め,之よりE層の電離を生ずべき太陽の紫外線輻射の量が年々黒點數の變化に伴つて如何に變化するかを明かにした。
次に太陽面に現れる白斑,黒點等の研究觀測結果を參考として上述の如き紫外線輻射量の變化が太陽の如何なる部分乃至現象に基因するかを考察したる結果,
(1) 太陽面に現れる白斑の影響が甚だ大なる事を知るに至つた。
以上は實驗結果の毎月の平均値を基礎とする考察の結論であって,即ち白斑の現象が旺盛な頃には平均としてE層の電離を生ぜしめる輻射の量が大であり,白斑が殆ど認められない頃には旺盛時の平均約40~50%迄に輻射の量が減少するといふのである。
そこで次に上記の如き白斑が各自獨立にE層或はその他の層の電離に直接の影響を及ぼすや否やの問題が生じて來る。此の問題を研究する爲には,日蝕時の實驗が恰好の手段となる事を述べ,過去の日蝕實驗結果を吟味して次の如き結果を得た。
(2)昭和11年6月19日の日蝕實驗結果によると,大なる白斑の出現する際にはF1層の電離の急激な増大が認められた。此の結果から見る時は,今後日蝕の機會に白斑箇々の直接的作用に就て適切な實驗を行ふ必要があると言ひ得る。
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